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引きこもり44歳息子を70歳父親が殺害 事件から垣間見えた「老老介護社会」の歪み

2013.12.12

“老老介護社会”へと向かう日本の歪みが、少しずつ噴き出しつつあるのではないか。

 長期化・高年齢化する「引きこもり」当事者を年老いた親が養い続ける。そんな先行きの見えない家族の未来を暗示するような悲劇が、またしても起きた。

 20年以上引きこもっていた44歳の長男が、広島県福山市の自宅で、70歳の父親によって殺害されたのだ。

 いったいなぜ、悲劇を未然に防ぐことができなかったのか。

 事件が起きた現場は、JR福山駅から4キロほど離れた住宅地にあり、長男はこの自宅で1人暮らししていた。

 報道によれば、11月29日午後5時半ごろ、父親はベッドの上で長男の首を絞めて殺害。1階居間の布団の中に運んだとされる。

 父親は12月2日午後3時頃、「息子を殺した」と、妻に付き添われて福山西警察署に自首。警察が長男の自宅に駆けつけると、遺体は布団の上にあおむけで手を合わせる形で寝かされ、体に毛布、顔には白い布がかけられていた。

「息子から“殺してくれ”と頼まれた」

「自分も年を取り、息子の将来を悲観して殺した」

 警察は、こう供述する父親を殺人の疑いで逮捕。長男の首にはロープのようなものを巻かれた痕があったという。

 長男は、10代の頃に体調を崩し、高校を中退。何とか大検を受けて、大学に入学したものの、再び中退してからは、自宅に引きこもりがちになった。

 両親は10年ほど前、長男と別居。以来、母親が毎日のように訪れて、食事などの世話をしてきたという。

 もちろん家族内の状況や事情など、周囲には窺い知ることはできない。

 しかも、近所の住民は、20年以上にわたって、長男の姿を見かけたことがないと報道で語っている。引きこもり状態が長期化し、固まってしまった本人の心のひだに触れることなど、よほどの理解者でもない限り、至難の業だ。

「予算がないのでサポステはできない」
福山市引きこもり支援の実態

 引きこもり問題を担当する福山市保健部健康推進課の課長に、事件が起きる前、本人や家族が市役所に相談に訪れたかどうかについて聞くと、「個人情報になるので、相談があったかなかったかについては言うべき立場にない」と答えた。

 そこで、筆者は、市内にどのくらいの数の引きこもりの人たちがいるのかと尋ねると、「福山市では、そこまでの調査はできていない」という。つまり、市側は、引きこもりの人に関するデータをまったく把握できていないようなのだ。

 国が「ひきこもりサポーター養成・派遣事業」や「中間的就労」などの「ひきこもり関連施策」をせっかく作っても、地方自治体が実施しなければ、その地域ではサービスを受けることはできない。

 地方自治体の対応の違いで、サービスを受けられる地域と受けられない地域という「地域間格差」が生まれる所以だ。

「毎日通える所が欲しい」

「仕事につながることをやりたい」

 そんな希望を叶えるため、福山市にNPO法人「どりぃむスイッチ」を開設。フリースペースや、ITスキルアップなどの講座の開催、受託した仕事を一緒にこなしてもらう中間的就労の場を提供している中村友紀さんも子どもが不登校だった経験をもつ母親だ。

「“子どもの命をも自分の意思で絶つ”――これは究極の介入です。子どもと自分との境界線がハッキリしていない親、子どもの意思を無視しがちな親は、時として子どもの人生をも自分のものと混同してしまいがちです。

 最近強く思うのが、『親が変われば子が変わる』。引きこもり対応に、家族支援は重要な要素です。親もどうしてよいかわからず困っています。高齢化で追い込まれています。そこを救済する取り組みがもっと必要です」

 そう訴える中村さんは、日々当事者たちと接してきて、居場所や中間的就労の大切さを痛感し、利用対象者の年齢上限を設けていない。

 ところが、である。

「昨年度、福山市にサポステ(サポートステーション)の企画書を持っていったら、『予算がない』と言われて、読んでももらえませんでした。今年度も残念ながら「予算がないので、サポステを募集する予定はない」との答えでした。サテライト(相談窓口)はありますが、毎日活動することが大切なんです。でも福山市がやると言わなければ、毎日通えるサポステは福山にはできないんです。この地域格差の問題は、あまり知られていません。解消するには、皆が必要だと声を上げることだと思います」

40歳以上の当事者へのサポートはなし?
再び同様の事件が起こる可能性も

 いったい福山市は、どのような引きこもり支援施策を行ってきたのか。市の健康推進課長は、こう説明する。

「相談があった場合は、相談に乗っています。ただ、本人は来られませんので、主には家族の相談になります。また、家族の教室や、家族の交流会のようなものはボツボツさせてもらっております。うちのほうでも情報収集したり、アドバイスさせてもらったり、自宅に行ってもいいということになれば、訪問もさせていただいたりしています」

 とはいえ、相談に乗るだけでは解決できない。外に出ていく先が地域の中にあるのか。社会にどのようにつながっていくことができるのか。そうした自分の将来への道筋がわかりやすく指し示せなければ、再び引きこもっていくことになる。

 同市でも、少しでも出て来られる当事者であれば、ボランティアに出て行ったり、作業したりというプログラムを組み立てて、取り組んでいる部署に紹介しているという。

 しかし、その部署では年齢の上限はないのか?と尋ねると、やはり、。

「“概ね~”が付いているようです…」

 と言葉に詰まる。

 40歳未満ですよね?と確認すると、

「概ね40歳ぐらいまでです」

 と回答された。

 やはり、40歳以上の引きこもり当事者への支援策は、ないということなのか。

「そうですね、はい。相談には乗りますけど。つなぐ場所というのは、現実的にはなかなか難しいということになりますね」

 少なくとも、今回の44歳の当事者と家族を救済するセーフティネットは機能していなかったことになる。

 前出の中村さんは、こう指摘する。

「福山市は、今回のような悩みを抱える家庭への対策が遅れていることを認めて改善しなければ、同じような事件はまた起こるかもしれない。真摯に受け止め、事件から学ぶことが大切です。 縦割りではなく、市民に寄り添った行政をお願いしたいです」

地域の自治体こそ
孤立する家族に手を差し伸べてほしい

 しかし、この悲劇は、福山市だけに起きる問題ではない。日本全国どこの地域にも、この家族のような予備軍は、水面下に数多く埋もれているのだ。

 引きこもり家族会の全国組織である「全国引きこもりKHJ親の会(家族会連合会)」の池田佳世代表は、どこにでも起こり得る事件だとして、こう指摘する。

「孤立している家族は、悩みを親戚にも近所にも言えずに行き場がない。そんな人たちに手を差し述べてあげられるのは、地域の自治体です。私たちの家族会では現在、厚労省からの委託を受けて、引きこもっている本人の元へ訪問するための当事者や家族による『ひきこもりピアサポーター養成研修』を行っています。同じ状況に苦しむ家族同士だからこそ、こうした悲劇を防ぐことができると思いますし、家族会にしかできない強みでもあります。すでに家族会の訪問活動を通して、たくさんの当事者たちが復活した事例を、このお父さんが知ったら、こんな悲劇は起こらなかったでしょう。そのことをぜひ、市町村の担当者の方々にも、知ってもらいたい」

 自治体の担当者に取材すると、よく「県や政令指定都市で対応しているから、うちは必要ない」といったような言い訳を聞くことがある。

 しかし、日本の公共交通機関の料金は高い。経済的に困窮した当事者や家族が、それらの街に出ていくだけでも、どれだけ大きな負担になるのか、担当者は想像したことがあるのだろうか。

 本人たちが外に出ていきたいと思える場所や、社会へとつながっていく道筋のメニューが、それぞれの地域に必要なことを、各自治体には認識してもらいたい。

記事詳細 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/45866

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