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「失敗すると思う。将来」「苦手。頭を使うのが」“どうしても頑張れない”人にかけてはいけない“意外な一言”
“頑張らなければ報われない”という考え方がある一方で、さまざまな要因から頑張ろうとしても頑張れない人たちもいる。そうした人たちに対して努力を求めるのは、はたして適切な態度なのだろうか? そうした疑問に向き合った一冊が、宮口幸治氏の『 どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2 』だ。「やればできる」の呪縛、頑張らなくてもいいという風潮、「みんなちがってみんないい」の問題点……さまざまな角度から“頑張れない”人たちを取り巻く状況や、必要な支援について検討した同書の一部をここでは抜粋。“頑張れない”少年少女たちのリアルな思いを紹介する。(全2回の2回目/ 前編を読む ) ◆◆◆
「たぶん失敗すると思う。将来」
ここまで頑張れない本人の状況とやる気を奪う周囲の言動についてご説明してきました。一般的に言って、頑張れない人をとりまく状況は、なかなか厳しいものがあります。ところで、頑張れない本人自身は、正直どう感じているのでしょうか。周りから、「できなくても気にするな」と言われて気にならないのでしょうか。ずっと平気でいられるでしょうか。「もっと自分に自信をもて」と言われてもそうできない自分に自信はもてるでしょうか。 何であれ、できないよりはできた方がいいに決まっています。評価されたいし、結果も出したい。これは誰にも共通しているはずなのです。 以下は2016年5月に日本テレビで放送されたNNNドキュメント「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」という番組の中で、インタビューを受けていた小学生が答えていた内容です。ある障害をもった子どもに日常で感じている悩みを聞いてみたものです(ちなみに、私もインタビューを受けたこの番組は、『 発達障害と少年犯罪 』というタイトルで書籍化されています)。 以下がその子とインタビュワーとのやり取りです。 子ども「(友達は)自分となんか違うと思う。(僕は)すぐ持って来なあかんやつとかが忘れる」 (自分でも気が付いているけれども忘れることを止められない?) 子ども「うん。止められへん」 (将来どういう仕事をしたいとかあるの?) 子ども「たぶん失敗すると思う。将来」 (どうして?) 子ども「失敗ばっかりする」 (それは自分が失敗ばっかりするから将来も失敗すると思う?) 子ども「うん。やるのが苦手。頭を使うのが」 きっとインタビューという場がなければ、この子の本心を周囲の大人が知ることはなかったでしょう。その子は友達と比べて自分はできないことに気づいているのです。そして「できない自分は将来失敗する」と子どもながらに薄々感じているのです。このような子に「できなくても大丈夫だよ」といった言葉かけをして、それが慰めになるでしょうか。慰めどころか逆にその子に惨めな思いをさせてしまうだけではないでしょうか。 “友達と同じようにできるようになりたい” この気持ちは、その子にとって一点の曇りもないでしょう。
こんな自分でも分かってほしい
本人自身は、頑張らないといけないのは分かっているのです。でもできない、頑張れない、こんな自分のことを理解してほしい、といった葛藤を抱えています。そして、長い時間をかけながら、そういった自分を受け入れていくのです。 でも、本当にそれしか方法がないのでしょうか。ずっとできないまま、頑張れないまま、耐えていくしかないのでしょうか。 人はどこかに必ず強みをもっているはずです。ただこれには個人差もありますし、置かれた環境や周囲にいる人たちにも大きく影響を受けると思いますので、一概には言えないでしょう。一方で、頑張れないと思われている人たちでも、全てに頑張れないわけではありません。ある場所や状況では、周りが驚くほど頑張れることがあるのも事実です。本人の特性に沿った支援をし続ければ、その強みを引きだすことも十分可能だと私は思います。では、そういった強みを引き出すきっかけは何なのか。本人の強みは何なのか。ここでは本人目線で頑張れるためのヒントを探っていきたいと思います。
引きこもりでもコンサートには行ける
私は精神科病院で勤務していた頃、思春期外来も担当していました。患者の多くは10代後半の女性たちでした。学校にうまくなじめず不登校や引きこもりになっていたり、うつ病になったりしている子たちです。勉強もしない、運動もしない、もちろん外出もしない、ひたすらSNSで繋がっているだけ、といった子たちがほとんどでした。 中にはリストカットなどの自傷の跡がある子や、処方した薬を大量服薬して救急外来に運ばれる子もいました。彼女たちはとにかく人が怖く、一人で電車に乗るのですら、かなりの冒険のようでした。なかなか出口が見えないまま、20歳を超え成人外来に移っていく子が多くいました。にもかかわらず、彼女たちの中には好きなアーティストのコンサートなら、どんなに遠くても行ける子が一定の割合でいました。 人が怖くてずっと引きこもっている子が、好きなアーティストのコンサートのためなら、大阪から東京まで新幹線に乗って一人で出かけるのです。彼女は、SNSで知り合っただけの一度も会ったことのない知人宅に泊まらせてもらっていました。しかも翌日の早朝には東京を出発して、診察の予約時間にギリギリ間に合うように帰ってこられるのです。それだけのエネルギーとモチベーションはいったいどこからきているのか、いつも不思議でした。
失われたやる気を復活させる鍵
おそらく我々支援者が知らない“これのためなら頑張れる”“これがあるから頑張れる”といったものを、誰しもがもっているのでしょう。そこにスイッチが入れば、時には信じられないような頑張りを発揮する人たちもいるのです。支援者の役割はそこのポイントをいかに見つけて、いかにスイッチを入れてもらうか。これこそ失われたやる気を復活させる鍵なのではないかと思っています。 一方でこれは、「ふだん何もしないくせに、コンサートには行っているなんて」と、非難の的になりがちなのも事実です。自分の好きなことだけしている勝手な人、わがままな人、というレッテルを貼られるかも知れません。しかし、そのように見られる行動であっても、本人の支援をするために有効なリソースの一つとしてみることが大切なのだと思います。
“非行少年たちの3つの願い”から学ぶこと
ところで、みなさんが頑張りたいと思う動機づけは何でしょうか。例えば、お金持ちになりたい、出世したい、いい学校に合格したい、いい会社に入りたい、好きな仕事をしたい、大きな仕事をしたい、彼氏・彼女が欲しい、異性にもてたい、結婚したい、子どもが欲しい、いい車が欲しい、痩せたい、背が高くなりたい、イケメン・美人になりたい、世界旅行したい、美味しいものを食べたい、友達から尊敬されたい、人から感謝されたい、親から誇りに思われたい、人の役に立ちたい、いい人間になりたい……など、人には多くの願望があります。これらの願望のために頑張るといった動機づけがあって、はじめて人は頑張れます。やりたくないことを頑張りたいとは誰も思わないでしょう。ここに頑張れない人たちから力を引き出すヒントがないか、考えてみる価値はありそうです。 頑張るための動機づけは、人によってさまざまです。私は、“ケーキの切れない非行少年たち”はいったいどのような願いをもっているのか、とても気になっていました。少年院に入ってきた頃は、意気消沈して何事もやる気がなかった彼らも、出院が近づいてくると社会でもう一度頑張ってみたい、色んなことにチャレンジしたい、といった気持ちを持つようになります。どうしてそう変わったのか。もしそれが分かれば彼らの動機づけの解明にもなり、他の人たちのやる気のヒントにもなるかもしれません。 そこで、私が少年院勤務時代に何年間かにわたって彼らから聞き続けてきた“3つの願い”というものをご紹介したいと思います。これは、「もし、どのようなことでも願い事が3つかなえられるとしたら、どのようなことをお願いしますか」といった問いに対して、彼らが出した答えです。
入院時と出院時で変わったもの
以下は、6年間で約380名の少年院在院の非行少年から聞いた3つの願いトップ10です。最初が少年院に入院したとき、後が少年院から出る直前に聞いたものです(人数は重複ありです)。 (入院時) 1位 お金持ちになりたい(85人) 2位 過去に戻りたい(59人) 3位 家に帰りたい(少年院から出たい)(49人) 4位 家族が幸せになる(34人) 5位 仕事がしたい(28人) 6位 非行をしない(25人) 7位 生まれ変わりたい(20人) 8位 賢くなりたい(19人) 9位 自分を変えたい(17人) 10位 自分が死なない(15人) (出院時) 1位 お金持ちになりたい(94人) 2位 家族が幸せになる(90人) 3位 過去に戻りたい(66人) 4位 将来なりたい職業が実現する(26人) 5位 自分が死なない(24人) 5位 非行をしない(24人) 7位 結婚して子どもが欲しい(21人) 8位 幸せになりたい(16人) 8位 イケメン、マッチョ、高身長になりたい(16人) 10位 仕事がしたい(14人) いずれもトップはお金ですが、これは我々でも言えるかと思いますので、特に不思議ではありません。他をみると、次のようなことがみえてきます。 ・入院時の願いごとは、お金、過去に戻りたい、家に帰りたいが圧倒的に多いが、出院時になると、家族の幸せが2位に上がってくる。 ・仕事に関しては具体的な職種を挙げるようになった(しかし総理大臣や歌手など少し現実離れしているものも見受けられた)。 ・入院時に比べ、出院時にはイケメンになりたい、高身長になりたいなど外見の願いが増えた。 ・自分が死なない願い(生きたいという気持ち)が増えてきた。 現実的な願いも増えてきますが、一方で、自分だけのことよりも家族との関係を切望する少年が増えたこと、将来の具体的な仕事など“やってみたい”という気持ちが出てきたこと、は注目に値するかと思います。少年院の環境の中で、入院当初は絶望していた少年たちでも、やりたいことを見つけ、他者とうまくやっていきたいといった気持ちが生じてくるのです。 社会では挫折ばかりが多かった彼らでも、環境が変わった、寄り添ってくれる人ができた、自身への気づきの機会があった、ということで、ポジティブに変化していく可能性があることを私は知りました。
引用先:「失敗すると思う。将来」「苦手。頭を使うのが」“どうしても頑張れない”人にかけてはいけない“意外な一言”(文春オンライン) – Yahoo!ニュース