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「うつ病」と誤診されて10種類以上の薬漬けに陥っていた会社員男性の”本当の病名”
  • 医療機関にうつ気分を訴えると、「抗うつ薬」を処方されることが多い。しかし、それが「誤診」であると治療が長期化してしまう。精神科医の亀廣聡さんは、「抑うつ状態を示す病気のうち抗うつ薬が効くのは『大うつ病』だけ。誤診に気付かないと投薬量がどんどん増えてしまい、『薬のせいで病気』という状態の人もいる」という――。(第1回/全2回)

    ※本稿は、亀廣聡・夏川立也『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らずうつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。


    ■なぜずっと薬を飲んでいても治らないのか


     私のクリニックは、メンタルの不調によって休職を余儀なくされた人たちのリワーク(職場復帰)支援を専門とする心療内科です。当クリニックには、長期間症状が改善せず職場復帰できない患者さんが数多く転院してきます。


     ほとんどの患者さんが前院で「うつ病」や「抑うつ状態」などと診断され、抗うつ薬や睡眠薬を飲み続けている人たちです。長期の服薬にもかかわらず、なぜ、改善しないのでしょうか。


     理由を述べる前に「うつ」について簡単に解説しておきます。憂うつ、落ち込むといった気分が強く、かつ持続していることを、日常的には「うつ」「うつ状態」と表現されますが、精神医学では「抑うつ状態」という用語を使います。一時的な気分の落ち込みのような病的でないものと、認知症に起因する症状を除くと、抑うつ状態を示す病気は次の6種類程度に分類されます。


    ———-

    ・双極性障害

    ・大うつ病(うつ病)

    ・抑うつ体験反応(神経発達障害との併存症として広義の適応障害を含む)

    ・症候性抑うつ状態

    ・統合失調症の抑うつ状態

    ・薬剤性抑うつ状態

    ———-


     じつは、抗うつ薬が効くのはこの中の「大うつ病(うつ病)」だけです。


     しかし、抑うつ状態を訴える患者さんに対し、その状態だけにフォーカスしてうつ病と診断し、抗うつ薬を処方するケースが非常に多いのです。


    ■安易に抗うつ剤を処方する医師、納得する患者


     冒頭に記したような、他院で治療を続けながら状況が改善されず、当クリニックに転院してきた事例は、これまでに全受診者の3分の2ほどあります。全受診者でも「うつ病」という診断のつく方はたったの2人でした。転院して来られた患者さんでうつ病の診断がつく方はゼロでした。


     ほとんどの患者さんが、効かない薬を飲み続けていたことになります。そして、薬には副作用があることを忘れてはいけません。副作用が原因で会社に行けなくなることもあり、こうなると抑うつ状態になったきっかけすらわからなくなってしまいます。


     うつ気分を訴え心療内科を訪れる人はたくさんいます。そして心療内科の中には、1日に30~40人という多くの患者さんを、1人当たり15分程度の短時間で「うつです」と診断し、すぐに抗うつ薬や睡眠薬を処方するクリニックもあります。患者さんの方も、うつ病の診断書をもらい薬を処方されるとある意味で安心し、納得します。


     うつ病ではないのに抗うつ薬を飲み続ける。しかし当然ながら効果はなく、副作用に苦しむことになる。こうして、治療が長期化するケースが多発するのです。


    ■いつのまにか薬漬けに


     非常に深刻な状態になることもあります。複数の医療機関で「うつ病」と診断されていた会社員のBさんのケースです。


     最初にBさんが当クリニックを訪れたとき、私は衝撃を受けました。処方されている薬の量が尋常ではなかったのです。多くは向精神薬で、まず抗うつ薬。それに「てんかん」の薬が3種類と、「非定型抗精神病薬」という統合失調症治療にも使われる薬が2種類。さらに、今ではすでに販売中止になっている強力な催眠、鎮静作用のある「ベゲタミン」という製剤が2錠。


     加えて睡眠薬や抗不安薬、薬の副作用による便秘を解消するための便秘薬まで含めると、合計10種類以上の薬を飲みながら仕事を続けていたのです。


     これは通常あり得ないことで、薬のせいで病気になっているような状態です。生きているのが不思議、といってもいいくらいです。当然まともに仕事ができるわけもなく、物忘れをする、駅の階段でつまずいて転倒するといったことが続いていました。そして何年も、休職と復職を繰り返していました。

    ■セカンドオピニオンを求めたが


     この薬の量にはBさんも不審を感じており、近くの大学病院にセカンドオピニオンを求めましたが、診断はうつ病で間違いなく、薬の量も妥当と言われたそうです。その後、名の通った別の先生のクリニックを受診したところ、「たしかに薬が多すぎる」ということで転院。当初は薬が減って喜んだものの、対症療法に偏った治療のせいか、気付いたときには以前より増えて、山のような薬を飲まされていました。


     そして、すがる思いで相談に訪れた内科医(漢方医)に紹介され、当クリニックを受診されたのでした。Bさんの性格は粘り強く、あきらめずに会社に通っていましたが、当時は何回目かの休職中で、会社から「次はない」と言われているようなタイミングでの受診でした。


    ■診察すると全く別の病気だった


     結論から言うと、Bさんはうつ病ではなく、私は「双極Ⅱ型障害」と診断しました。


     双極性障害は、一般に「躁うつ病」と呼ばれる病気です。「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2種類があり、Ⅰ型は躁状態が顕著に現れますが、Ⅱ型は軽躁状態程度の緩やかな山が長いため気付かれにくいという特徴があります。どちらも、うつ病のように原因がよくわからない病気ではなく、脳神経系のバランスが崩れることで発症するというメカニズムがわかっている病気です。


     双極性障害の中でも双極Ⅱ型障害は、薬に頼らずに、医師の指導のもと生活リズムや運動・食事などの生活習慣を改善し、さらに認知行動療法などを根気よく行うことで症状を改善させることができます。少々時間はかかるかもしれませんが、寛解状態(病気による症状が好転もしくはほぼ消失し、医学的にコントロールされた状態)に持っていくこともできます。


     Bさんはうつ病ではないのでまず抗うつ薬をやめ、気分安定薬1種類だけにしました。あわせて睡眠薬も抗不安薬もすべてやめて、代わりに漢方薬を処方しました。


     睡眠薬や抗不安薬、一部の抗うつ薬を中止すると「離脱症状」が生じます。Bさんにも、異常な発汗、手や体幹の震え、強い不安やイライラが生じました。イライラが私に向かい、「薬を飲んでいる方が楽だ! 」と責められる日々がしばらく続きましたが、その都度、すでに回復してきた部分に目を向けさせ、勇気づけ、励まし、なんとか離脱症状の波を乗り越えました。

    ■1年4カ月の治療で完全に職場復帰


     Bさんは1年4カ月の間、日曜日以外の毎日、当クリニックに通ってくれました。そしてリハビリ出勤を経て、ついに職場復帰を果たします。リハビリ出勤の際、会社の上司は「あれだけたくさんの薬が1剤になってあとは漢方薬なんて、本当に治ったと言えるのか。二度と休職しないと保証できるのか」と復職に懐疑的でしたが、その後のBさんの安定した働きぶりから、完全復職を認めました。


     Bさんのような双極性障害は、脳神経系のバランスの乱れによって、躁状態とうつ状態が混合して同時に存在してしまう「混合状態」が問題になります。混合状態では、


     ・意欲はあるのに気分が悪くて動けない。だからあせる。

    ・気分はいいのに何かしようという意欲が湧いてこない。だからイライラする。


     というような、なんとも耐え難くつらい「抑うつ状態」が現れます。


     人はそのような不安やあせり、イライラを感じると、自分で「なんとか解消したい」と思うものです。たとえば、とくに若い女性などは大量に食べ、吐いたりします。そのとき、瞬間的にスッキリするという体験をするとそれが習慣になります。


    ■表層だけを見て根本的な問題を見落とす


     そういう人が精神科を受診すると「摂食障害」と診断されることもあります。食べて吐く代わりにお酒やドラッグに依存する人は、「アルコール依存症」「薬物依存症」と診断されます。理由もないのに常に不安を感じると訴える人は、「不安神経症」という病名になって、抗不安薬を処方されることになります。


     問題なのは、これらの診断名は、患者の表層的な症状と行動だけをとらえてそう表しているだけで、根本的な問題が明らかになっていないことです。メンタル不調で現れる多くの症状の根本には、双極性障害による混合状態が隠れています。そこに目を向けずに、さまざまな病名で診断され、薬を出され、長期間苦しみながら病気と戦っている人が非常に多いのです。

    ■うつ病と診断されやすい双極Ⅱ型障害


     双極性障害のうちとくに双極Ⅱ型障害は、うつ病と診断されやすい病気です。前医でうつ病と診断されて症状が改善せず、当クリニックに転院してきた患者さんのうち、6割以上の人が双極Ⅱ型障害でした。


     以下のような報告もあります。


    ———-

    ・うつ病患者の60%が、じつは双極Ⅱ型障害である。(Benazzi.2004)

    ・双極Ⅱ型障害の37%はうつ病と誤診されている。(Ghaemi.2000)

    ・双極性障害の77%が最初にうつ病などと診断されている。(ノーチラス会アンケート)

    ・正しい診断までに4年以上かかった人が51%いた。(同)

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     繰り返しますが、抗うつ薬が効くのは大うつ病(うつ病)だけです。何年も抗うつ薬を飲んでいて改善されていない人は、かなりの確率でうつ病ではないと断言できます。


     あなた自身や周囲の人で、うつ状態に苦しんでいる人はいませんか。うつ病と診断されて、何年も薬を飲みながら苦しみ続けていませんか。もしそうなら、「抑うつ状態を示す6種類の病気」のことを思い出してください。そして信頼できる医師のもと、症状と対処法をあらためて見つめ直してください。


    引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/aac8948bf72387abbb71c898a40d5e0b996695a8


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