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パチンコで借金300万円、妻に土下座…知られざる「ギャンブル依存症」の恐怖
長引くコロナ禍で世界中が疲弊しているが、このような不安感やストレス、孤立が広がる社会では依存症リスクが高まる。 【写真】子殺しの翌日、「鬼畜夫婦」は家族でディズニーランドへ行っていた 2020年5月の緊急事態宣言下には世界保健機関(WHO)からも「COVID-19 の世界的流行時の物質使用および嗜癖行動に関する注意喚起」が出された。 我々の相談現場でもコロナ禍ならではの相談も寄せられている。そこでこの1年の経験をもとにいまだ出口の見えないコロナ禍でのギャンブル依存症の予防と治療についてお伝えしたい。
コロナ禍でギャンブルにハマる要因
相談電話を受けていて、コロナ禍でギャンブルにはまる要因が見えてきた。まず一つ目は長引く飲食店等の時短営業である。 大抵の飲食店と言えば、これまで忙しい職種の代名詞で、午前中の仕込みから夜遅くまでの勤務が珍しくなかった。 そのため飲食店勤務でギャンブル愛好家の方は、休みの日はゆっくり起きて、午後からパチンコに行く、もしくは日曜日は競馬をやるといった程度の人が多いかと思う。 ところがこの時短勤務で急に暇ができてしまった。すると他にやることがなく、パチンコに行く頻度が増え、ついには借金生活になってしまったというパターンである。 相談者はたいてい「そもそもコロナ以前は仕事が猛烈に忙しく、趣味を持つ時間もなかった。パチンコ以外に暇つぶしが思いつかなかった」と言う。それはそうだろうなと納得する。 ちなみにほとんどのパチンコ店は営業時間を自粛していない。 二つ目は、やはり緊急事態宣言で暇になって、ネットギャンブルにハマるパターンである。 公営競技は、緊急事態宣言以降、無観客や観客数を抑えてレース開催をしてきた上に、場外の販売施設を閉鎖してきた。にもかかわらず、売り上げは前年比を大きく上回っている。 さらに近年の傾向では、パチンコをやりながらスマホでネット投票をするというパターンが増加している。スマホの台頭で人々は気が短くなり、暇をさえあればスマホをいじってしまうが、その影響がギャンブルにも現れてきた。 特に若者に人気となっているのが競艇で、公営競技がアプリで簡単に投票ができるシステムとなってからは「パチンコ+競艇」というギャンブル依存症リスクの高いやり方をする人々が増えてしまった。 競艇が増えた背景には、テレビだけでなく駅や電車内などでも盛んにCMを打っていること、競艇選手が「イケメンボートレーサー」などと言われるようになり、かっこよく高給取りで若者の憧れの存在になったことなどが考えられる。 しかしこういった環境要因だけで人は依存症になるわけではない。三つ目にはメンタルの問題が大きく関わっている。 ギャンブル依存症に陥ってしまった人の話を入念に聞いていると「家に帰りたくなかった」という居場所感の欠如や、コロナで仕事やプロジェクトがなくなってしまった、大学の授業がオンラインでつまらない、やる気になれない、部活やサークル活動ができなくなった、残業代カット等による収入減少で「ギャンブルでお金を増やそうと思った」という理由が出てくる。 つまりコロナ禍でのギャンブル依存症の要因は、暇な時間の増加とストレスがプラスされた場合と考えられ、それはこの時代多くの人にあてはまることと懸念される。
人はこうしてギャンブル依存症に陥る
それでは人はどんな背景でギャンブル依存症に陥るのか? ギャンブル依存症から回復したある方の経験談が、良くあるパターンとして非常に参考になるので、この度取材した。 Yさんは某地方都市に生まれ、小学校2年生から軟式少年野球を始めた。Yさんは容姿も整った上に、小学校、中学校と勉強もスポーツも一番だった。 けれどもYさんのご両親はYさんに期待するあまり、活躍を素直に褒めてはくれず、一番になっても「そんなところで満足していてはつまらん」と言われ、街ではるか年上の東大に入学した先輩を引き合いに出し比較されたりしていた。 Yさんは「自分は勉強やスポーツといったブランドがないと愛されない」と思うようになり、良い成績を取ることで承認欲求を満たしていた。 高校になって進学校に進むと、勉強の方は上には上がいて自分はとてもトップにはなれないと早々に諦め、逆に甲子園を目指し野球に打ち込んだ。Yさんは高校3年生の時にはエースとなったが、夏の県大会の2回戦でその年の甲子園出場校とあたってしまい、あえなく敗退。部活も引退となった。 引退後は有り余る時間で再び勉強に打ち込むようになり、地元の公立大学に無事合格することができた。そして大学に入ると再び野球部に入部した。 高校卒業後の春休みにYさんは同級生に誘われ1度パチンコをやったが1万円をあっという間に失い2度とやらないと誓っていた。ところが大学3年生の時にパチンコ好きの同級生に執拗に誘われ、再び足を踏み入れることとなった。 ここで3000円が15000円に増え、ご本人曰くスイッチが入ってしまった。当時Yさんは、大学と野球部の練習を毎日こなすほかに週2日深夜に飲食店でアルバイトをしていたが、1日のバイト代以上のものがこの時簡単に稼げてしまった。 Yさんは段々パチンコにのめり込むようになり、優先順位が狂っていった。パチンコで当たりが出て確変にに入り連チャンが続いた時などは、バイト先に嘘をついて遅刻をし、パチンコ代がなくなると給料を平気で前借りするようになった。 けれども大学時代は毎日野球の練習があったおかげもあって、借金生活にまでは至らず、ギリギリのところで踏みとどまった。 社会人になり、14年間に渡る野球人生に終止符を打った。 そして入社の慌ただしさから落ち着いた6月に東京転勤となった。このタイミングで友人の付き合いでクレジットカードを作りキャッシングを覚えてしまった。 するとパチンコの歯止めが効かなくなり、あっという間に借金が40万円になった。このことが当時の彼女にバレてしまい、別れ話にもなったが、結局パチンコをやめ、借金を真面目に返すことを約束し、この時は実際に完済もして結婚に至った。 結婚し子供ができると、妻は当然のごとく子供にかかりっきりになった。しかも子供は年子で、専業主婦の妻はますます忙しくなった。夫婦はすれ違いが続き、妻にかまってもらえなくなった分、Yさんは仕事に打ち込み、同期の中で一番に管理職になった。 Yさんは当時を振り返り「今思えば、自分は常に承認欲求の塊で、勉強や野球で満たされなければ、妻に満たして貰おうとし、それができなくなればギャンブルで、ギャンブルもできなくなると今度は仕事で満たされようとしていました」と言う。 「妻にとって子供が一番になってしまうと『俺はこんなに頑張っているのになんで褒めてくれないんだ』と思っていました。大変な子育てを思いやれず、自分のことばかりで身勝手そのものでした」と語った。 そして下の子が2歳になった頃、仕事も頭打ちになり、急にパチンコの衝動にかられる。これを我々依存症者は「回路ができている」と呼ぶが、何かの拍子主にストレスフルな出来事が続くと、この衝動がいつ襲ってくるのか分からないところが依存症の恐ろしい所である。 少しだけと思ってやったパチンコで3000円が3万円になり、Yさんは久々に高揚感を味わった。そして再びパチンコが止まらなくなってしまった。 家では妻と気持ちのすれ違いが続き、幼い子供がいるにもかかわらず、自分の居場所感がなくまっすぐ帰る気になれなかった。借金はあっという間に300万円にまで膨れあがった。 自転車操業ではやりくりできなくなりYさんはここで妻に借金を告白。土下座して詫び、妻が調べたギャンブル依存症者のための自助グループに参加することを約束した。結局、借金は250万円と過少申告して、溜まっていた財形貯蓄で清算してもらった。 このギャンブル依存症者が借金がバレた時に過少申告するのは常套手段で、少しでも罪悪感を軽減したいのと、一部使えるカードを残しておきたいためである。 実はYさんの職場ではギャンブルがはびこっており、この時職場のギャンブルで勝って残りの借金を支払おうと考えていた。自助グループも3回ほど行って止めてしまった。 しかしYさんの目論見は見事に外れ、職場のギャンブルでも負けてしまい、結局残りの借金も妻に泣きつき清算してもらうこととなった。 この後、Yさんは借金問題から解放され、1年ほどギャンブルをやめたのだが、あまりの生きづらさから再び自助グループに繋がった。夫婦仲は最悪で、罪悪感に打ちのめされながらも心の中は不満だらけ、自分の何が悪いのかさっぱりわからなかった。 実は、私も借金だらけの生活から抜け出そうと、ギャンブルと買い物をきっぱり止め1年かけて借金を清算したが、借金が無くなった瞬間に「もう死のう」と思った。借金さえなくなれば問題は解決すると思っていたが、困っていたのは生き方そのものだったのである。 Yさんも承認欲求が強く、なんでも「一番でいたい」という間違ったプライドで自分を苦しめ、それでいて自信がなく自尊心が低かった。この後、Yさんは自助グループに繋がり続け、回復することができた。現在では「NPOアスク認定 依存症予防教育アドバイザー」の資格もとった。 Yさんの経験は決して特殊な話ではないことがお分かりいただけたはずだ。むしろ「えっ? これが依存症なら自分も依存症かも?」と思われたかもしれない。 マスコミでは「家1軒分なくした」「横領事件を起こしても止められなかった」などというかなり重症化した人の話ばかり取り上げられるが、実際にはYさんのような借金を1~3回位繰り返して気づく人が多い。 そしてYさんの体験談で分かるように人がギャンブル依存症に陥る背景には、借金ができる環境/ギャンブルができる時間/打ち込んでいたものがなくなった喪失感 /承認欲求が強い/嫌なことを忘れられる/ギャンブル場が居場所になっている、など人によって様々なものがある。ギャンブル依存症から回復するには、この背景に向き合っていくことが非常に重要である。
回復とは「回復し続けること」
ではギャンブル依存症からの回復とは何を指すのか。 前述したように私たちは脳に回路ができている状態なので、山あり谷ありの人生で谷がやってくると、ふっとギャンブルでストレス解消をしたくなってしまう。この衝動はなくなることがないのだ。 正直、依存症者でもギャンブルを一定期間やめることはできる。人によっては4~5年やめ続けることも可能だ。けれども油断が続き、このくらいなら大丈夫だろうと再び手を出してしまうとあっという間にやめられなくなってしまう。再発はたいていの場合、最初に抜け出した時よりもひどい状態になる。 つまり回復するとはその状況を保ち続ける、回復し続けることを指すのだ。止まったから「はい、おしまい」では決してない。これが「回復はあるが完治はない」と言うゆえんである。 自分の心癖にはどんなものがあり、思い込みや、認知のゆがみ、さらには不寛容さや自分攻め、罪悪感などで自分で自分を苦しめ追い込んでしまっていたものが何だったのかをつきとめ改善していく必要がある。こう書いてしまえば簡単そうに聞こえるが、自分の間違いを認め正していくことは決して楽ではない。 依存症の回復プログラムはあまり知られていないが、自分の過去に向き合い、傷つけた人に謝罪をし、同じ問題を抱える人のサポートを生涯に渡ってやり続けるのだ。こういった一連の行動で回復を維持することができる。
回復プロセスを描いたTwitterドラマ
依存症からの回復プログラムへの理解がなかなか進まないので、私たちはこの度回復プロセスを理解できるようなTwitterドラマを制作した。 2021年3月15日より12夜連続で「ギャンブル依存症問題を考える会公式Twitter(及びInstagram)」で配信しているのでぜひご覧いただきたい。 これまでエンターテイメントの世界では依存症問題はかなり極端に伝えられてきた。 人を裏切り、だまし、時には暴れ、言葉が通じず、どうしようもない人と描かれ、回復にはほとんど触れられないまま悲惨な末路が描かれた。また再起が描かれても家族や友人の愛に突然目覚め奇跡の様に回復してしまった。 もちろんエンタメの世界では、現実に忠実である必要はないのだが、依存症についてはエンタメより現実のほうが余程ドラマチックで面白いことを私たちは知っている。 今後、依存症問題の解決策が描かれ、社会の好循環に繋がる、面白いエンタメ作品が日本にも誕生することに期待したい。 最後にこのドラマに関わって下さった方々のコメントご紹介する。 ———- ナカムラサヤカ監督 依存症者がどうやって回復のステップを踏むのか、日本ではほとんど知られていません。私も知りませんでした。 依存症を学び始めて、「助けるものが助かる」という言葉を知りました。 今回のドラマは、まさに助け助けられながら仲間と回復していく姿を描いています。 “躓いたとしても人生はやり直せる” 多くの方にこのドラマが届き、依存症で苦しむ方々や今生きづらさを感じている人々の力になれたら嬉しく思います。また、リカバリー・カルチャーが日本でも広まっていくことを願っています。 カイ役 中村 優一 今回、ギャンブル依存症から回復していく役柄を演じさせていただきました。ギャンブルだけでなく依存症に悩んでいる方の背中を押せるような作品だと思いました。コミカルなシーンもあるので観ていただきやすいかと思います。 このドラマが少しでも人の役に立てたら嬉しいです。 ハルカ役 増田 有華 主人公の元恋人、ハルカを演じさせていただくにあたり、依存症を抱えた方の恋人はどういった心情で日々を過ごされているのか詳しくお聞きました。とても印象的だったのが、ギャンブル依存症の彼と“共依存”してしまった当事者は泣くか怒るか無気力か、極端な感情表現になるということです。台詞の言い回しひとつひとつに誤った情報が入らないよう丁寧に話し合い、熱量の高い現場でした。 モーリー役 伊嵜 充則 ツイッタードラマというのは初めてで、とても素敵な経験が出来ました。スタッフ、キャストが一丸となって取り組み、一つのドラマが完成しました。是非ご覧いただき、色んな事を感じて下されば役者冥利につきます。ありがとうございました。 コウ役 宮澤 佑 「自分だけじゃない事を共感してくれる所から始まり、自分の無力さを認めた人から回復が始まる」と言う言葉を聞いて心に響く事が沢山ありました。 自分自身も見栄や虛勢を張って、自分を守った事もありました。カイくんやリョーマさんやモーリーやコウを見て感じて、素直に、噓偽りがない様にありのままの自分でいようと思った。このドラマで何か心の中で感じて貰えたら幸いです。 リョーマ役 高知 東生 唯一、依存症当事者としてドラマに参加させて頂きました。僕の回復過程で僕自身に与えて貰ったものを、今度は僕自身が恩返しのつもりで演じさせて貰いました。依存症者は絶望では変われません。変わった先に希望があり、その希望が勇気に繋がります。このドラマがまだ見ぬ苦しんでいる仲間の勇気になることを願っています。 ———- 今回のドラマの俳優陣の方々は、高知東生さん以外は依存症問題についてご存知ない方々ばかりだったが、丁寧にお伝えすれば正しい理解につながることを体験した。 またドラマのエキストラは、ギャンブル依存症から回復した当事者、家族が勇気を持って顔出し出演をした。ギャンブル依存症者もまた普通の人であることをご覧いただけたら幸いである。 今後も依存症について知ってもらう努力を私たちも惜しまずに続けていきたいと思う。依存症からの回復者が増えることは生きづらい世の中の是正に貢献できると信じている。