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~実録・闘病体験記~ 頑張り屋さんほど要注意、「自分を追いつめるパニック障害」
パニック障害の条件として、公衆の場を避けたくなる「広場恐怖」が知られています。しかし、今回お話を伺ったヒデカズさん(仮称)は、周りの目線が全く気にならなかったとのこと。あらためてパニック障害とは、どのような病気なのでしょうか。100人のうち2人が発症するという発作の真相に迫ります。 ※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年2月取材。 [この記事は、Medical DOC医療アドバイザーにより医療情報の信憑性について確認後に公開しております]
体験者プロフィール: ヒデカズさん(仮称) 茨城県在住、1984年生まれ。結婚し、1人の子どもとの3人家族。一般企業の営業職で、主任を務める。2019年、突然、立っていられないほどのめまいに見舞われ緊急搬送されるも、医師の診断は「異常なし」。後に、自分で探した心療内科で「パニック障害」と診断される。現在、治療薬の常用をせずとも仕事が続けられる状態まで回復している。
監修医師プロフィール: 高橋 龍太郎先生(医療法人社団こころの会タカハシクリニック 理事長) 慶應義塾大学医学部入学。学生運動を経て1969年に同大学中退。東邦大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院精神・神経科入局。その後、国際協力事業団の医療専門家としてのペルー派遣、都立荏原病院に勤務。1990年、東京都大田区蒲田に「タカハシクリニック」を開設、院長に就任。専攻は社会精神医学。デイケアやリワークを中心とする地域精神医療に取り組むとともに、心理相談やビジネスマンのメンタルヘルスケアにも力を入れている。15年以上ニッポン放送のテレフォン人生相談の精神科医を担当。日本精神神経学会精神科専門医・指導医。 ※高橋先生は監修医師であり、ヒデカズさんの担当医ではありません。
発作の初発は深夜の自宅で起きた
編集部: パニック発作は突然、なんの前触れもなく襲ってくると聞きます。 ヒデカズさん: 私の場合は、自宅で深夜に突然、バランスを保っていられないほどの“めまい”に見舞われました。「脳になにかが起きているんじゃないか、駅のホームなどで気を失って倒れたらどうしよう」と、なんともいえない不安に襲われましたね。当時は休日も働くほど仕事が忙しく、強いストレスを感じていました。しかし、そのときに限ったことではありません。多忙な状態がずっと続いていたため、「なぜ、今になって?」と、驚いたことを覚えています。 編集部: めまいとは別に、焦燥感や危機感のような感覚があったと? ヒデカズさん: 「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖感ですね。なかなか他人には伝わらない感覚で、会社から「最近、仕事に身が入っていない」などの指摘も多々、受けました。他人から、そういう風に見られてしまう点もショックでしたね。 編集部: めまいに関しては、「次があるかも」という恐怖を感じていたのですよね? ヒデカズさん: 初発から1年間くらいは、常にそう思っていました。私の場合、横になったときのほうが、めまいを感じるのです。クラクラと平衡感覚が失われたような状態の中で、「このまま元に戻らなかったらまずいな」と思うと、それは私にとって“死の恐怖”でした。初診時に先生が、「気を失うようなことがあると危険だ」とおっしゃっていたことも、恐怖を倍増させたようです。 編集部: ちなみに、自分で自分を、どのような人間だと思われますか? ヒデカズさん: 我が強く、なにごとも自分でやらないと済ませられない性格でしょうか。仕事でも、本来、他部署が扱うような業務を抱えこんでいました。「他人に任せるくらいなら、自分でやったほうが早い」と思っていましたからね。周囲の目を気にしないというのか、のめり込むようなところがあると自覚しています。
発症後でも、人前に出ることは平気
編集部: 続いて、発作後の経緯を伺わせてください。 ヒデカズさん: 初発のめまい時、妻に救急車を呼んでもらったのですが、病院へ着くころには落ち着いていました。ですが、救急病棟の担当医から、「翌日の朝、もう一度診てみましょう」と言われましたので、半休を取得して再受診しました。とくに受診科も指定されず、受付を普通に済ませて診察していただいたのですが、結果としては「異常なし」とのこと。おそらく内科の先生だったと思います。 編集部: その後は、どうなされたのですか? ヒデカズさん: 「深夜になると自宅でめまいを感じる」状態が続いていましたので、まず、搬送先とは別の内科を受診しました。しかし、付いた診断は相変わらず「異常なし」だったのです。どこへ行けばきちんと診てもらえるのかと思い、脳外科で脳のMRI検査を、神経外科で携帯心電計による脈拍の検査をそれぞれ受けたのですが、やはり「異常なし」ということでした。“たらい回し状態”で精神的に堪えるものがありました。 編集部: 最終的に、パニック障害と診断されたのは? ヒデカズさん: さまざまな標榜科を受診して無為に終わっていたとき、妻が「もしかしたら心療内科かもしれない」と調べてくれたのです。そこで専門クリニックを調べて受診したところ、パニック障害だと告げられました。初発の発作から1カ月くらい後のことです。 編集部: 一般には、投薬療法と行動認知療法が有効と聞きます。 ヒデカズさん: そうなんですか? 私には対人恐怖のような症状が一切、ありません。どちらかというと、人前で話すことが得意です。ですから、行動認知療法については知りません。投薬治療だけで、しかも、この半年は定期的な通院すらしていません。具合がひどくなったときに薬をもらう程度です。ただし、自宅での苦しみは、ずっと続いていました。 編集部: では、お仕事も、そのまま続けられていたのですか? ヒデカズさん: はい。パニック障害が理由で会社を休んだのは、初回発作後の翌日の半休だけです。じつは、会社に病気のことを話していません。隠しているというより、その必要が感じられませんでした。発作は、自宅で深夜に起きますからね。日中の勤務中には支障がありませんでした。ただ気になったのは、職場で「おはようございます」のようなあいさつの“ろれつ”が回りにくくなったことです。 編集部: 奥さんとの会話でも、そうなるのですか? ヒデカズさん: 不思議なことに、妻が相手だと平気なのです。また、プライベートで会う友人とも、普通に会話できました。おそらく、仕事や職場からストレスを感じていて、その影響が出ていたのではないでしょうか。有給休暇などはなかなか取得しにくい環境で、私自身も含め、上昇志向の強い社員ばかりでした。
転機となったのは一冊の手帳
編集部: 繰り返しになりますが、治療内容としては投薬だけですか? ヒデカズさん: 医師から受けた指示は薬の服用だけで、かなり症状が楽になりました。それとは別に、テレビでみかけるメンタリストさんの「手帳術」を、自分なりにアレンジして試してみました。「つらいと感じる自分の今の行動」と「それが楽になる行動」を、ノートの左右に書き分けるというものです。これが、自己変容のきっかけとして、ものすごく有効でしたね。 編集部: 具体的に、どのような変化を起こしていったのでしょうか? ヒデカズさん: 例えば、仕事の一部を他人に任せるなどです。1つの仕事をタスク化して書き出し、任せられることと、任せられないことに分けてみました。もちろん、一部の先輩からは、嫌みのような指摘を受けましたよね。ですが、私自身と折り合いを付けることのほうが大切です。“死の恐怖”と比べたら、嫌みなんてたいしたことではありません。 編集部: 経験者ならではの達観ですね。ほかにもありますか? ヒデカズさん: 一時、薬が常に目の触れるところにないと不安になるので、置き場所を分散させていました。車にもあるし、職場にもあるし、自宅にもあるのです。薬がないと動悸がしてしまう経験もありました。そんな依存状態から脱却しようと思ったときも、手帳術が活躍しました。 編集部: 発作が突然に襲ってくるとしたら、予防という発想は成り立ちませんね? ヒデカズさん: はい。私なりに、「パニック障害は、頑張り屋さんがなりやすい」という印象をもっています。同病の芸能人のブログを拝見していると、ある程度、共通項のような気がするのです。頑張り屋さんって、頑張らないことが難しいですよね。ですから、予防というより、「なってしまってから、自分をどう変えるか」が問われるのかなと思います。 編集部: 改めてパニック障害とは、どういう病気だと思いますか? ヒデカズさん: 「原因不明のうつ病の一種」というのが、私自身の結論です。パニック障害の発作は突然なのですが、その背景に、「蓄積しているなにか」があるのでしょう。私の場合は、仕事に対するストレスがトリガーでした。また、周りで「ストレスによる過労」を起こしている人にも、少なからず同様の症状がみられるようです。 編集部: この機に、医療従事者へ望むことはありますか? ヒデカズさん: 医療機関では、ストレスと同居しながら働き続ける現役世代と、退職して薬をもらうためだけに来院された人が、同等に扱われている印象です。薬の処方だけなら、オンラインでもできますよね。他方の現役世代は、さまざまな病気に見舞われます。この両者が同じ扱いでいいのかなと。苦しみ方や症状による優先順位があってもいいのではないかというのが、率直な意見です。初期に受けた「病院のたらい回し」も、しっかりと時間を取っていただけたら、防げたのではないでしょうか。 編集部: 頑張り屋さんに向けても、メッセージをお願いします。 ヒデカズさん: うつのような症状が出たら、頑張らないで休むこと。ときには「休む努力」も必要だと思います。とくに若い世代の方ほど、「自分がいないと迷惑をかける」と思い込みがちですよね。実際は、そんなことありません。将来的な心の傷を負うより、ライフ・ワーク・バランスに取り組んでいただきたいと願っています。また、有休取得に対する偏見のような感情も、なくしていくべきでしょう。 監修医師からのコメント: 高橋 龍太郎先生(医療法人社団こころの会タカハシクリニック 理事長) 「原因不明のうつ病の一種」という ヒデカズさんの結論は正しいと思います。パニック障害もうつ病も、脳の扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる部位で感情をコントロールしている「セロトニン」がうまく働かない状態だからです。ヒデカズさんは認知行動療法を受けていないとのことでしたが、メンタリストさんの「手帳術」こそが認知行動療法そのものなのです。これからも続けてください。 また、人間は類的存在だという言葉がありますが、「自分が自分が」というこだわりを捨てて、他人と仕事や生き方を共有することが人間本来の有り方なのです。それが結果的にパニック障害の治療にもつながっています。
編集部まとめ
どうやら、「広場恐怖を伴わないパニック障害」があるようです。ただし、「死への不安」という点では、ほかのパニック障害と一致していました。また、ヒデカズさんがもったパニック障害への印象は、「頑張り屋さんに起きがちな、ストレスによるうつ症状」とのこと。いずれにしても、この病気に対する見方が、大きく変わりました。やはり、「体験者の語る真実は重い」ということなのでしょう。
引用先:~実録・闘病体験記~ 頑張り屋さんほど要注意、「自分を追いつめるパニック障害」(Medical DOC) – Yahoo!ニュース