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引きこもり当事者が教える「引きこもり学」の思わぬ反響

2019.07.11

● 「引きこもり当事者」が教える 引きこもり経験から学んだこと

 何もないところから居場所を立ち上げ、維持していくのは並大抵のことではない。

 しかし、そんな地方の都市で、生きづらさを抱えた当事者たちが居場所をつくり、引きこもり経験者を講師とする「ひきこもり学」と題する講演会を開いたところ、川崎市の児童らの殺傷など一連の事件の影響もあって、定員を超える67人が参加。会場は立ち見が出るほどの盛況ぶりだったという。

 「社会には、居場所がない。皆、ひっそりと息をひそめて、自分を責めている」

 6月23日、大分市内でこのように「ひきこもり当事者が、ひきこもり体験から学んだこと」という趣旨の講座を企画したのは、自らも当事者である佐藤尚美さんらがつくった「居場所~特性を生かす道~」。この日、実名で顔を出して講師を務めた桂木大輝さん(24歳)も、主催者の1人だ。

 企画したきっかけは、KHJ全国ひきこもり家族会連合会が昨年、大分と宮崎の支部で開いた「つながる・かんがえる対話交流会」に、佐藤さんもファシリテーターとして参加したところ、「当事者の話を聞きたかった」という話を何度も聞いたからだという。

 「確かに地方では、引きこもり当事者の話を聞く機会はなかなかない。そこで、当事者の中でも講師に合っていそうな桂木さんに声をかけたんですが、最初は『恐い』「と断られました。でも、『引きこもりながら自分を売って行く方法もあるよ』『居場所のみんなが全力で守るから』ってアドバイスして……。それでも、批判されるのでは?と恐がってました」(佐藤さん)

 「居場所~特性を生かす道~」では、おしゃべり会を開催している。そこで佐藤さんは、桂木さんにもともと好きなコントの時間を割り当てた。すると、参加者たちが桂木さんのコントを評価。新聞記者から取材もされた。そのとき、本名を出すことを迫られ、悩んだあげく、「自分が広告塔になって、色々な傷ついてきた人たちが活動している私たちの居場所を知ってほしい」と決意したという。

 会場は、県の社会福祉協議会に協力してもらい、無料で借りることができた。また、ツイッターでたまたま知り合ったIT企業、ゾディアックデザイン株式会社の社長から「面白いことをしている。お手伝いしましょうか」と声をかけられ、協賛金を出してもらえた。それでも講師代が出なかったため、当日の寄付金で賄った。

チラシは、居場所のアーティスト部門の当事者たちが作成。講演会当日も、スタッフの多くが当事者だったため、がくがく震えながら進行したという。

 「ひきこもり学」をネーミングした佐藤さんは、「桂木さんが、いつも哲学などの学問的なことを考えていたので、『ひきこもり』とはどういうことなのか。広く社会の人たちに学んでもらいたい」と思ったという。まさに、当事者たちが発案して普及した、当事者が講師になって自由に思いや知見を社会に伝える「ひきこもり大学」の思想に似ている。

● 「自分も同じことをするのでは……」 今も当事者を悩ます川崎事件の衝撃

 当事者団体主催のイベントではあるが、参加者は一般の興味ある人や行政、当事者家族が多かった。最後まで立ち見して熱心に聞き入る議員の姿もあったという。

 当日、会場からは「心に響きました」「勇気をもらいました」といった反応が多かったものの、一方で「甘えるな」という発言もあった。しかし、他の参加者には「知りたい」「聞きたい」という切実な思いの当事者や家族が多く、「今は、そういう話ではないんだよ」と、会場内で「甘えるな」の発言者を諌めるシーンもあったという。

 「事件後、私の元に来た相談の中にも『孤立しているから、自分もそんなことしてしまうのではないかと不安なんです』と悩んでいたので、『私たちとつながっている限りは絶対にないから。大丈夫』と伝えました」(佐藤さん)

 筆者のもとにも、孤立した人たちから「助けて」「恐い」「同じような仲間と出会いたい」といった相談は、今も続いている。同じ当事者仲間からの「大丈夫」の声がけは、きっと安心することだろう。

 「私たちは、この居場所を1つの障害や特性にこだわらず、“ひきこもり”という大きなくくりの中に置きました。どうしたら前向きに生きていけるかをみんなで真剣に話し合って、大概は明るく終わっています」(佐藤さん)

 今回、舞台を設定してもらい、顔を出して講師を務めることを決めた桂木さんは、「負けたくなかった」と話す。

 桂木さんは高校2年のとき、引きこもった。中学時代、友人がいなくて浮いていたとき、身体の大きな同級生とその取り巻きに目を付けられ、集団で暴力的ないじめに遭ったときの傷も、間接的に影響しているのではと振り返る。

● 支えてくれる人たちがいれば いくらでも外に立つことができる

 「このまま外に出なかったら、学校やいじめた相手に負けてしまうという思いが今もずっとあった。引きこもりになったら、ずっと部屋から出ないというイメージとは違う。周りの支えてくれる人たちや環境があれば、いくらでも外に立つことができる。あのときいじめた相手のように、イエスマンを置かなければ何もできない人が日本には多い。でも、自分は1人でも堂々と立てることを、身を持って証明したいという思いも強かったんです」(桂木さん)

 過去の職場での体験から、桂木さんは就労をあきらめ、今も仕事をしていない。両親のいる実家からは離れているものの、祖父の経営する旅館で生活しているため、ほとんど生活費はかからないという。ただ、今後は佐藤さんらと居場所での活動を拠点に、もともと好きだったコントの世界で生きていこうと修行中の身だ。

 講師の謝礼金は会場からの寄付金で賄わざるえないものの、佐藤さんはこう話す。

 「次回以降の公演で、大分市を離れて地方の街に行くと、参加者の数も少なくなり、募金も集まらないかもしれない。それでも活動を続けていく意味はあるかなって、みんなで話をしています」

 次回の公演は、8月11日、別府市社会福祉会館で「第2回ひきこもり学」を開講する予定。お問い合わせは、会のホームページで。

引用先:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190711-00208372-diamond-soci

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