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ひきこもりという概念の歴史(2) ひきこもりの概念が広まった事件

2015.09.22

今では広く普及し認知されるに至った「ひきこもり」という言葉ですが、その過程には、「ひきこもり」という言葉が悪い形で広まってしまった時期もありました。「ひきこもり」という言葉・概念の経てきた歴史について、ひきこもり問題の世界的な第一人者である筑波大学社会精神保健学分野教授・斎藤環先生に引き続きお話をお聞きしました。

ひきこもりは病気ではない

かつて医療界では新しい病名を作ったり、そこに提唱者の名前をつけたりすること(たとえば、「アルツハイマー病」を発見したのはアルツハイマー氏)がブームになった時期がありました。しかし、私はひきこもりを病気であるとは考えていません。ひきこもりは単なる「状態 condition」であると考えています。ひきこもりは病気でもなければ不道徳なことでもない、ニュートラルな状態像に過ぎません。まずはそれが大前提です。

1970年代に「学校恐怖症」という病名が生まれました。そこからさまざまな変遷がありました。学校恐怖症から登校拒否症、登校拒否症から登校拒否、登校拒否から不登校、というように「病名」が「状態」になっていったのです。

このように、不登校を指す言葉が「病気」からよりニュートラルな「状態」へ変化してきた歴史的背景もあり、「社会的ひきこもり」は最初からニュートラルにとらえるようにしていこう、いきなり病気と認識することはやめていこうと考えるようになりました。

たとえば、ひきこもることで素晴らしい研究成果を挙げられた、中村修二さんの例があります。中村さんは青色発光ダイオードの研究成果によりノーベル賞を受賞されましたが、大学時代、何ヶ月間もまったく誰ともコミュニケーションを取らずに勉強に没頭された時期があるそうです。このひきこもり経験なしではノーベル賞受賞もなかったかもしれません。

ひきこもっていた時期の中村さんを「病気」と診断する人はいないでしょう。これはちょっと特殊な例ですが、強いストレスを受けて、休養のために一時的にひきこもるようなことは誰にでもありうるし、むしろ必要なことです。だからこそ、ひきこもりは一義的には「状態」と考えるべきなのです。皆さんにも、ひきこもりを考える際には「病気」や「怠け」といった価値判断からはできるだけ自由でいていただきたいと考えます。

介入の対象とすべき「ひきこもり」状態は確かにあります。それは、本人がやめたいのにやめられない、周囲に対しても問題を及ぼしている状態です。たとえば、長期間にわたって就労できないことが家族の負担になり、本人にとっても大変な負担になっているケースがあります。以前の記事で触れた家庭内暴力を振るう事例や、自殺にまで至るケースも、多くはありませんが存在します。

ひきこもりは、本人がその状態に自足していて、一人で充実した活動をしていたり、順調になんらかの成果を出している場合にはまったく問題ありません。しかし残念ながらそうした事例はきわめてまれです。多くの場合、長期間に及ぶ孤立状況は、心身の健康にさまざまな悪影響を及ぼすことについてはすでに多くのエビデンスがあります。

私がひきこもりを定義し、治療的介入について啓発活動を続ける理由は、それがさまざまな二次的問題(参照:「ひきこもりとは何か。ひきこもりの定義とその特殊性」)を引き起こすことで介入の対象になる可能性があることと、きちんと介入して支援をすれば十分に社会復帰ができる事例が多いからです。

・悪いかたちでひきこもりが広まってしまった事件
2000年1月に新潟県柏崎市で少女監禁事件が起きました。同じ2000年5月には佐賀でバスジャック事件が起きました。そのどちらも「犯人はひきこもりだった」という報道がなされてしまいました。

これらの犯罪自体はもちろん許されることではありません。しかしひきこもりのために犯罪が起きたわけではありませんし、むしろひきこもっている人たちは、一般人以上に犯罪とは無関係です。当時マスコミが雪崩を打って「ひきこもりは犯罪者予備軍」といった報道を繰り返しましたが、「これは誤解も甚だしい。ただでさえ社会から排除されているひきこもりの人々に対する理不尽なバッシングを止めなければならない」と考えました。

そして、たまたまひきこもりの本を出していた専門家が当時は非常に少なかったこともあって、私のところにも取材が殺到しました。「この機会を活用すれば、火消しをするついでにひきこもりについての理解を広げるチャンスにもなる」。そう考えて、当時はすべての取材を受けるようにしていました。ただの出たがり精神科医と揶揄されても今更反論はしませんが、少なくとも当時はそういった使命感もあったのです。最近の、薬物依存症に関する松本俊彦先生(参照:松本俊彦先生プロフィール)の獅子奮迅、八面六臂のご活躍をみていて、共感とともに応援したくなるのはそうした経緯があったからでしょう。

 

引用先 記事詳細URL

https://medicalnote.jp/contents/150722-000006-CKXEZI

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