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全国の引きこもりが交流会、なぜ彼らは集まれたのか

2015.11.19

全国のひきこもり当事者や経験者らが集まる「交流会」が7日、東京・虎ノ門の日本財団で開かれ、同じ思いを持つ人たちと出会ってもらうための様々な仕掛けや配慮が、当事者主体のスタッフたちのアイデアによって用意された。

 対象者は、社会とつながりのない本人や経験者にとどまらず、家族、支援者、どれでもなく関心のある人たちまでと幅広い。「引きこもり」をキーワードにした全国交流会は、支援者主体では行われているものの、当事者が主体になってアイデアを練り、このようにフラットな関係性の出会いの場を社会に呼びかけるのは初めての試みだろう。

 とくに興味深かったのは、「同じ思いを持つ人と出会う」「出会いの形は参加者が選べる」という今回のコンセプト。この日は、受け付けで「当事者」と申告のあった参加者だけでも50人を超え、沖縄や東北などの各地から180人余りが集まった。

引きこもり当事者が話しやすい
様々な仕掛けとは?

 主催したのは、ひきこもり家族会で唯一の全国組織である「全国KHJ家族会連合会」。同会が日本財団助成事業として支部のある地域で開催してきた「ひきこもり大学全国キャラバン」の講師12人も、参加者と出会うために駆けつけてくれて、簡単なトークライヴを行った。

 同会に協力してスケジュールを進行したのは、偶数月の第1日曜日に都内で開催している「ひきこもりフューチャーセッション[庵IORI]」の運営メンバーであるプロボノのファシリテーターや経験者主体のスタッフたち。

 メインの会場では、こうした講師たちとグループトークする場が設けられたほか、スタッフが事前に出し合ったテーマに沿って対話する「庵」的な会議室、疲れた人が休むための「静かな部屋」は図書館のような空間、さらにこうしたテーマとは関係なくしゃべりたい人のための「だべりの部屋」が設けられた。

そして、この日は、同じ思いと出会うための仕掛けとして、自分が参加した思いや話したいテーマ、自分の住んでいる最寄りの鉄道の路線などを希望があれば名札に書くことを提案。名札をかざして見せ合いながら歩いて回る時間を設けた。

 希望者が路線名を名札に書くアイデアは、当初の「同じ地域でつながりたいので住んでいる県を名札に書いてもらったらどうか?」という提案に対して、「鉄道の路線のほうが現実的につながりやすいのではないか?」「ただ、隠したい人もいるので、希望者のみで…」といった意見を踏まえたもので、いずれも当事者から出されたものだ。

 また、話が苦手な人のために、同じ趣味などで出会いを求めることのできるアナログ掲示板を設置。自分の伝えたい思いや考え、情報などを自由に付箋に書いて貼っていこうということになり、「みんなで育てる掲示板」とネーミングされた。

 ただ、「書いていることを見られたくない」「思いを誰かに受け止めてほしいけど、みんなの前に掲示されたくない人もいる」といった気遣いから、目安箱のような箱に入れてもらい、掲示するかどうかによって〇×を書いてもらうことになった。

「引きこもり」がテーマなのに明るい
初めて誰かと繋がれた人も

 なぜ、全国から多くの当事者たちが参加できたのか。そこには、「参加しやすい空気があったから」だと多くの人たちから聞くことができた。

 母親に「行ってみようよ」と誘われて1時間以上かけて来たという20歳代の男性は、ずっと家族以外との関係性がなくなっていた。「人と話す機会はあったほうがいいかな」という感じで来たものの、やはり最初はおじけづいて、すぐには会場に入れず、1階玄関の辺りでうろうろしていたという。

「入ってしまえば何てことはなかったのですが、玄関には、同じようにしている人たちがたくさんいました。これまでイベントに誘われても行ったことはなかった。そのときの気分が向いたって感じですかね」

 埼玉県から来た30代の女性も、初めて参加した1人。「告知で“日本財団のイベント”というのが気になった。引きこもり当事者が自ら語るというポスターなどを見て、いままで見たイベントとは一味違う感じがした」というものの、最初は大人数に慣れなくて、戸惑ったという。

「テーマが引きこもりというと、重くなりかちになるのかなと思っていたけど、全体として明るい雰囲気で過ごせたので良かった。講師の元当事者たちのお話は、みなさんユーモアがあって話術も巧みで、初めてでも安心して聞けたんです。スタッフも含めて明るくて前向きな感じで、自分が励まされたというか、元気がもらえた感じを受けました」

 以前、当連載で紹介した「おがたけさん」は、名札に「セクシュアリティ」と書いて掲げていたら、参加した当事者が名札を見て反応してくれた。個別に話してみると、「セクシュアリティ」という言葉に反応したものの、これまで「ひきこもり」という名のつく場に行っても話すことができなかったという。おがたけさんは、そこでしかない出会いだったので、まったりと過ごそうとしていた予定を変え、一緒に庵形式のテーマ別の対話の場に移動。急きょ、おがたけさんがファシリテーターとして仕切った。沖縄の宮古島から来た「さとさん」、以前、当連載で取り上げた「M君」、庵のディレクターである「しんごにぃにぃ」こと川初真吾さんらとの対話も弾み、そこでしかない出会いがさらに膨らんだ。

 さとさんは、引きこもっていた10年近く前からネット上でつながり支えてくれた仲間たちと、この場で初めて出会うことができた。

「まさかリアルで会えるとは思っていませんでした。優しい方たちで話しやすかった。離島では当事者とは交流がないので(引きこもりはいると思いますが)、新鮮でした。とくにインターネットで交流がある“おがたけさん”と会えたのはとても嬉しかったです。また会って話したいです」

 ネットでつながっていた人たちが、リアルに対面するオフ会のような場にもなった。

 忘れていけないのは、おそるおそる勇気を出して来てくれた人たちの背後には、たくさんの姿の見えない人たちがいるということである。でも、こうして目の前で起きているのは、つながれる人たちからまず社会とつながっていき、声をかけあったりしながら元気になっていく人たちの“変化”だった。

 そして、いまも声を出せずに、また来ることのできない人たちの気持ちを理解できる経験者の中から、そんな彼らと社会をつなぐ人たちが現れた。そんな多くの当事者たちが求めているのは、「引きこもり」という閉ざされた領域の上下の関係性ではなく、実は、社会にいる人たちとのフラットなつながりなのではないか。大事なのは、そうした多様な人たちとの出会いをつなげてくれる人たちの存在や、自らの意思で動き始めた経験者たちよる安心できる出会いの場づくりであることに、そろそろ社会は気づくべきときにきている。

記事詳細 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/81916

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