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夫婦関係と発達障害(下)「言外の意味」どう伝えるか

2015.12.22

――結婚してから相手がアスペルガー症候群だとわかった場合、パートナーシップを構築していくにはどのようにしたら良いのでしょうか?

「人と人とのコミュニケーションは70%が非言語で、言葉を使うのは30%だけなんです。アスペルガーの人は、その30%だけで判断しているわけです。文字通りのコミュニケーションと言っていいでしょう。例えば、バカにしたようにニタニタ笑いながら『あなたはきれいですからね』と言ったら、通常は非言語のメッセージを読み取るでしょう。本当に感心したように同じ言葉を言えば、まさに文字通りのメッセージなわけですが、言葉と裏腹の非言語のメッセージは読めない。ということは、非言語の部分を言語化するとよいのです。非言語の部分は脚本で言えば、ト書きの部分です。ですから、パートナーはト書きもすべてしゃべることをすればいいのです」

「例えば、奧さんが風邪をひいてゴホゴホせきをしながら皿を洗っているとします。夫がやってくれないと心の中で不満を抱えるのではなくて、『私は風邪をひいてせきをしながら洗っているけれども、誰も変わってくれる人がいない。代わりに洗ってくれるとうれしいし、とても感謝するわ』と言えばいいわけです。代わってくれないのをひどいと責めるのではなくて、心の声を言語化しましょう。体調が悪い時に、心の中で優しい言葉を期待するのではなく、『私はあなたの優しい言葉があったら元気になれるわ』と言えば、アスペルガーの人は優しい言葉を言えるわけです。アスペルガーの人の考え方は、『咳をしながらでもできている。だから手伝わなくてもいい。病気を治すのは本人と医者だから、自分には何も関係がない。早く薬を飲んだ方がいいぞ』というだけですよ。どうしてほしいか全て言わないと、わからない。例えば、母の日が誕生日の場合、『お花はカーネーションでいいのよ』と言えば、夕方スーパーに行って、ビニール袋にいれたカーネーションを買ってきて、『はい、これ』と言って差し出します。奧さんは『私はこれが欲しかったんじゃない』と言いたくなると思います。けれども、アスペルガーの男性としては、奥さんの言う通りにしているわけです。言外の意味がわからないとは、このようなことを言います」

――般の男性もそのへんは間違える人が多そうですが(笑)。

「そうかもしれませんね。どうすればいいかと言うと、自分のイメージを言葉にしたらいいのです。H花壇の、3000~5000円のカーネーションの花束を買って来てくれると私はうれしい、『誕生日おめでとう』のメッセージがあると最高なんだけど、と言えばいいのです。毎年、こうしたことを繰り返さなければなりませんが、時には求めるものを食事に変えてもいいですよね」

――察することは無理だから、すべて言葉で要求しろと。

「そうそう。男性も女性も同じです」

――パートナーはかなりの覚悟が必要ですね。

「私が診ている中ですごくうまくいっている人がいて、その人のご主人はどうも純粋なアスペルガーの方のようでしたが、『あなたはなぜカサンドラにならないの?』と聞いてみたら、彼女いわく、『私はお見合いですから、最初から何の期待もしていません』と。お見合い結婚では、この人はこれぐらいの地位の人で、将来の見通しはこうだという条件で結婚して、それ以上は求めなかったことが良かったようです。アスペルガーの男性と結婚する時に、『自分の旦那と思わずに、誰か困った男性のヘルパーに入ったのだ』と思うと、気持ちが楽になるようです。自分は妻だと思うから我慢できないのであって、距離を適切に取れば、うまくやっていくこともできます。もし他人であれば、あなたの誕生日にくれたカーネーションが500円のものだったとしても『ありがとう』と言えますよね。旦那だと思うから、『なんでこんなものを』と思ってしまって、お礼が言えなくなるのです」

――あまり期待しすぎないようにすると優しく接することができるのでしょうか。

「役割をちゃんとすればいいと思うのですよね。お金をちゃんと稼ぎ、困った時に知恵と力を貸してくれることができればいいじゃないですか。アスペルガーの場合、重要なことについて自分の考えが固まるまでに時間がかかります。重要なことを『急いで決めて』と言われたらフリーズしてしまいます。ですから大事な相談は、あらかじめ1本に絞って『2週間後までに考えて』という具合に、期間を取ればいいのです」

――そういう付き合い方のコツを学びながら接すれば、通常のパートナーではないかもしれないけれども、一緒にやっていくことは可能なのですね。

「最終的に考えるべきは、あなたにとってこの結婚を続けることにメリットがあるかどうかということ。別れることはいつでもできる。自分が1人になった時と、旦那と一緒に暮らすことをてんびんにかけて、どちらが得なのかを考えてくださいと僕は伝えますね。ある女医さんは旦那さんがアスペルガーで、別居に踏み切ったんです。東日本大震災が起きて、その旦那さんは東北にボランティアに行ったのですが、厳しい現実を目の当たりにして、他人の立場でものを考えることができるようになりました。そこからまた同居するようになったのです。アスペルガーの人はずっと変われないわけではありません。とても時間がかかりますが」

――アスペルガーの人も変わることができるのですね。

「人に対する気持ちとか、人の悲しさとか喜びに接して、変わることもあります。あるアスペルガーの男性は、家では何度説明しても、お風呂に2時間ぐらい入るのですが、精神科病院に入院したとき、看護師さんに、『お風呂に時間がかかり過ぎたらみんなが迷惑するから、2時間も入っちゃだめよ』と言われたんですね。そうしたら彼は、他の人がどうやって体を洗っているか観察して、どうずれば15分で入れるようになるか学びました。『君は30代後半にして初めて、人を観察して自分を変えることができるようになったね。相手の立場に立てるようになったね』と、精神科の主治医に褒められたそうです」

――カサンドラの妻に対するアドバイスもお願いします。

「まず、道は別れるか、一緒に暮らすかですよね。その場合、やはり自分にとって得があるのかどうか考えた方がいい。感情で動かず、損得で考えなさいと僕は伝えています。もし、専業主婦で、別れたら今と同じ暮らしができないというのなら、やはり一緒にいた方がいいのかもしれない。もし、お子さんがアスペルガーならば、思春期から親が徐々に離れてあげる。『今日は、お母さんは習い事があるから外出するよ』という時間をたくさん作る。こうして子どもとの距離を親から作るのです」

――セックスに関して、うまくやっていくにはどうしたらいいのでしょう。

「やはり女性が言葉にして言うべきではないでしょうか。女性側からああしてほしい、こうしてほしいと要求を伝える。もしかしたらお母さんが息子に教えこんでおいたほうがいいのかもしれませんが、それは無理ですから、結婚してから妻が言うべきですね。もう一つ問題を言うと、女性は時によって気分が変わりますよね。いつも同じではいけないということも、アスペルガーの人には理解しがたいことかもしれません。僕が診ていた人だと、奧さんが昔好きだったお菓子をけんかの度に買ってきて仲直りをしようとするんです。ぽんと置いて、にたりと笑ってその場を離れる。でも奧さんはそのお菓子を食べ飽きていて、ゴミ箱に捨てちゃうわけです。飽きたというよりも、そのいい加減な対処の仕方が許せないのだと女性スタッフから言われました。男性は、いつものものでよくて、変わらなくてもいいのですよね。毎日同じものを食べて、同じパターンでもいいのです。セックスも同じです。ですから、ある程度いろいろなパターンが必要なのだということを、奧さんが教える必要があるかもしれません」

「もう一つ、人のふり見て我がふり直せという方法。映画を一緒に見て、こういうのが私の理想だと伝える。私はこういうものを望んでいますということを視覚的に見せるのは有効です。アスペルガーの人は視覚を重視するので、話をする時も映像や図表を見せながらだとスムーズに進みます」

――薬物療法もあるそうですね。

「注意欠陥・多動性障害(ADHD)の薬なのですが、少し心が優しく、広くなるようなお薬があるので、これが効果がある人もいます。抗精神病薬の少量投与、感情安定剤、サプリメントなども効果があることもあります。人の脳内ではシナプスという神経細胞のネットワークが、様々な部位で有機的に結びついて社会性を作っているのですが、アスペルガーの人ではそのネットワークが3歳までにうまく作られないのだということがわかっています。ホルモンの一種であるオキシトシンを鼻から吸入することで、このネットワークがうまくいき、コミュニケーションの障害が改善されたという報告もあります。これから治療法も前進していくでしょう」

――アスペルガーのパートナーを持つ人に、最後にメッセージを。

「アスペルガーは論理性が高く、論理で説明すればわかる人たちなんです。男性脳、女性脳という説があって、男性脳は論理、女性脳は感情や共感性と言われますが、論理性が高い人がアスペルガーや自閉症になり、感情や共感能力の高い人がヒステリーになると言われています。ですから論理性が高いということを認めてあげて、その人の世界を大事にしてあげる。ト書きを書いてあげ、それを演じてもらう。できたら褒めてあげる。お互いの世界を大切にするなど、お互いが人として大事にし合えるような家庭が築けると良いですね。こうして、そのご夫婦の子どもが幸せに育って、良い大人になり、パートナーも幸せにできるようになってほしいと思っています」

 

引用先 https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20151222-OYTEW55406/

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