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「引きこもり」の子どもによる家庭内暴力に対処する2つのポイント

2019.07.08

「引きこもり状態」の子どもがいる家庭ではしばしば暴力行為が見られる。このような家庭内暴力にはどのように対処すべきか。筆者のカウンセリングしたケースで、その対処法を説明する。

● 引きこもりによる家庭内暴力への 対処のポイント

 私は、今まで約8000人のカウンセリングをしてきました。その中で「引きこもり」についての相談はほとんど親の側からであり、引きこもっている子どもの側から相談を受けることは、あまりありませんでした。このことは、引きこもりの本人が他者とつながることの難しさを表しています。

 「引きこもり状態」の子どもがいる家庭では、しばしば暴力行為が見られますが、その発生率はよく分かっていません。一言で「家庭内暴力」といっても、慢性や一過性などさまざまなタイプがあります。家庭内暴力は「特定の疾病」を示すものではないために、包括的で信頼できるデータが乏しいからです。

 家庭内暴力は、「悲劇」が起こるまで表面化しにくい、という特徴があります。

 長男を殺害したとして送検された元農水次官・熊沢英昭被告は、長男が引きこもりがちになった中学生頃から、両親に対する暴力が始まったと供述しています。長男は10年以上前から別居していましたが、5月下旬に実家に戻った後、再び暴力が始まったということです。しかし、区役所など行政は、熊沢容疑者から相談が寄せられたことはなかったと言っています。

 引きこもり状態における「家庭内暴力」の対処ポイントは、「密室化」と「リミットセッティング」です。この2つのポイントを具体的に説明する前に、私がカウンセリングでかかわった事例をご紹介します。
● 県内トップの高校へ入学するも 自室にこもるようになってしまった

 ◎河野さん(仮名、男性・30代)のケース

 河野さんの家族構成は、祖母(父親の母)、両親と子ども2人(河野さんと妹)で、妹は結婚して家を出たため、現在は4人暮らしです。父親は有名大学の教授で、祖母はそれが自慢だったようです。河野さんには物心ついた頃から、「勉強して良い学校へ行き、お父さんのような立派な仕事に就きなさい」と、口癖のように言っていました。

 父親は休日も学会の出席などで忙しく、家のことは母親と妻に任せきりでしたが、息子の成績だけは口うるさく言っていました。母親は自分の考えから勉強のことをうるさく言うことはありませんでしたが、夫やしゅうとめに逆らうようなタイプではなく、息子の教育についてはその方針に従っていました。

 河野さんは、中学時代はいくつもの塾をかけもちし、県内トップの高校への入学がかないました。しかし、そのあと燃え尽きてしまって勉強の意欲がなくなり、授業についていけなくなりました。高校2年の1学期の期末テストでは散々な点数をとってしまい、そのときは“自死”を考えるほど思い悩みます。

 その悩みを、思い切って友人に打ち明けたところ、気になっていた同じクラスの女子生徒にテストの結果をばらされました。その女子と友人に、河野さんが思い悩む姿をまねされて、からかわれて以来、学校だけでなく家の外へさえ行けなくなり、自室にこもるようになってしまったということです。

 それから1年が過ぎた頃には、食事の時間になっても自室から出てこなくなり、母親以外とは一切口をきかない状態になっていました。当時一番大変だったのは、間に入っていた母親です。

 祖母や父親から「息子が引きこもり状態になったのは、母親側の“遺伝子”のせいだ」と、毎日のように責められていました。息子からはゲームソフトを買ってほしいという要求がひどくなり、応えられないと物を壊したり壁を蹴ったりして、脅すようにもなっていました。

 そしてあるとき、熱中していた人気RPGソフトを買いに行ってくれという要求を事情があって断ると、カッとなって直接暴力を振るわれる事態となりました。以後、母親に対する暴力は常態化して次第にエスカレートし、最初は胸ぐらをつかんで突き飛ばしていたのが、徐々につかみ方や突き飛ばし方が激しくなり、首を絞めたりするようになったといいます。

母親だけに向けられていた暴力は、次第に祖母や父親にも向けられるようになり、ついに包丁を持ち出して家族を脅したこともありました。そのとき、恐怖を感じた母親が警察へ通報しようとしたところ、祖母と父親は「家族の恥を世間にさらせるか」と言って、断固としてさせませんでした。

 このような生活は、河野さんが30代になったつい最近まで続いていました。

 家庭内暴力があると、引きこもりへの適切な対応は格段に難しくなります。暴力が慢性化すると、家族だけで止めることは容易ではありません。家族が暴力に耐える姿勢を示すと、ますますエスカレートしてしまうこともあります。家族はどうすればいいのでしょうか。

● 「密室化」と 「リミットセッティング」

 対処のポイントは、「密室化」と「リミットセッティング」です。

 ◎密室化

 家庭内暴力が「密室化」するのは、相談先が分からないことも1つの要因です。しかし、家族が世間体を気にしたり、本人からの報復を恐れたりして、外部とはつながりたくない、つながれないからという場合も多いようです。

 河野さんの事例では、包丁を持ち出して脅す事態になっても、家族は周囲への羞恥心から家庭内暴力をひた隠しにしていました。こうなると、子どもは、「親に暴力を振るっても制裁を受けない」と確信し、暴力によって要求を通すことができるという学習さえしてしまい、悪循環に陥っていきます。“密室化”は極力避けなければなりません。

 ◎リミットセッティング

 「リミットセッティング」とは、荒れる本人の行動や言動に対して、限界基準を設定することをいいます。家族間で、「ここまでは受け入れるが、ここからは受け入れない」という限界の線引きを、しっかりしておくということです。

 当然、暴力を受け入れるところに限界を設定してはいけません。家庭内暴力では、暴力そのものがコミュニケーションの機能を持ってしまっています。「リミットセッティング」がないと、本人とのコミュニケーションが徐々に家庭内暴力へ進行してしまうのを、阻止できないのです。

 河野さんのケースでも、物を壊すなどの間接的な脅しから、突き飛ばす、首を絞めるなどの直接的な暴力に移行しています。この心理的背景には、主に母親に対する「退行現象」(赤ちゃん返りなど)があったといえます。

 「退行現象」といっても、本当に赤ちゃんのように甘えるケースもあれば、自分の要求をなんとしても通す“甘え”などもあります。いずれの場合でも、引きこもり状態において退行現象が出現してくると、小遣いの要求やゲームの買い出しの要求など、難しい要求が出現してきます。そして、その要求を断ると暴力が出現し、エスカレートしていくことも多いといわれています。

● 「傷ついている」ことを 家族が理解する

 次に、「密室化」と「リミットセッティング」を対処法として使うポイントをお伝えします。

 ・大前提として、引きこもり状態になっている本人は「傷ついている」こと、今の状況に満足していないことを、家族が理解することです。⇒ 部屋から一切外に出なければ心が傷つくことはないので、「今の安全な環境」を維持することに執着しているということを理解します。

 ・その上で、家族は「家庭内暴力を絶対に容認しない」という姿勢を貫き、暴力に屈するのではなく毅然とした態度で接することです。⇒ この「リミットセッティング」を、家族間で共有しておく必要があります。

 ・子どもが引きこもり状態になったら、両親だけでも早い段階でひきこもり地域支援センターなどの外部機関に相談することが重要です。⇒ 精神疾患のおそれがある場合も含めて、子どもに対する適切な対応法を身につけておきます。正確な情報を収集することが不可欠です。

 ・家族を被害者にしないためにも、そして子どもを加害者にしないためにも、暴力が激しい場合には警察へ通報することや、一時的にシェルターなどに避難することも必要です。⇒ 警察へ通報する「リミットセッティング」を、本人も含めた家族間で共有しておくことが重要です。

 ・子どもが暴力以外の方法で家族に意思や要望を伝えたときには、その声に耳を傾けるべきですが、本人の要求をすべて受け入れることは危険です。⇒ 常識とかけ離れた考えや要求であっても、本人の話を否定したり、遮ったりせず、誠意を持って聴きます。その上で、かなえられない要求については、丁寧に無理な理由を説明する必要があります。

 私自身が河野さんのケースで相談を受けたのは、すでに結婚して別居している河野さんの妹さんからでした。妹は、年老いてきた両親が引きこもり状態の河野さんから激しい暴力を受けているのを、実家に帰る度に目にしていました。両親には外部機関への相談や通報を提案しましたが、世間体を気にしてかたくなに拒んでいたそうです。

 しかし、最終的には第三者である専門家が間に入り、暴力がひどいときはシェルターなどを利用して物理的な距離を置き、今では暴力が許されないという状況が醸成され始めているそうです。

引用先:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190708-00207970-diamond-soci

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