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一度でも引きこもると500万のローンも組めない現実
2016.08.25
引きこもる人が何とか社会につながったとしても、自立後の課題が立ちふさがる。
引きこもり経験のある京都府在住の「たなかきょう」さん(芸名、40歳)は現在、月18万円ほどのNPOで働く傍ら月に4~5回、ライブ活動を行っている。ライブの収入は、年に50~60万円くらいだ。CDも出している。
元々、たなかさんは、ライブハウスに行けるようになったことがきっかけで、社会に出られるようになった。
26歳から4年間、電車にも乗れない
原因は幼少期の両親に?
18歳の頃から断続的に引きこもってきた。本格的にこもったのは、26歳のときから4年間。壁から声が聞こえるような気がした。皆が見ているような気がして、怖くて電車に乗ることもできなかった。自分でも「引きこもっているんだな」と感じた。
自分が引きこもったのも、幼少期の父親が原因だったと思っている。
「期待してくれてたんでしょうけど、“できへんかったら死んでしまえ”などと殴られました」
父親には、しんどいとき、わかってほしかった。一般論で「これが正しい」と理論をすり替えるのではなく、もっとありのままの感情論を聞けたら良かったなと思う。
母親も「あなたのためだから」とよく口にした。自分のためでいいのに、自分のために、とは言ってくれなかった。
だんだんと自分を追いつめている感じがあった。聞こえてくるような気がしたのは、自分の声だったのかもしれない。ただ、自分の中でずっと闘っているように思えた。
「なんで生きてるんだろう?」
死ねないことがつらかった。子どもの頃から、存在感の薄さを感じていた。
きっかけがあれば、死にたいと思った。でも、何もできなかった。
「それなら、もういいや、できなくてもいいから、やりたいことをやろう」
匿名チャットがきっかけで歌の道へ!! ライブ開催、CD発売も
元々、音楽が好きだった。29歳の頃、ギターを弾こうと思って教則本を開いたら、弾けなかった。そこで、教則本を放り出し、歌をつくってやろうと思った。
当時、毎日自宅にこもっていたので、ネット上の「チャットの部屋」を1日中、管理していた。「引きこもり」という言葉はなかったものの、昼頃から部屋をウロウロしている人に「ふだん何をしてるの?」と聞かれた。
「音楽つくってるの」などと答えているうちに、ある男性が自分のつくった音楽を聞いてくれた。
その彼は、「明日、バイトの面接行こうと思う」と言ってくれた。「もしかしたら、自分が力になれるのかもしれない」と勘違いした。しかし、そのことがきっかけで「1度でいいから、人の前で歌ってみたい」と思うようになった。
「偶然と思い込みと勘違いが重なった」と、たなかさんは笑う。
いま振り返れば、カメラも音声もない匿名でのチャットのやりとりが、癒しになったのかなと思う。
ライブハウスを1回やってみようと、30歳で初めて自分のライブをやった。それまで心を閉ざしていたため、「見てほしい」という思い以外のことは、シャットアウトされていた。
断ち切っていた友人たちに、電話番号を知っている限り、片っ端から電話した。なぜ、あんなことができたのか。いまの自分にはできない。
「ライブして、死ぬつもりやったんだと思う」
次につなげるつもりとかはなく、ライブすることだけしか考えられなかった。
ライブハウスのスタッフから「どういう人がお客さんで来るんですか?」と聞かれたので、素直に「友人や知人に電話するんや」と答えた。
ライブの1ヵ月くらい前から、決めたことを後悔して、逆に死にたくなった。
「やることがあっても、こうなるのかという変な気づきもあって…。見えていて乗り切ったわけではない。僕の中では、見えてなかっただけです」
それでも、ライブには15~6人が来てくれた。
自作の歌を5曲披露した。緊張しすぎて、内容はひどかった。
「曲として成立していないかもしれない。ただ聴いてほしかった。誰にとかではなく…」
自分の思いのカタチを一生懸命に発信した。ただ、親には知らせなかった。親に知らせたのは、ライブ活動を続けるようになって、ずっと後のことだ。
いろいろ動いているうちに、周囲から「ちゃんと仕事したほうがいいんちゃうか」と言われた。
練習スタジオに通っているうち、叔母の紹介で、ラジオのDJに出会い、「ラジオの手伝いにおいでよ」と声をかけてもらえた。その流れで「アルバイト手伝ってくれないか?」と言われた。どれも、流されるままの出来事。自分の意思でやったのは、歌うことだけだった。
32歳のとき、1枚目のCDを出した。CDを出せたのは、同じように引きこもっていた友人が「貯金があるから、それでつくろう」と提案してくれたからだ。友人は、50万円くらい資金を出して「売れなかったら、それでいいから」と言ってくれた。
結局、CDは完売し、友人に借金を全額、返すことができた。「何もわかっていなかったからできたのだろう」と、いまになって思う。
ネットで知り合った女性と結婚も!! 500万円のローンさえ通らない
パートナーに出会うことが、生きる力につながる。
引きこもった後、ネット上でパートナーと思える女性と出会い、結婚した。「家においで」と言われ、彼女の実家に転がり込んだ。彼女の親と一緒にいると、
自分の親のように説教されることがないので楽だった。
そんな2人に、子どもが産まれた。しかし、それまで行政関係の手続きについて、まったくわかっていなかった。
妻が妊娠したのがきっかけで訪れた窓口で言われたのは、健康保険などの未納が60万円くらいあったこと。仕事に就いたものの、収入はほとんど社会保険料にもっていかれた。
子どもができて、「1人前」になるために、500万円の家をローンで買おうと思った。ところが、「履歴に空白があることや、収入が低いことと年齢」を理由に金融機関の審査が通らなかったという。何千万円とかではなく、500万円のローンさえ通らなかったことがショックだった。
なぜ、たなかさんが家にこだわっているかというと、月8万円の家賃が払っていけないからだ。500万円の家が買えれば、月2万円ほどのローンの出費で済む。
しかし、1度でも引きこもってしまった人は、親の支援が得られる場合は別として、空白の履歴などがネックになり、自分の力で家を持つ夢さえ難しくなる。
「僕が疑問に思ったのは、当時の引きこもり支援って、“外に出たほうがいい”などと、希望があるようなことしかしゃべらない。実際、この現実を話したら、就労する人が何人いるのか。就職するスキルだけを教えるのではなく、ありのままを伝えて、生き方を蓄えていく方法がないのか、一緒に探してほしい」
どうしたら、しんどい思いをしたところでつながって、皆で一緒に頑張っていけるのか。「引きこもり」経験者の自立後の課題である、幸せな生き方の道を模索し続けている。
引用先 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/99850
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