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夫の不倫が原因で子供を愛せなくなった… 分断する夫婦の進む道
コロナ禍は私たちの日常を大きく変えた。それは夫婦関係も然り。お互いを見直し、仲がよくなる夫婦がいる一方、決定的な亀裂が入った夫婦も。カウンセラーはそんな夫婦をどう導くのか──。『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』などの著書のある家族問題カウンセラーの山脇由貴子さんがレポートする
「寂しい」「早く会いたい」 夫が話す声が聞こえてきた
相談にいらしたのは、夫との関係に悩んでいる、という女性でした。 夫/隆弘(42歳) 自営業 妻/美紀子(37歳) 専業主婦 息子(5歳) 妻の美紀子が離婚を考えたきっかけは、夫の不倫でした。そしてコロナによる夫婦関係の悪化も関係していました。夫は自営業ですが、新型コロナ感染拡大防止のための緊急事態宣言を受け、テレワークに切り替えたことで、一日中一緒に過ごすようになり、夫婦関係が悪化した、と言うのです。 「もともと、夫は朝早く家を出て、深夜近くに帰ることが多かったので、夫婦で顔を合わせる時間はほとんどなかったんです。でも、テレワークになって一日中家にいるようになって、一緒にいる時間が短かったから、どうにかやってこられたということがわかったんです」 美紀子は私に言いました。 「食事を一緒にとるようになると、夫は私の作った料理に文句を言うんです。『うまくない』『こんなもの食べたくない』と言って、食べずに自分でコンビニに買いに行ったりしていました。食べないなら、最初から言ってくれればいいのに、食べ始めた後に文句を言って残すんです。それに、自分が仕事をしているからって、掃除機をかけているだけで『うるさい!』と言われたりもして、家事をするのも大変でした」 そして夫のだらしなさも目に付いて仕方がなかった、と言います。 「脱いだら脱ぎっぱなし、食べたら食べっぱなしで、一日中片づけ続けている感じでした。それに、私には何かと『うるさい!』と文句を言うのに、自分が夜、お酒を飲み始めると、大音量でテレビを観て、大笑いしたり番組内容に文句を言ったり。本当に迷惑でした」 隆弘は、テレワークとなる前はお酒は外で飲んで来るので、家で飲むことはほとんどなかったそうです。ですが、緊急事態宣言下では、外で飲むこともできなかったため、長時間、家で飲むようになったのです。 そんな中、隆弘の不倫が発覚します。 「なんだか、スマホをいじっている頻度がすごく高いんです。仕事部屋にいる時はわかりませんが、食事中も、晩酌をしている間も、ずっとスマホを気にして、いじっていました。それに、電話がかかってくると、ベランダに出たり、仕事部屋に入ってから電話に出るんです。おかしいな、と思っていました」
ある日、美紀子がお風呂から上がったことに気づかなかった隆弘が電話で話している内容を聞いてしまいました。 「『寂しい』とか『早く会いたい』って言っているのが聞こえました。これは浮気だな、と確信しました」 美紀子は、隆弘が寝ている間にスマホを見ました。 「ロックもかかっていなかったので、疑われているなんて思ってもいなかったんだと思います。もしくは、知られてもいい、と思っていたのかも」 隆弘のスマホの中には、特定の女性とのやり取りが残されていました。それも仕事の関係者で、美紀子も知っている女性だった、と言うのです。 「『早く会いたい』『こんなに長く会えないなんて耐えられない』などの他にも、いやらしい文面もありました。私、気持ちが悪くなってしまって」 それから、美紀子は隆弘に対して生理的嫌悪感を抱くようになってしまいました。 「正直、夫の顔を見ると、LINEの文面がフラッシュバックのようによみがえって、感情が不安定になりました」 その頃から、離婚は頭の中に浮かんでいた、と言います。美紀子は一度だけ、隆弘に浮気をしているのを知っていることを伝え、認めるように問い詰めたのですが、夫は「仕事の関係だ」「身体の関係はない」と否定し、それ以上の話し合いには応じてくれなかったそうです。
「ママは大好きだけど、悲しい気持ちになる」
さらに美紀子を悩ませたのが、育児でした。 「1回目の緊急事態宣言中は、幼稚園が休園になってしまったので、息子もずっと家にいるようになったんです。放っておくわけにもいかないので、一緒に遊んだり、お勉強をさせたりしていたんですが……」 美紀子は言葉を詰まらせながら言いました。 「子どもが可愛く思えなくなってしまったんです」
その理由は「夫に似ているから」でした。 息子は、顔立ちが隆弘にとてもよく似ているのだそうです。なので、隆弘に生理的嫌悪感を抱いてしまった美紀子は、息子の顔を見ても、隆弘と重なってしまい、可愛いと思えなくなってしまったのです。 私がかつて児童相談所に勤務していた時も、子どもを可愛いと思えないお母さんの中には、その理由が「夫に似ているから」と言う人はたくさんいました。夫婦関係の悪さがお母さんの子どもへの感情を悪くしてしまうことがあるのです。深刻な虐待に発展する場合もあるので早急に夫婦関係改善のためのカウンセリングが必要です。 そうした懸念について私が伝えると、美紀子は言いました。 「もちろん、面倒は見ていました。食がなかなか進まない子なので食べさせるのですが、食べるのを嫌がると、それも夫と重なって……。つい、顔を見ないように、スマホを与えて一人で過ごさせたりしていました」 子どもの行動の中で特に苦しかったのが、夫に言動が似ていることだったと苦渋の表情を浮かべます。 「私が『早く食べて』とか、注意すると『うるさい!』と言うことがあって、その口調が本当に夫に似ているんです。その時は耐えられなくて、すぐに離れてしまったりしていました。そうすると子どもが追いかけて来て、それも嫌になって、寝室に閉じこもることもあって。子どもが部屋の外で泣いている間、耳をふさいでいました」 隆弘は育児を手伝ってくれるわけでもなく、美紀子はどんどん追い詰められて行きました。 「離婚はずっと頭の中にありましたが、経済的な問題に加えて、当然私が息子を引き取ることになると思うと、息子と2人での生活に耐えられるのかも不安で……」 美紀子は、現実的に離婚は難しいとわかっていても、今の生活を続けるのはもう限界だと感じ、カウンセリングにやって来たのです。 私は、まず美紀子の心理テストを行いました。その結果、心の状態は非常に悪く、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の状態にあり、悲哀や抑うつが非常に強く、フラッシュバックが頻繁であることがわかりました。夫に対する拒否感は未だに強く、ただ、息子に対しては愛情と拒否が混在していて、今はどう接していいのかわからない状態でした。 私は息子の、隆弘と美紀子に対する感情を知る必要があると思い、美紀子に息子を連れて来てもらいました。これからのことを考えるにあたって、息子の心情を重視しなくてはなりません。息子の心が傷ついていないかを確認することも重要です。
息子は最初、美紀子と離れることを嫌がりましたが、美紀子に席を外してもらい、話を聞くことができました。幸い、隆弘は息子に厳しく当たることはないため、隆弘のことは好きだ、と言いました。続いて美紀子について尋ねると、 「ママは大好きだけど、最近、一緒にいてくれない時があって、僕が泣いても側に来てくれなくて。僕、ずっと泣いちゃう。それに、呼んでるのにこっちを向いてくれなかったりする」 と打ち明けました。 「そんな時、どんな気持ちになる?」 と私が尋ねると、息子は「悲しい気持ち」と答えました。心が傷ついている、ということです。このことを美紀子に伝えると、美紀子は涙ぐんでいました。
浮気を認め謝罪しなければ、夫婦の関係修復は不可能
私は、私自身が隆弘を理解する必要があると感じ、次回のカウンセリングに隆弘に来てもらうことを美紀子に提案しました。隆弘が美紀子とやり直したい、という気持ちを持っているのか、浮気を認め、反省して謝罪する誠意があるのか。そして美紀子の今の心の状態、息子への影響、息子の心情を伝えた時に、自分が努力しなければ、という気持ちが持てる人なのか、変わろうと努力できる人間なのかを確かめるためです。 隆弘は最初は嫌がっていたそうなのですが、美紀子が今も浮気を疑っていることと、離婚を考えていることを伝え、第三者を交えて話をしたいと告げると、カウンセリングに来ることに同意してくれたのです。 私は、隆弘に、美紀子が浮気について確信を持っていることや、今後、夫婦関係を維持していくのは難しいと思っていることを伝えました。隆弘のスマホを見たことは伝えても構わないと美紀子から言われていたので、その事実も伝えました。そして、美紀子の精神状態についても伝え、 「かなり追い詰められているので、このままだと育児には間違いなく影響があります」
とも伝えました。さらに、美紀子が息子を可愛いと思えなくなっている現実と、その原因が隆弘にあることも伝えました。美紀子は隆弘と息子への感情を以前のように戻すのは難しい、と思っていることや息子が傷ついていることもストレートに伝えました。隆弘の素直な反応を見るためです。 隆弘は、最初は自分が責められていることに少し腹を立てている様子でしたが、美紀子の精神状態と息子への影響の話を聞き、表情が変わってきました。 「そこまで追い詰められているとは……。僕から見ると普通に生活しているように見えたので。家事もやってくれていましたし。でも、息子のことをそんな風に」 愛情を注がれずに育った子どもの将来がいかに辛いものになるか、私はそこを特に丁寧に説明しました。それが隆弘の心に響き、息子の将来を考えてくれるかを見るためです。 「面倒を見てもらっていても、愛情を注がれていないのは子どもにはわかるものです。年齢を重ねていくうちに、精神的に具合が悪くなり、うつ病になったり、人との関係が作れなくなったり、人の顔色ばかり窺うようになったりします。自殺したい、という気持ちを抱く子もいます」 それは避けたい。隆弘はそう言いました。そして、 「私は離婚したくありません。言葉にはしていないけれど、妻には感謝している面も、もちろんあるんです。そして一緒に過ごすことは少ないけど、子どもにも愛情はあります。離れたくありません」 隆弘は「私は何をすれば?」と聞いてくれました。隆弘には努力しようという意思があったのです。 私はまず、浮気を認め、美紀子に心から謝罪するように言いました。隆弘はこれにはかなり抵抗していました。 「一生、責められ続けませんか?」 「一生責められ続けるかもしれませんね。それでも、しなければ関係修復は不可能です」 私が一生責め続けられるかも、とあえて言ったのは、楽観はしてほしくなかったからです。 仕方ない、と隆弘は言ってくれました。さらに私は美紀子の今の精神状態を考え、多少仕事に影響があっても、育児を積極的に手伝うように話しました。 「それは、どうにかできると思います」 隆弘は育児のための時間を作る約束をしました。
2人一緒のカウンセリングで気持ちの変化を確認する
美紀子と隆弘に一緒に来てもらうことにしました。夫婦2人での話し合いではお互い感情的になってしまい、うまくいかないだろうと思ったのと、美紀子が言いたいことが言えないかもしれない、と思ったからです。私が同席する場面で、隆弘は自分の思いを伝え、美紀子は自分の言いたいことを言う。それが必要だと判断しました。 隆弘は、美紀子に対して浮気を認め、 「ちゃんと関係を終わりにした。もう二度と会わない。本当に申し訳なかった」 と深々と頭を下げて謝りました。美紀子に気持ちを尋ねると、 「今は、まだ信じられません。正直、顔を合わせるのもまだ辛いです。許す気持ちにもなりません」 美紀子は隆弘に、本心をはっきりと伝えました。さらに私は、美紀子にこれからどうしたいか、隆弘に伝えるように話しました。 「正直、今は、できるだけ夫とは顔を合わせずに生活したいです。息子の面倒も、夫に見てほしいです。今の私には息子の顔を見るのが辛い時があるので」 カウンセリングを通して美紀子はずいぶん強くなりました。自分の意思を伝えることができるようになったのです。でもそれは、隆弘にとっては辛いことでもありました。私は2人に提案しました。 「しばらく、2人でカウンセリングに通っていただいてはどうでしょうか? 気持ちの変化を確認しながら、どうすればまた一緒にやっていけるのか、相談していきましょう」 今の美紀子には、隆弘と話し合いたい、という意思はなくなりつつあるので、話し合う場面を設定する必要がありました。そして2人きりでの話し合いでは難しくても、カウンセリングを通せば、お互いの気持ちを受け入れられるものです。私は美紀子が心を休ませる時間が必要であることも隆弘に伝えました。 「美紀子さんの心が回復していくためには、心を休ませることが必要です。今、家の中ではそれは難しい状態なので、隆弘さんができるだけ育児をして、美紀子さんを休ませることに加えて、例えば週末は、隆弘さんが休める時は息子さんを連れて外に出かけるようにしてください。美紀子さんが1人で外出する日を作るのもいいですね」 私がそう言うと、隆弘の方から言いました。 「もし、妻が望むなら、週末をホテルで過ごしてもらっても構いません。頼めば、私の母も手伝いに来てくれることもあると思いますから、妻には土・日をゆっくりしてもらって大丈夫です」 隆弘は「それで、元に戻れるなら」と付け加えました。私から、週末に美紀子がホテルで過ごして家を空ける場合には、できれば昼食か夕食は、家族3人でとるようにお願いしました。急にお母さんがいなくなったら、子どもが不安になるからです。加えて、美紀子が家を空ける時には、子どもが安心できるように、「おばあちゃんのお手伝いに行ってるんだよ。でもちゃんと帰って来るから大丈夫だよ」などと伝えるようにもアドバイスしました。
夫への猜疑心は消えず、フラッシュバックも
夫婦のカウンセリングは今も続いています。隆弘は、週末はもちろん、極力平日も育児を手伝い、美紀子は1人で過ごす時間ができました。最初は、隆弘と一緒に食事をするのが嫌だ、と美紀子は息子と2人で食べたり、隆弘に息子を任せたりしていましたが、少しずつ3人で食事をする機会が増えてきています。 週末は、隆弘が息子を連れて夜まで出かけたり、美紀子が1泊でホテルに泊まったりすることもまだ続いていますが、親子3人で出かけることもできるようになりました。息子は、お母さんがいないことに寂しさを訴えることもあるけれど、お父さんと過ごす時間が増えたことは喜んでいます。美紀子の心の状態も少しずつ安定し始めており、息子に対する拒否感は消えつつあります。 「最近は一緒にいる時間が減ったせいか、可愛いな、と思えるようになってきています」 それでも時々、元に戻ってしまうこともあると言います。 「夫への猜疑心は消えていませんし、フラッシュバックが起こる時もあります」 そんな時は、息子といるのが辛くなってしまう時もあると言うのです。それもきっと少しずつよくなるはずです。それと並行して美紀子の隆弘への感情も必ずよいものに変わっていくはずです。 美紀子の頭から、浮気が完全に消えたわけではありません。隆弘も緊張状態を保ち、ハラハラしながら生活している、と言います。でも、美紀子は、 「夫が努力してくれているのはすごくわかります」 と言っていて、私は、カウンセリングを通して、隆弘が美紀子のことを真剣に思いやるようになり、美紀子もその気持ちを受け入れ、歩み寄っていくことで、この家族はきっとやり直していけると思っています。 【プロフィール】 山脇由貴子(やまわき・ゆきこ)/1969年生まれ。横浜市立大学心理学専攻を卒業後、東京都に心理職として入都。児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。現在は家族問題カウンセラーとして活動している。
引用先:夫の不倫が原因で子供を愛せなくなった… 分断する夫婦の進む道(NEWSポストセブン) – Yahoo!ニュース