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「引きこもり支援」なぜ他人が勝手に決めるのか

2015.02.26

「医療主導」「若者就労」の視点
だけでは足りない「引きこもり支援」

約18年にわたり、「引きこもり」界隈の取材を続けてきて思うのは、当事者の視点でいまの状況を語れる“専門家”がいなかったことだ。しかし、ようやく最近、そんな専門家が育ってきた。松山大学の石川良子准教授(社会学)も、その1人だ。

『ひきこもりの〈ゴール〉――「就労」でもなく「対人関係」でもなく』(青弓社)の著書も出している石川准教授は、約15年前から引きこもり界隈の「定点観測」を続けている。そんな石川准教授にも、意見を伺った。

これからの新しい「引きこもり支援」のあり方を議論するとき、「医療主導」や「若者就労支援」の視点だけでは足りないように思う。答えの見えにくい困難や課題に向き合うとき、当事者や家族の目線からのアプローチや仕組みづくりが、ますます必要とされてきている。

その転機となるのが、4月1日に施行される生活困窮者自立支援法だ。福祉事務所が設置されている全国の市町村には、同法に基づく相談窓口の設置が義務付けられる。

しかし、筆者が全国を訪ねてわかったことは、各自治体の担当者が、どこの部署に窓口を開設するのか、どのような体制で対応すればいいのか、情報もノウハウもまだわからない――などといった現場の戸惑いだった。

意外と知られていないが、生活困窮者自立支援法がつくられた背景にあるのは、世の中の貧困化の流れだけではない。引きこもり家族会の全国組織である「全国引きこもりKHJ家族会連合会」が、引きこもり支援の法的根拠となる法律の設置を要望してきたことを受け、そうした「引きこもり支援」の要素も対象にくっつけて、同法に盛り込まれることになったのだ。

したがって、同法に基づく相談窓口の対象となるのは、経済的な理由の困窮者だけでなく、「引きこもり」の人たちを含む社会的孤立者など、様々な困難を抱える人たちということになる。そこにはたとえば、LGBTなどのセクシュアルマイノリティの人たちも含まれるという。

もちろん、形だけ相談窓口をつくって、スタッフが傾聴すればいいというレベルの話ではない。それぞれの相談者の思いを受け止めて、それぞれの意向やペースに合わせた“支援”が必要になってくる。

「相談窓口はあるけど、そこから先がない」

当事者や家族から、そんな不満をよく聞く。

縦割りの相談窓口ではなく、部署を越えたネットワークをつくって情報共有し、それぞれの相談者の意向に沿った選択肢につなげていかなければ、せっかく勇気を出して声を上げた「SOS」のタイミングを逸することになりかねない。行政に求められていることは、いわば“ワンストップ”の窓口対応だ。ネットワークでつながるためには、それぞれの地域に埋もれた多様な“社会資源”をみんなで発掘していかなければいけない。

引きこもりや家族の気持ちを理解する
「当事者性の視点」が必要に

こうした支援の仕組みを構築していく上で、これから欠かせなくなるのが、当事者や家族からの自らの経験に基づいた、当事者の気持ちが理解できる「当事者性の視点」だろう。

「最近、当事者の発信が強くなってきている。そのことは、そろそろ文書にまとめなければいけない」

石川准教授もそう語るように、昨年末、引きこもり経験者たちが支援のあり方を提案する「UX(ユーザーエクスペリエンス)会議」が開催され、300人以上が詰めかけた。

「15年の歴史が積み重なってきたからこそのUXだと思う。私もロスジェネ世代なので、当事者の人たちと一緒に育ってきた感覚が強くて、いまのような(引きこもり当事者の)達人たちが出てきたことが肌感覚でわかるんです。だから、ひきこもりフューチャーセッション(対話の場)もできるんだろうなって思うんです」

フューチャーセッションは、当事者たちが発信できる場でもあり、多様な社会資源を持った人たちとの関係性をマッチングできる貴重な場だ。

2010年、厚労省の研究チームは、『ひきこもり評価・支援ガイドライン』を10年ぶりに改訂。ひきこもる要因の第1位は、「発達障害」の27%、第2位は「不安障害」の22%、第3位は「パーソナリティー障害」の18%……などと、「引きこもり」の約95%に精神障害があったとする調査結果を発表し、当事者を「治療対象」として対応する見方が広まった。

しかし、このデータは、全国5ヵ所の精神保健福祉センターを「引きこもり当事者」として訪ねた外来患者152人の診断であって、「引きこもり」の全容ではない。そもそも、すでに5年前の調査でもある。「引きこもり支援」の入り口で、「医療主導」から一旦切り離し、必要に応じて医療などの専門家につなげる仕組みを標準化していく必要がある。現実にそぐわないガイドラインに代わって、これからの時代、新たなガイドラインづくりが求められている。

また、「若者就労支援」も、「引きこもり支援」から切り離すべきだ。利用者からの評判が悪い「地域若者サポートステーション(以下、サポステ)事業」(管轄は厚労省の旧労働省系)は、自治体の窓口で「引きこもり」の相談として訪ねていくと、紹介されていくケースも少なくない。

数値優先主義的な事業の設計が
現場で多くのミスマッチを生む

ところが、引きこもっていた当事者を「半年以内に就労させる」といった数値優先主義的な事業の設計は、現場で多くのミスマッチを生じさせている。そして、やっと意欲を持ち始めて相談に行った先で、再び当事者たちを傷つけている。

「若年者の就労支援」は必要だと思う。それならば、支援の対象外となる40歳以上は、いったいどこへ行けばいいのか。「引きこもり支援」を求める相談が、「サポステなどで対応していますから」などと同じ文脈で語られるとき、40歳以上の当事者たちは、相談の入り口の段階で選別され、社会への道筋を失うことになる。

また、社会の関係性の中で、自分の心身が傷つき、あるいは他人を傷つけてまで、なぜ人は就労しなければいけないのか。期限を区切って“就労”を急ぐのではなく、そうした本質的な問いに、周囲のほうが気づいて向き合っていくことも必要だ。だから「引きこもり支援」は、サポステなどの「若者就労支援」とは切り離して語らなければならない。

厚労省の社会援護局が進める「ひきこもり地域支援センター」の相談窓口は、昨年末現在、全国の都道府県・政令指定都市の52自治体56ヵ所に設置された。
しかし、自治体によっては、家族会や他機関などとネットワークが構築されていないところもあり、レベルの差は大きい。

また、都道府県の「ひきこもりサポーター養成研修事業」や、市町村の「ひきこもりサポーター派遣事業」も始まりつつある中、生活困窮者自立支援法の相談窓口との連携、協力も、これから必要になる。

私のことをなぜ
私以外の人が勝手に決めるのか

「結局、引きこもり問題で行きつくのは、自分のことは自分で決めるということ。私のことをなぜ、私以外の人が勝手に決めるのかというのが、当事者の人たちの憤りなんです。この視点に辿り着くまで、10年以上かかったということなんですよね」

そう石川准教授は指摘する。

これからは、それぞれの地域の中で、自立したいと考えている当事者が、社会参加のきっかけとなるようなコミュニティの場をみんなでつくり出していきたい。

 

引用先 ダイヤモンドオンライン

http://diamond.jp/articles/-/67490

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