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増える「発達障害グレーゾーン」 しんどさ続き、浮く存在に

2019.03.12

同じミスを繰り返す。片付けができない。人とのコミュニケーションがうまく取れない--。そんな自分を「発達障害ではないか」と疑う大人が増えている。病院で発達障害と診断され、生きづらさの理由が判明する人がいる一方で、「発達障害の傾向はあるが、診断できない」と伝えられる「グレーゾーン」の人も多い。その現状を追った。

医師により判断バラバラ/環境に配慮した治療計画必要
 <バイト先ではいつもミスをして怒られ、後輩にバカにされる>
 <私はどうも周りの言っていることと私の言っていることがいまいちかみ合わないような気がしているのです>
 これらは一人芝居「私」の中で取り上げられる発達障害で悩む主人公の姿だ。脚本・主演を務める劇作家の増田雄(ゆう)さんも、発達障害の「グレーゾーン」という状況下で生きてきた。学校生活では「おかしい」と思ったことをすぐ口にしたため、教師たちからは生意気だと嫌われた。相手の話に合わせることもできない。うまく交友関係が築けなかったが「映画を撮るなど好きなことをして、しのぎました」と苦笑いする。
 明らかに自分がおかしいと思ったのは就職してから。飲食部門に配属されたが、ウエーターの仕事が全くできない。「皿を下げたり、ナプキンの補充をしたり。新人は気が付いたことをやるだけなのですが、ただボーッと立っているだけ。しかも上司に何度も怒られても直せないんです」と振り返る。
 困惑した末、精神科を受診した。心理検査を受けた後、医師から「注意欠陥多動性障害(ADHD)の傾向がある」と言われた。傾向があっても発達障害の診断には至らない「グレーゾーン」で、その特性を書かれたパンフレットを渡されただけだった。増田さんは当時を思い起こす。「今までの困難はADHDに原因があった、とすっきりしました。ただ、時間と金を使って診断を受けた割には何もしてくれないんだと思いました」
 その後、舞台の世界で生きる決意を固め、道を自ら切り開いた。「得意なことを生かせたので自分はラッキーでした。それができず、ただグレーゾーンだったら今も困っていたでしょう。他のことは人並みにはできないですから」と話す。
 発達障害の認知度が高まるにつれ「グレーゾーン」の人が増えているようだ。発達障害の当事者でもあり、昨年末に「発達障害グレーゾーン」(扶桑社新書)を出版したライターの姫野桂さんは「発達障害ではないか」と悩んでいる人々の取材を繰り返した。「多くの人が重度の症状はないんです。仕事もしているし、完全に孤独というわけでもない。でも、すごく頑張って社会で働いても、周囲からは仕事ができないと見られていることが多い。残業もして、資格取得のために学校にも通ってなどと、努力しているのに、ギリギリの状態で生きている人たちなんです」と説明する。姫野さんは、彼らのことを親しみを込めて「グレさん」と呼ぶ。

「グレさん」たちの環境は厳しい。「病院によっては、心理検査をして医師から『発達のでこぼこはあるね』『発達障害の傾向はある』と言われて終わり、という場合もあります。そうなると、その次の方法、生活習慣や対人関係をどうしていったらいいのかといった相談をする場所や、その解決法は自分で探さなければなりません」

病気と診断されないため医療費の助成はない。治療を望む場合は、自費で高額なカウンセリングなどを受けることになる。支援グループや相談機関を訪れようとしても開設時間はだいたい平日の日中だ。「会社や社会で浮きそうになっているのを努力でカバーしているグレさんたちにとって、平日に休んでそういう機関とつながるのは、かなりハードルが高い。何とか支援機関につながったとしても、もっと症状が重い人が中心になっていることが多く、そこでも浮いた存在になりがちです」と姫野さんはため息交じりに話す。結局、「解決」は本人の努力に任されることになるのだ。
 なぜ「グレーゾーン」が生まれるのか。大人の発達障害外来がある北里大東病院(相模原市)の院長で、精神科医の宮岡等さんが解説する。「発達障害の一つの自閉症スペクトラム障害(ASD)やADHDで、典型的な症状の強さを10とすると、『普通』と見られる人でも0の人はいません。では、7と8の間に線を引いて8以上を障害と見なすのか、4と5の間に線を引くのかということは医師や研究者でも判断がかなりバラバラなんです」。一応、診断基準はある。米国精神医学会が出している診断と統計マニュアルや、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類などだ。「でも大人では、これに当てはまるかどうかという判断が難しい。幼い頃の発達歴を聞き、過去や現在の環境を知り、他の病気と鑑別することで初めて診断がつくものなのです」と説く。
 例えば、明らかにASDと思える人でも周囲の環境が合っている人と、ASDの程度は軽いが合わない環境にいる人では、憂鬱感や不安感という「症状」に悩まされるのは後者の人に多い--と宮岡さんは説明する。「発達障害の要因はそれほど強くないけれど、育ち方や環境などの影響が重なることで、グレーゾーンと判断されている人もいるようです。安易にグレーゾーンなどというと、典型的な発達障害の人以外、ほとんどの人はグレーゾーンにいると言ってもおかしくないでしょう。対応や治療をアドバイスしないで、『グレーゾーンだね』で済ませては何の意味もありません」
 大人の発達障害が広く知られるようになっても、適切に診断し、その後の環境調整まで診られる病院は限られているようだ。そのため「グレーゾーン」と医師に告げられたままで、しんどさを感じながら生活している人がいるのが現実なのだ。
 精神科に勤務するある臨床心理士が声を落として明かす。「15年ぐらい前、特に大人の精神科では『発達障害って何ですか?』という医師ばかりでした。きちんと診断して治療方針まで立てられる医師は今でも多くないはず。それなのにこれだけ発達障害を診る病院が多いということは、患者が集まってくる『もうかる病気』と考えている医師がいるからでしょう」。診断を求める人が増えているのと比べて、治療環境は整っていないと危機感を募らせている。
 企業で産業医もしている前出の宮岡さんは「大人の発達障害は、診断による弊害も大きい」と警告する。「人事配置や職場環境の調整で改善されるような人を『発達障害だから仕方ない』と放置してしまうこともあるようです。安易に、ある社員を『発達障害の傾向がある』と判断しても、本人と会社が一緒にその後の方針を考えなければ本人の大変さは何も改善しません。発達障害という言葉を出すなら『こんな対応が必要だ』『傾向はそれほど強くないから何とか環境調整でやれるようにしよう』などと本人に説明した上で、産業医のアドバイスを受けて職場が対応しなければなりません。今は発達障害の傾向だけを指摘して、それで終わる医師が増えているようで気になります」

「発達障害」や「グレーゾーン」と線引きするのではなく、困っている人の環境に配慮していく--。そんな社会になれば「診断ブーム」は下火になるのかもしれない。

引用先:https://mainichi.jp/articles/20190312/dde/012/040/005000c?inb=ys

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