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ゲームを取り上げても不登校が治らない訳
2019.07.26
不登校やひきこもりの子供をもつ親は、「ゲーム・スマホ依存を何とかしたい」と考えがちだ。だがそうした家庭の支援を30年以上続けている杉浦孝宣氏は「ゲームやスマホを目の敵にする必要はない。それ以上に自分が本当にやりたいことを見つけると、自然とやりすぎないようになっていく」という――。
※本稿は、杉浦孝宣『不登校・ひきこもりの9割は治せる 1万人を立ち直らせてきた3つのステップ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■不登校と併発することがある「起立性調節障害」
起立性調節障害は自律神経系の異常から循環器系の調節がうまくいかなくなり、立ちくらみ、寝起きの悪さ、倦怠感、頭痛などを訴える病気です。小学校高学年から中学生、高校生に多く見られ、日本小児心身医学会によると、不登校児童生徒の3割から4割が起立性調節障害を併発しているといいます。医師も原因不明としている場合が多く、詳しいことはまだわかっていません。
これが原因になって、朝起きられず、午前中は登校できなくなり、不登校や高校中退に至ったと相談に来るケースがとても多いのです。
しかし、起立性調節障害の生徒を見ていると、普段は起きられなくても、イベントで東京ディズニーランドに行く、スキー旅行に行くとなると、早朝の集合でも遅刻せずに参加できるのです。
今までの経験からすると、起立性調節障害があっても、親から押し付けられたのではない、自分の本当の目標が定まり、朝起きる明確な目的ができると、自然に起きて登校してくるようになります。たいていの場合、20歳ごろまでには自然に治っていきます。
■発達障害でも不登校やひきこもりから脱出してる
発達障害(自閉スペクトラム症、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害)があるといって相談に来るケースも増えています。私たちはそういった傾向があると軽く留意しながら指導するだけで、特別視することはありません。ひとつのパーソナリティ、個性としてとらえて普通に接しています。あまり色眼鏡で見て指導すると、かえってよくないと感じています。
発達障害が一般的に認識されるようになったのはここ10年くらいのように思いますが、その前までは、ちょっと個性のある子というくらいのものでした。ですから、私たちは個性のひとつくらいに考えて対応しています。それで何か特別困ったことはありません。そういった子でもほかの子と同じように、不登校・ひきこもりから脱出していきます。
ただ問題なのは、子どもが不登校になったり、退学や転学するのに手続きが必要となると、学校が「医師の診断書を持ってきてください」と要請することが多くなっていることです。
■心療内科で「どんどん薬が増えていく」
親もどうしたらいいかわからないので、駅前にあるクリニックなどに子どもを連れていきます。精神科という言葉には心理的抵抗があるので、今は心療内科が主流です。心療内科でも診察対象に青少年の不登校・ひきこもり、思春期外来などと看板やホームページに記載していますから、親はここで診察してもらったら治るのかもしれないと思うのでしょう。
心療内科で診察された子どもたちは、うつ病、不安障害、適応障害、統合失調症、自律神経失調症など、さまざまな病気として診断されてしまいます。すると、さまざまな向精神薬が処方されます。Aという薬が効かなかったらBという薬に替えるというのが他の診療科では一般的ですが、精神科・心療内科では、Aに加えてBという薬も投与され、それでも効かなかったらさらにCを加えるというように、どんどん薬が増えていきます。
この向精神薬多剤投与は社会問題化していて、防止のために、平成30年には厚生労働省が多剤併用すると診療報酬改定で減算対象となるという通達を出しています(平成30年厚生労働省告示第43号「診療報酬の算定方式の一部を改正する件」)。しかし、現状では減算対象になるだけで、報告書を提出すれば多剤投与もできてしまうのです。
もちろん、全ての医師が多剤投与しているわけではありませんが、社会問題化していることは事実です。
■「薬を飲むと、本当の自分じゃないみたいな気持ちで嫌」
私は専門家ではありませんので詳しい説明はできませんが、実際の生徒たちの感想を聞くと、薬で治すという方法に疑問を感じます。
例えば、高1の夏から1年半のひきこもりになっていたユウキくんもそうです。
ユウキくんが学校に行けなくなって1週間後、お母さんは学校のスクールカウンセラーに相談しています。すると、スクールカウンセラーからすぐに心療内科を受診するように言われます。翌週に心療内科を受診しました。すると、ユウキくんはうつ病、社交不安障害と診断され、自殺をする可能性があると判断されて病院に入院します。約1カ月後に退院し、その後は通院しながら3種類の薬を服用するように言われます。
その後、ユウキくんは高1をもう一度やりなおすことになって、4月から学校に通い始めましたが、「教室のなかで嫌な怖い感じがする」と訴えたため、医師はさらに薬を増やします。
ユウキくんは「薬を飲むと、頭がボーッとして、本当の自分じゃないみたいな気持ちになって嫌でした」と言います。外出するときだけの服用でもよいか主治医にたずねたものの、「飲み忘れると症状が不安定になるので、欠かさず飲むように」と言われて、飲み続けていました。ある時アルバイト先の知り合いに、「薬が効いてるの? 効いていないなら、飲まなくていいんじゃない? 」と言われて、ハッとしたそうです。
「それで、薬を飲むのを一切やめて、病院へ通うのもやめました。すると、頭がボーッとする変な感じがなくなったのです」
■「やりたいこと」を見つければ自然と治っていく
その後のユウキくんの復帰の様子は、本書で述べている通りです。薬を5月にやめて、翌月の6月には当会で学生インターンになり、立派に司会をしたり、プレゼンをしたり、資料を作ったりしています。
さまざまな見方がありますが、個人的には、私はこれらの問題は病気とは考えていません。薬で治すよりも、自分が本当にやりたいことを見つければ、そのために行動できるようになって自然と治っていくように見えます。
こういうことを書くと、「うちの子が頭痛いとかお腹痛いとか言うのは、やっぱり仮病なんだ」と思う、お父さんお母さんもいるかもしれません。しかし、本当に痛い場合も多いので、仮病と決めつけてはいけません。サボって起きられないことと、本当に具合が悪くて起きられないことの違いは、親でもわかりません。
■NGワードは「頑張れば行けるんじゃないの」
そこで「あんた、本当はサボってるんじゃないの」「頑張れば行けるんじゃないの」と言うのはダメです。それはNGワードです。これを言ったら、親子関係が悪くなってしまいます。親が子どもを疑うと、親への信用性がなくなります。親はどうせわかってくれないと思うと、反抗するようになるだけです。
ただ、最初は本当に痛かったけれども、親がマンガを買ってきてくれた、ハンバーガーを買ってきてくれたというように甘やかすと、それを利用しようと思い始める場合もあります。実際に、生徒と仲良くなってくると「あの時は実は仮病だったんだ」と告白されることもあります。
信じすぎると今度はなめられるので難しいですが、疑うよりはまだいいと思います。ただ、家族で判断するのは難しいので、これにも第三者の目が必要になってきます。私たちはたくさんの例を見ていますから、本当に具合が悪いのか、そうでないのか、ある程度判断ができます。親子だとその基準がわからないので、第三者に見てもらうのがベターです。
■「高度な言い訳」で自分を守る
どちらにしても、不登校・ひきこもりの生徒は、何かしら病気の診断をされていることが少なくないのですが、それは薬で治すのではなく、環境を変えて、自分の本当にやりたいことを見つけることで治っていきます。やりたいことを見つけると、その道を進むために自分で学校に行くなり働くなりして、元気になります。
また、不登校やひきこもりの子には防衛機制を起こすケースが多いのではないかと感じています。防衛機制とはフロイト心理学の用語で、外界の環境や心身の変化に対応して湧き起こる無意識レベルの不安や恐怖、欲望、衝動から自分自身を守るために、無意識的にもたらされる防御反応のことです。難しそうに聞こえますが、つまりは「高度な言い訳」です。
高校2年生で不登校になり、定時制高校に編入して高校卒業を目指しているコウタくんは、内緒でボランティアに行ったことで、スタッフの竹村にひどく叱られました。コウタくんは10月に大学の推薦入試を控えていたのに、8月という直前期にボランティアに行ったから怒られたのです。
ボランティア自体はいいことで、本人は「自分が本当に医師になるべきかどうか確認に行った」と言いますが、本心では、迫りつつある入試に向けて勉強しなくてはならないのに、いっこうに数学の偏差値が上がらず、勉強から逃げ出したい気持ちがあったのです。そこで勉強から逃げ出す口実としてボランティアに行ったのです。
■原因は「自我をコントロールできない」こと
コウタくんに悪気はありませんが、これは誰かがコウタくんに言わなくてはならないことですし、コウタくんに立派になってもらいたいからこそ、言う必要があります。そこで竹村が説教をしたのです。
コウタくんは「その時は本当に自分が医者になるべきか確認するためだと自分に言いきかせていたけど、本当は数学がずっと得意だったはずなのに、入試直前になっても数学ができなくて、勉強したくなくなった」と泣き出しました。
このように、不登校・ひきこもりの子は、自我をコントロールできないために、無意識に合理化した一見正しいように聞こえることを言うこともあります。高度な言い訳です。それを親が否定すると、反発して、親子関係が悪くなってしまいます。こういったときにも本人が信頼している第三者が指摘するべきでしょう。
■ゲーム・スマホは「有害」ではない
次に、よく質問されるゲーム・スマホ依存についてです。
まず、ゲーム、スマホというと目の敵にするお父さんお母さんが多いのですが、日常生活に支障をきたさない範囲できちんと付き合えば、特に有害ではありません。私自身はゲームを全くしないので実感はありませんが、若いスタッフや学生インターンが、ひきこもりの生徒との信頼関係を構築するまでの過程においては、ゲームはコミュニケーションツールとして大きな役割を担っています。
ひきこもりの生徒が登校してくるようになると、休み時間に一緒にゲームをしてコミュニケーションを深めていきます。特に最近はチームプレーをするゲームが多くなってきているので、一緒にプレーすることで友情を深められます。ですから、ゲームの全てを否定するよりは、より有効に活用するほうに考え方を変えることをお勧めしています。
また、最近はゲーム自体が「eスポーツ」というスポーツの一種として肯定的に捉えられるようになってきています。全国大会や世界大会などもあり、2022年のアジア競技大会では正式種目になることが決まっています。2024年のパリオリンピックでも正式種目化が検討されているところです。
2018年度には毎日新聞社主催の「第1回全国高校eスポーツ選手権」が開催されています。当会でもこれをきっかけに部活としてeスポーツ部が発足し、この大会の出場に向けて、みんなで活動しました。2019年度も参加する予定で、活動を続けています。
■「プロゲーマーになりたい」ならとことんやるのも手
うちに来る生徒でも、「ゲームが好きだから将来プロゲーマーになりたい」という生徒がときどきいます。こういった生徒にはとことんやらせてみるのも手かもしれません。だいたいの生徒は、スタッフの竹村と対戦してボロボロに負けます。
そうすると、プロゲーマーの道はどれだけ難しいのか自分で納得します。そして、「プロゲーマーになるくらいなら、大学に進学したほうがよっぽど楽だ」などと言いだします。上には上がいることを実感したら、自分なりにまた別の道を探し始めます。
ただ、ゲームをやりすぎて昼夜逆転するなど、生活に支障をきたしているのなら、それは制限しないといけません。
私たちは生徒と話し合って、お互いが納得したうえで、かつ実行可能な約束をすることで、ゲーム依存になることを防いでいます。同時に、その子が将来どうしたいのか、一緒に考えていくことが大事です。ゲーム以上に自分が本当にやりたいことを見つけると、自然とやりすぎないようになっていきます。
引用先:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190726-00029376-president-life
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