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ミイラ遺体になるまで 48歳「引きこもり」男性が放置された事情
2015.08.27
地域の中で、静かに高年齢化していく“引きこもり家族”の行く末を予兆させるような出来事が、ある日突然、埋もれた地表から噴き出すように表面化することがある。
例えば、解体中の住宅から、引きこもっていた当時48歳の男性のミイラ化した遺体が発見されたという札幌市の案件。筆者がこのことを知ったのは、つい最近のことだった。
「引きこもりの兄」がミイラ化
48歳男性遺体を民家解体で発見
事件が発覚したのは、2012年11月のことだ。当時の北海道新聞の記事によると、男性の遺体は、すでに死後数年が経過していたという。
それまで男性は、年老いた母親と姉妹と一緒に同居していて、4人家族だったようだ。
しかし、母親は98歳で亡くなり、残された姉妹も同年11月1日に転居していったため、その後、解体作業が行われていた。
男性の遺体が、民家を解体していた作業員らに発見され、警察に通報があったのは、その1週間後のことだ。
男性の部屋は、衣類やゴミなどが散乱。遺体は、布団や大量のゴミの中に埋もれていたという。
<兄は2年ほど前から自室に引きこもり、生きているのか死んでいるのか分からなかった>
同新聞の記事を見ると、同居していたという当時46歳の妹が警察の事情聴取を受け、そんな説明をしていることが報じられている。
ミイラ化した兄は、実は「引きこもっていた」という、関係者には他人事とは思えない衝撃的な話だった。
<兄が引きこもって以降、姉と私は、この部屋に一歩も足を踏み入れていない>
そう妹が説明していることも掲載されていた。
しかし、この記事を読む限り、引きこもっていた男性の死因については触れられていない。
事件はその後、毎日新聞に続報が載っていた。
翌13年の4月2日、北海道警札幌手稲署は、札幌市の民家で弟の遺体を遺棄したとして、当時49歳の姉を死体遺棄容疑で札幌地検に書類送検していたのだ。
同記事によると、男性は病死したとみられ、姉は、こう明かしたという。
<弟が死んだことに気づかなかったことを近所に知られたくなかった>
姉は、2012年11月4日以降、片付けるために弟の部屋に入った際、頭部などを発見。弟の白骨化した頭部や腕の一部を、二つのポリ袋に入れて遺棄したらしい。
<頭以外は大量のごみに埋もれており、気付かなかった>
同記事には、そんな姉の供述も紹介されている。
なぜ数年間も外部の人間が
“異変”に気づけなかったのか
この家庭の中では、いったい何が起きていたのか。なぜ家族は、外部の人や関係機関にSOSを発信できなかったのか。周囲は、もっと早く“異変”に気がついて、手を差し伸べることはできなかったのか。
筆者の元に毎日寄せられてくる当事者や家族の窮状を訴えたメールの多さからも、水面下には同じような状況に悩み苦しむ家族が、各地に埋もれているように実感する。
この家庭を担当していたという民生委員は、1年半くらい前に、男性の行方がわからないことを知らされていたという。
前出の北海道新聞の記事には、その民生委員のコメントが掲載されている。
<異臭がしていたかもしれないが、猫をたくさん飼っていて、猫の臭いが充満し、気づかなかった>
猫の臭いが本当に遺体の異臭をかき消していたのかどうかはわからない。ただ、以前も当連載で紹介したように、地域で担当の民生委員が、高齢者の家庭に30年にわたって引きこもっていた息子の存在に気づかず、父親による息子殺しの悲劇に至った事例もかつてあった。
生活保護を受給させてもらえずに、ライフラインを止められ、空のマヨネーズ容器だけ残して餓死した大阪市の当時31歳女性の事件も記憶に新しい。
弱者には冷たい社会。家族ごと地域に埋もれ、情報がないゆえに、どこにも相談できないまま、本人を巻き込みながら行き詰っていく“引きこもり家庭”の闇は深い。
どのようにすれば、今回のような一家の末路を防ぐことができたのか。地域の関係機関は、どのような関わりを家族と持ってきたのか。
当事者たちがSOSの発信をためらわせてきた“阻害”要因を1つ1つ見つけだし、地域のみんなで一緒に考えながら“阻害要因”を取り除いていく作業が必要だ。
札幌市の元当事者がつくる
「引きこもり」の理解の場
この事件の後、札幌市の民生委員児童委員協議会では、「引きこもり」に関する研修を行うなど、少しずつ「引きこもり」への関心と理解啓発を進めるようになった、と指摘するのは、NPO法人「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」の田中敦理事長(49歳)。
若者の範疇に入らない青年・壮年期の引きこもり者への対応に軸足を置き、当事者自らが「新しい働き方」を創造するなど、幅広い活動を続ける自助グループで、田中理事長自身も元当事者だ。
この事件について、決して埋もれさせてはならないと語る。
「引きこもりのことを周囲に知られたくない家族はまだまだ多いです。親は親、子どもは子どもということを言う人もいますが、親子関係はそう簡単に切れない関係ではないかと思っています。親子関係が行き詰まったときに、誰かに相談できる関係があればいい。でも、それができにくいのが、やはり引きこもりなのではないかと思っています。身近な相談相手である民生委員児童委員も、引きこもりについては、ほとんど理解が進んでいないのが現実であり、これからの大きな課題だと思っています」
引きこもり当事者たちが、安心して生活できて、多様な関係性を構築できる場が、ますます求められている。
そこで、こうした理解と今後の生き方を多様な参加者で話し合えることを願って、「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」では、10月に北海道版「ひきこもりフューチャーセッション(FS)」を企画し、民生委員児童委員にも参加を呼びかける予定だ。
ネーミングは「ひきこモシリフューチャーセッション」。
「モシリ」とは、人間の静かなる大地を意味するアイヌ語。「ひきこモシリ」とは、引きこもり当事者が安心できる居場所として、自分たちが伸び伸びと活躍する「ひきこモシリの開拓こそが真の地方創生であるぞ!」という思いを込めたという。
テーマは「親亡き後の当事者として改めて親子関係を考える」(仮題)。 両親を亡くし、いまは1人で生活している当事者から、過去の親子関係の苦悩についての発表の時間も設けられる。
<ひきこもり当事者と親や親族との間には、考え方に大きなズレが生じコミュニケーションがうまくできない状態を続けている人が多いです。「ひきこモシリフューチャーセッション」では、そのようなズレから生まれる相互不信感を解消していく対話の場です。そして、ひきこもりの人たちの未来をどのように切り開いていくか、新しい働き方や生き方とはなにかをファシリテーターの協力のもと参加者と一緒に考えていきます>
引用先 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/77403
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