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【家族の貧困】「息子は小さな恋人だった……」母が大事に育て上げたはずのひとり息子の凋落~その2~
  • 親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。


    * * *


    東京都23区内に住む大谷綾子さん(仮名・75歳)の“自慢のひとり息子(50歳)”は10年間の引きこもりを続けている。


    夫がいると、家庭に争いが生まれる

    その頃から3年ほど、夫はほとんど帰宅しなくなったという。


    「週に1~2回帰ってきて、背広を替えて洗い物を置いて“あちら”の家に行く。けれど、その方が好都合でもあったんです。夫が家にいると家庭に争いが生まれる。夫が帰ってきたときは、私は息子と息子の部屋で息を殺して出ていくのを待っていました。思えば、息子の中学校の成績が良かったのは、夫が家におらず、いい環境で勉強に集中できたからかもしれない。夫と3年間口をきいてませんでしたから」


    しかし、高校時代に夫は浮気相手と別れたのか、家に帰ってきてしまった。それゆえに息子は大学を浪人した。しかし、母と息子の結びつきが強いのに、なぜ東京の大学に進学したのだろうか。


    「夫は“ユウ(息子)は親離れしようとしているんだ”と言う。でもたぶん、ずっとやりたいと言っていた、マスコミの仕事がしたかったんだと思います」


    大学を卒業したが、就職氷河期だった。息子が就職できたのは、食品製造会社の営業職だった。


    「連日、不採用が続き、心もボロボロだったと思います。息子が就活のときに東京に何度も行こうとしたのですが、主人は“ほっておけ”と言う。息子はあのときに、間違った方向に進んでいったんだと思うんです」


    食品製造会社を半年で辞め、その後は職を転々としていたという。


    「テレビ局のADなんかもやったみたいですけど、眠れない、風呂に入れない、パワハラの連続で辞めたようでした。その後は、出版社や新聞社の契約社員になったみたいだけれど、いじめみたいに終わりがない仕事を強要されて退職。30歳のとき、息子は腹を決めて飲食店の雇われ店長になりました。20日連続勤務などが当たり前だと言い、それはやめさせました。自殺でもされたら困りますから」


    最も長かったのは、化粧品関連会社。31歳から7年間勤務した。在庫管理をしていたという。


    「ある日、会社に行ったら、オフィスが閉鎖させていたそうです。事実上の倒産です。このときの仕事仲間が別の健康食品関連会社を立ち上げて、息子はそこに誘われた。部長の肩書を与えられたとうれしそうにしていました」


    しかし、実際はかなりグレーに近い商法で、健康食品を売りつける仕事だったという。


    傷ついて帰ってきた息子を抱きしめてあげたい

    10年前40歳の息子は、ボロボロになって胸に飛び込んできた


    「あれは東日本大震災の年でした。余震が多く、放射能のこともあって、みんなが不安と恐怖におびえていた。そんな中、息子が勤務する会社の社長は、高額な健康食品の代金未払いの督促電話を息子にかけさせたんです。被災した地域にもお構いなしだったそうです。回収ノルマも課せられ、息子の成績はビリだった。それに対して、上司からは容赦なく叱責があり、電話をかけるとお客さんからは泣かれたり怒鳴られたりする。回収ができないと、反省文を書かされた。それで、体調を崩して、うつになった。ある日、目の前が真っ暗になって、電車に吸い込まれそうになったとか。そのときに私の声がしたそうです」


    電話がかかってきたので、すぐに綾子さんは東京に向かう。朝から駅のホームに座りっぱなしだった息子を見つける。タクシーに乗せて息子の自宅に連れて帰ると、息子は「お母さんごめんなさい」と泣いたという。


    「私の胸に飛び込んで来たという感じ。雛を守る親鳥というか……心療内科に連れて行ったら、適応障害で退職しました。東日本震災までの日本って、本当にブラック企業が多かったと思うんです。“死んでも仕事しろ”とか言われて、パワハラもセクハラも当たり前だった。震災を経て、日本人の考え方が変わったのか、だいぶ会社の労働環境はよくなったと思う」


    それから1年後、夫と綾子さんの離婚が成立した。


    「ずっとお金のことでもめていたので、5年もかかってしまったんです。地元にいると噂になるから、夫から得たお金で東京にマンションを購入。私の両親も亡くなったし、私も心機一転東京で暮らしてみたかった。震災直後は今の半分の値段でした」


    そこで息子と一緒に10年間暮らしている。


    「息子は引きこもりと言っても、私とは話すし、パソコンでなんかやっているみたい。でも外にはほとんど出たがらない。筋トレは一緒にやっていますよ」


    今の生活費は綾子さんの親の遺産を切り崩しながら、年金で生活をしている。


    「私が93歳くらいまで……あと18年はなんとかなると思います。私が要介護になっても、介護保険制度があるから大丈夫」


    その先の息子の人生についてはどうだろうか。綾子さんは「考えても仕方がないから考えないようにしている」という。


    今、抱えている社会問題に少子高齢化や晩婚化などがあるが、それは母親(父親)と子供の距離が“近すぎる”という問題も原因のひとつではないかと思う。夫婦不和、モラハラ、相互依存……時間も経済的にも余裕がある親が「よかれ」と思い、家庭の中k


    今、抱えている社会問題に少子高齢化や晩婚化などがあるが、それは母親(父親)と子供の距離が“近すぎる”という問題も原因のひとつではないかと思う。夫婦不和、モラハラ、相互依存……時間も経済的にも余裕がある親が「よかれ」と思い、家庭の中で、子供の自立の芽を摘んでいるケースをよく目にする。


    また、親の賞賛を受け続けた子供が、社会に出て荒波を受けたらどうなるか……。仲がいい親子のことを「友達親子」と言うが、その中にはまるで「恋人」と呼べるほど親密な関係も存在する。多くの親は子供を愛し理解している。しかし、親に残された時間には限りがある。それゆえに、子供を自立させることを強く意識しながら育てることも必要なのではないだろうか。


    引用先:https://serai.jp/living/1038496


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