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妻を追い詰める精神的「暴力」、モラハラ夫の壮絶すぎる実態とその心理とは(前偏)
精神的暴力の見えにくい実態
モラハラとはどういうものなのか、最近モラハラが増えた背景にはどのような事情があるのかを、男女問題に詳しい堀井亜生弁護士が解説します。
モラハラとは、モラルハラスメントの略で、肉体的な暴力ではない精神的な暴力を指します。
モラハラという言葉が世間に浸透して一般的になるにつれ、かえって言葉の意味を軽くとらえて「モラハラ=口うるさい人」という程度に認識している人もいますが、上に挙げたように、モラハラというのは単なるお小言などではなく精神的な暴力の域に達する言動を指していて、内容によっては十分離婚原因になります。
DVに関しては、刑事事件として報道されることもあるので、「表向きは愛想のいい人が実は家族に暴力を振るっていることもある」という危険性が徐々に認識され始めていますが、モラハラをする人の実態が取り上げられることはなかなかありません。
そのため、モラハラを受けている家族が「自分は異常なことをされている」と自覚できず、むしろ自分が至らないからだと自分を責めてしまうことも少なくありません。
しかし、筆者が法律相談を受けている中で、夫のモラハラを理由に離婚したいというケースはこの数年で着実に増えています。
モラハラ夫とはどんな言動をするもので、その背景にはどんな特徴があるのでしょうか。妻によるモラハラについては、後日別の記事で解説をする予定です。
(※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。また、罵倒や叱責といったモラハラの言動について具体的に書いていますのでご注意ください)
モラハラ夫の典型的な言動とは
夫婦や親子の間でも、もちろんけんかや言い合いはあります。しかしモラハラというのはそういったレベルを超えた、一方的な精神的暴力を指します。
・度を超えた叱責
モラハラの代表的な例は、度を超えた叱責です。「宿題をさぼった子どもを叱る」などのレベルではなく、ささいなことを理由に数十分、時には数時間にわたって家族に怒鳴り続けます。声を荒らげるのではなく、一見穏やかな口調で執拗に相手を責め続けるというタイプもこれに含まれます。
調停や裁判の証拠として妻が録音した音声を聞くことがよくありますが、その怒り方はどれもよく似ていて、相手の至らない部分を延々と責め立て、「お前は妻失格だ」と人格を否定したり、ひどい時には妻の学歴や家族についても批判を始め「お前は低学歴だからダメなんだ」「こんなお前を育てた親も人として終わっている」などと言ったりします。
相手が「ごめんなさい」「気を付けます」と言っても怒りが収まることはなく、「今後はこうしよう」などといった建設的な提案をして終わることもなく、むしろ自分の叱責によってさらに感情をヒートアップさせていき、大体は夫が飽きるまで終わりません。
・理不尽なルールによる統制
モラハラ夫は家庭内を自分のルールで統制しようとします。
たとえば、「妻は夫が仕事に行っている間に完璧に掃除を終わらせていないといけない」「子どもは夫が決めたドリルを終わらせるまで寝てはいけない」などです。
モラハラ夫はこういった理不尽なルールを家族に押し付け、家族がルールを破ったらまるで犯罪をしたかのように激しく責め立てます。
また、最近はコロナ禍で夫が家で仕事をすることが増えた影響からか、家族のエアコンの使用を厳しく制限するケースも増えました。共通しているのは、「エアコンは無駄遣い」「暑いのを我慢できないのは怠け者」と固く決めつけていることで、夫の許可がなければエアコンを付けてはいけないとしている家庭が多いです。
さらに、エアコンの設定は必ず28度と決め、妻が暑いからと1度下げたらリモコンを叩きつけて激しく怒鳴るといったケースもあります。暑くて体調を崩すからエアコンを使わせてほしい、温度を下げさせてほしいと頼んでも、「水分を摂っていれば熱中症にはならない」と言って聞き入れません。
・他人に厳しく自分に甘い
モラハラ夫は家族を理不尽なルールで縛っている反面、自分が正しいと思っているので自分には甘い傾向があります。妻にはまともに生活費を渡さず、おしゃれをすることも禁じているのに、自分は出会い系アプリで不倫をしたり風俗に通ったりしています。
さらに妻に発覚したら「お前が至らないからだ」と開き直り、「離婚してもお前はダメな母親だから親権なんか取れない」「出て行ったら財産も養育費も渡さない」と妻を脅します。不倫で傷ついている上に追い打ちのように自分のせいだと責め立てられ、ますます妻は自己嫌悪を募らせるという負のループに陥ってしまいます。
このように、どんな時でも自分を正当化し、注意やけんかの域を超えて、何かのきっかけをとらえると執拗に相手を責め続けるのがモラハラ夫の特徴です。
では、彼らにはどのような共通点があるのでしょうか。
家族にこういった苛烈なことをするのだから見るからに粗暴な人かと思いきや、表面的には「子煩悩なエリート」である人が多いです。第三者から見ると、学歴があり、有名な企業に勤めていて、子どもの教育に熱心で勉強やスポーツなど複数の習い事をさせていて、一見いい夫、いいパパという人です。
モラハラ夫は、妻に今までの暴言を理由に離婚を突きつけられると、揃って「家族のためと思ってやっていた、自分は間違っていない」と言います。過剰な叱責も、理不尽なルールも、彼らの中では家庭をよい方向に向かわせるつもりでやっていたと言うのです。
言うまでもなく、動機がどうあれ暴言が正当化されることはありません。それでもモラハラ夫は自分が正しいと信じて疑いませんし、たとえ離婚を要求されても自分の非を認めることはありません。
完璧に家事をこなしておしゃれもせず少ない生活費でやりくりする妻、父親に口答えせず勉強や習い事にきちんと励む子ども、無駄遣いせずエアコンも使わず暑さを我慢し、夫が不倫をしても傷つかない家族たち……。
もちろん、家事も節約も勉強も大事です。しかしモラハラ夫が細かく積み重ねる「妻や子どもはこうあるべき」が本当に実現したとしたら、完成するのはまるで人間味のない家族です。
彼らはそんな非現実的な、理想郷のような家族像を思い描き、その理想からはみ出す行為を目にするたびに激怒して、家族を延々となじり続けるのです。
客観的に考えればそんなことで理想の家庭が手に入るはずがないし、理想の家族像から一番遠いことをしているのは家族を過剰に叱責する自分自身なのに、それには思い至らないのです。
モラハラをする人の心理とは
なぜ彼らはこんな異常な行動をするのでしょう。多くの場合、鍵は親との関係にあると思われます。
相談に来た妻にモラハラ夫の家族について聞くと、揃って「夫は親との関係が悪い」と言います。特に、小さな頃から厳しくされてきちんと勉強してきたというケースがほとんどです。親から暴力を受けていたという人もいます。
自分が親とうまくいっていない、だから結婚したら自分が主役の理想郷のような家庭を作りたい。そこまではいいのですが、その手段として、自分がされてきたように、あるいはそれ以上に、家族に厳しく当たるようになってしまうのです。おそらく、自分が厳しくされてきたから、家族への接し方として厳しくする以外の方法を知らない、思いつかないのでしょう。
また、エリートなので自分の能力に自信がある人が多く、家族は自分よりも劣った存在だと認識しています。だから、自分の理想に外れたことを家族がすると、「劣った存在が理想の家庭作りの邪魔をしている」と思って、家庭作りに失敗する、ひいては人生に失敗するという恐怖から感情のたがが外れ、度を超えた叱責をするのだと思われます。
一方、自分の不倫については、「家の外でやっているのだから家庭を壊していない」という勝手な理屈で正当化しています。これは、厳しくしつけられて真面目に勉強してきたから、大人になってからは自分の欲求を我慢したくないという心理によるものかもしれません。
つまり、モラハラ夫の根底にあるのは、自分と親の関係を発端に、理想の家庭作りという名目で妻や子どもを叱責し、自分の不倫は我慢できずに正当化するという自己中心的な考え方だといえます。
ほとんどの場合、家族に対してこれだけの叱責を続けてしまうのは心身が健康でないためで、本人にも家族にも何らかのケアが必要な状況なのですが、家庭内のことなので本人も周囲もなかなか気が付くことができません。
こうして、夫による過剰に叱責が毎日のように続き、怒鳴られ続けた家族は怯え切って常に夫の顔色をうかがうようになり、心身ともに疲弊していきます。
後編では、モラハラを受け続けた妻がどうなるのか、弁護士が介入するとモラハラ夫はどのような反応に出るのかを解説します。
引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/7ab4b1346d6e331cc2ec631e7b3ffc3713522d0d