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放置すれば生活保護者増加の危機も “大人の引きこもり”予備軍、不登校者の深刻な実態

2012.02.10

心の病に悩む人たちの支援法制定を目指す超党派の国会議員でつくる「こころの健康推進議員連盟」(会長・石毛えい子衆院議員)の第1回ヒアリングが2月2日、衆院議員第2議員会館で行われた。

 引きこもり家族会の全国組織である「全国引きこもりKHJ親の会(家族会連合会)」からも、池田佳世代表(73歳)と「KHJ西東京萌の会」の井手宏会長(70歳)が出席。居並ぶ国会議員たちを前に、「機能していない『引きこもり地域支援センター』の改善」をはじめ、引きこもり認定医制度の設置と専門研修、アウトリーチ医療への評価、引きこもり支援のための人材育成、企業への雇用助成金の配慮などを要望した。

10人に1人の働き手が“引きこもり”!?
行き着く先は障害者年金か、生活保護

 冒頭、発言を求められた井手会長は、

「私が引きこもりという言葉に出会ったのは、1980年代後半の頃。当時の私は、この時代の働き盛りの日本人が評されていたエコノミックアニマルの代表選手のように、家事や子育てを妻に任せ、男は仕事だという父親でした」

 などと、これまで単身赴任をしてまでも、仕事一筋に励んできた自分の人生を振り返った。

 井手氏の長男は、大学受験に失敗した頃から“疲れた”と言って、家からあまり出なくなったという。

「それから10年余りは落ち込んでいく妻や子どもを励ましながら、仕事をしておりましたが、妻の落ち込みが見ていられなくなり、40年くらい勤めた会社を辞めました。その後、自宅で起業し、引きこもりの支援活動を始めてみると、同じような悩みを持った家族がいかに多いかを実感したのです」

 そのうえで、井手氏は「引きこもりの人たちの実態、実数をきちんと把握しないと、対策も立てられないではないか」と指摘。さらに、最近「ひょんなところから、この実態が明らかになってきつつある」として、秋田県藤里町という山あいにある人口約3900人の過疎の町の事例を挙げ、同町の社会福祉協議会が高齢者の実態調査を行ったところ、長年仕事に就けない状態のまま引きこもっている人が、18歳から55歳までの町民の8.74%にあたる113人で、そのうち40歳以上が約半数の52人にも上ったことを訴えた。

「つまり、およそ10人に1人の働き手の人たちが、引きこもっているんです。全国で藤里町方式のような調査をしたら、恐ろしい数字になるのではないか。ところが、国や行政のセーフティネットは39歳で切っているため、40歳以上には支援の手が届かないんです」

 こう井手氏は、制度の谷間になっている世代の厳しい現実を説明する。

実際、35歳、あるいは40歳を超えた人たちが、公的支援機関が設置する「“居場所”を追い出された」とか、「やっとの思いで訪ねて行ったら年齢オーバーを理由に断られた」といった話をよく聞く。一方で、引きこもる人たちの高年齢化は進み、こうして行き場もないまま、セーフティネットから溢れた膨大な人たちがいま、日本の地域には埋もれているのである。

 結局、彼らが行き着くところは、生活していくための障害者年金の申請か、生活保護にすがるしかない。

「今後、膨大な数の障害者年金者と生活保護者が生まれてきたら、日本の国自体が成り立たなくなるのではないか。この人たちをいま支えているのは、親や家族ですが、親亡き後、国が支えていくとしたら、現在の国会で審議中の消費税は、8%や10%アップ程度の社会保障費では全然足りなくなります。いますぐにでも、国を挙げて、引きこもり問題の解決に取り組んでほしい」

 これに対して、古屋範子衆院議員(公明党)から「専門の医師と連携して、心理職などの専門家もアウトリーチしていくような方法は可能なのでしょうか」という質問があった。

 井手氏は「実際には、医師単独ではなく、地域のメンタルヘルスの専門家チームみたいなものもつくって、医師と情報を共有していくことが必要なのではないか」と答えた。

小中学校11万5000人、高校5万3000人
なかなか減らない不登校の児童生徒

 この日のヒアリングで、もう1つ興味深かったのが、今後の“大人の引きこもり”予備軍というか、バロメーターともいうべき、文科省が公表した不登校の児童生徒数の推計だ。

 2010年度の被災3県を除く小中学生の不登校は、11万4971人で、前年と比べるとやや減少。同年度の高校生の不登校(被災3県を除く)については、5万3084人で、若干増加した。

 とはいえ、少子化の影響で、小中学生の不登校率は1.14%で、ほぼ横バイ。高校生は、1.66%と増加していて、「大変深刻な状況」と、担当者は説明した。

 ちなみに、高校生の中退者(被災3県を除く)は、同年度5万3245人で、こちらは微減しているものの、やはり生徒数自体も減っているため、中退率は1.7%で前年度と変わらなかった。

また、いじめの認知件数(被災3県を除く)は、小・中・高校合わせて、7万5295件。前年度に比べて、2500件余りも増えた。

 文科省の不登校への対応は、2003年5月、各都道府県などに出した通知から、とくに変わっていない。不登校の解決には「将来的な社会的自立に向けての支援」や「公的機関のみならず、民間施設やNPOなどとの積極的な連携」「ただ待つだけでは、状況の改善にならないという認識が必要」「時期を失することなく児童生徒本人のみならず、家庭への適切な働きかけや支援を行う」ことなどを挙げている。

 ただ、今後の取り組みについて、文科省の担当者は、「不登校に関する調査研究は、2003年のもので、そろそろ10年になる。この際、不登校の実態をもう一度、調査したい。過去に不登校を経験された方に、アンケート調査などの協力をいただいて、実態調査を進めたい」という意向を明らかにした。

 さらに、2012年度は、臨床心理の専門家であるスクールカウンセラーを小学校1万1690校、中学校8252校、緊急支援派遣として201校に配置。児童が気軽に利用できる「子どもと親の相談員」を201校、「児童生徒推進協力」を67校に置くとともに、24時間体制の電話相談も実施するという。

 そして、教育分野だけでなく、社会福祉などの専門家であるスクールソーシャルワーカーを108都道府県.政令市.中核市に、1113人派遣するそうだ。

教員だけでは解決できない「心の問題」
スクールソーシャルワーカーの充実を

 すると、文科省の説明を聞いていた初鹿明博衆院議員(民主党)が、こう切り出した。

「心の問題は、やはり幅広い。私の中学生の頃から、不登校は顕在化していて、私が42歳になるまで減ることなく、むしろ増えている印象がある。結局、不登校から抜けられないまま、学校を卒業しちゃうと、引きこもりになっていくということですよね。学校に居場所があったときは、学校が関わっているんでしょうけど、18歳で切れた途端に、支援がなくなっていく。こうして、だんだん深みにはまっていくことが、ずっと繰り返されている」

 そして、こう続ける。

「うちの子どもの中学1年生のクラスにも、すでに学校に来ていない人が3人くらいいる。でも、先生たちは別に何もしていない。最初は何らかのアプローチをかけているんでしょうけど、1年も経つと、だんだん諦めちゃう。これは、先生が抱えているだけでは無理だと思うんですよ。もっと早い段階で、学校から切り離したところの支援を入れたほうが解決できると思うんですよ」

このように、初鹿議員が「学校だけで抱えていることが、何も変わらない最大の問題なのではないか」と、文科省に苦言を呈すると、会場の空気が変わり、じっと聞いていた傍聴者たちが一斉に、うんうんとうなずく光景も見られた。

 これに対して、担当者が、こう説明した。

「不登校の定義は30日ですが、いまは3日とか7日とか、早く動き出すようにしている。そうした基準に従って、学校から教育委員会にも報告が上がる。すると、担任の先生が、家庭を訪問。スクールカウンセラーなどとチーム対応するようになっていて、話し合いながら対策を講じていく。長期化したケースには、学校のテストや配布資料をご家庭にお届けしている。諦めているわけではない…」

 ここで初鹿議員が、口をはさんだ。

「だからね、あくまでも学校がずっと関わり続けようとしているだけであって、卒業するまでの間、別の福祉とか保健などの機関につなぐことはしてないですよね。そこが、問題なんじゃないですか?」

 担当者は、だんだんと歯切れが悪くなってくる。

「一応、児童相談所なり、医療機関なりにつないで対応しましょう、ということにはなっています」

 初鹿議員は、こう首をかしげる。

「でも、実際には、そういうケース、あまりないでしょう?先生がものすごいプレッシャーかけられて、先生のほうが精神的に参っちゃうパターンが多いのではないか」

 すると、会場にいた日本教職員組合の濱田真由美・中央執行委員が、こう声を挙げた。

「サポーターが欲しいと思います。いまは地域と分断されていて、先生たちもどこに相談していいのかわからない。忙しくて、自分だけで抱え込んじゃっている。スクールソーシャルワーカーのような方がいて、何かあったときに外と連携がとれるシステムがあったら…と思います」

 学校内では、先生自身も、誰に相談していいのかわからない。学校だけでは無理だということが、最近になってわかってきたという。

「先生は、学校しか知らないから、社会とつながっていないから、そういう専門家が学校現場にいるだけでも大きい。でも、いまは削減で、子どもにお金をかけない方向に進んでいるので、ますます難しくなっています」

これまで学校内の実態を知る機会はあまりなかった。もっとスクールソーシャルワーカーは増やしたほうがいいのかもしれない。

「本当に深刻な子は、同じ建物内のスクールカウンセラーの元には行かない。それよりも、スクールソーシャルワーカーのような他の専門機関につなぐ役割のほうが効果的なことができると思うので、もう少し検証してもらいたい。いじめも非行も不登校も、生徒にだけ指導していても問題解決にならない。家庭につないでいくような支援をしていかないと、根っこは解決しないのではないか。それをやらずに、ずっと学校だけで抱えてきたから、何も変わらないんだと思うんです」(初鹿議員)

 文科省によると、スクールソーシャルワーカーは2010年度現在、約600人。全国約1700自治体あるので、3自治体に1人の計算だ。引きこもり社会を生み出してきた背景は、なかなか根深そうである。

記事詳細 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/16057

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