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発達障害40代男性による姉刺殺事件の判決に波紋 「社会に受け皿がないから懲役20年」の是非を問う

2012.08.09

約30年の引きこもりの末、自宅で姉(当時46歳)を刺殺したとして、殺人罪に問われた42歳男性の裁判員裁判の判決が、波紋を呼んでいる。

 7月30日、大阪地裁の河原俊也裁判長は、「母や次姉が被告人との同居を明確に断り、社会内でアスペルガー症候群(広汎性発達障害の一種)という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていない」「許される限り、長期間刑務所に収容することが、社会秩序の維持にも資する」などとして、検察側の懲役16年の求刑を上回る懲役20年の判決を言い渡したからだ。

「人生をやり直せないのは姉のせい」勝手な思い込み・恨みで姉を刺殺

 では、犯行に至る経緯は、どのようなものだったのか。判決要旨によると、こうだ。

 被告人の男性は、小学校5年の途中から不登校になり、以来、約30年にわたって、引きこもる生活を送ってきた。

 男性は、このまま家に引きこもっていては駄目だから、やり直したいと思い、通っていた小学校と別の学区の中学校に転校したり、自分のことを誰も知らない遠い場所で生活したりしたいと両親に依頼。しかし、いずれも実現しなかったのは、姉のせいであると勝手に思い込んで、次第に恨むようになった。

 その後、母親が姉と会っているのに嘘をついているなどと思い、母親を姉のところに行かせて金を無心させ、姉にダメージを与えてやろうと考える。そして、24~25歳の頃から、母親の給料を一部取り上げ、家賃として支払う金を姉の元へ借りに行かせるようになった。

 男性は、25~26歳の頃から、漠然と自殺を考え始め、34歳の頃、インターネットで自殺の方法を調べようと思った。しかも、姉にパソコンを買わせたら、金銭的なダメージを与えることができて、一石二鳥だと考えた。そこで、母親を通じて、姉にパソコンを買ってほしいと頼むようになった。

 そこで姉が、男性に中古のパソコンを買って与えた。しかし、男性は、中古のパソコンという他人が触った物を触るのが嫌だったことなどから、姉に対する恨みが募っていく。

 その後も、母親を通じて、姉に新品のパソコンを買うよう、要求し続けたが、いつまでも買ってくれない姉に対して、恨みがさらに強くなった。

昨年の4月から5月にかけて、入院した母親の代わりに、姉が買い物をしてくれた。そこで男性は、母親に暴力をふるって再び入院させれば、姉がまた自宅に来るだろうと思い、姉が家へ入ってきたときに、自宅にある包丁で刺して殺そうと考えた。

 そして、昨年6月17日、男性は母親に暴力をふるってけがをさせ、姉が母親を施設に入所させた。

 一方、男性の自宅に生活用品を届けていた姉は、同年7月13日、彼の自立を願って、こう書き置きを残していく。

<食費やその他のお金を自分で出しなさい。買い物はする>

 しかし、書き置きを見た男性は、姉が自分のことを助けるつもりがなく、報復してきたと受け止めた。

 男性は、姉が台所の奥にいるときであれば、逃げにくいから、確実に殺せると考え、台所にある15センチ余りの包丁を自分の部屋に持ち込んだ。

 そして、同年7月25日午後2時15分ごろ、男性は、自宅を訪れた姉の心臓部や左上腕などを多数回突き刺し、1週間後に死亡させたという。

「精神障害」を理由に量刑重く求刑を超す懲役20年の判決が…

 河原裁判長は、量刑の理由として、次の点を挙げる。

 まず、「被告人は強い殺意をもって、逃げようとする被害者に対して執拗に攻撃していることが明らかであり、刑の執行猶予をもって臨む事案ではない」と認定。「被害者は被告人の自立のために精一杯の努力をしてきたものであり、落ち度はまったく見当たらない」としている。

また、「理不尽に殺害されたことに対する遺族の悲しみや怒りも大きく、“被害者は、殺されて不本意に人生を終えざるを得なかったのに、殺した張本人がその後も生き続けられるということに対して、私はとうてい納得がいきません”“一生、刑務所から出て来れないようにしてほしいです”などと陳述していて、被告人に対する厳しい処罰を望む心情は、人間の持つ当然の気持ちとして十分に理解することができる」と述べている。

 一方で、弁護人が「被害者に対して恨みを募らせ、それが強靭な殺意にまで膨れ上がってしまったのは、アスペルガー症候群という精神障害のためであり、被告人にはこの恨みの感情をどうすることもできなかった」ことを考慮すべきと主張。保護観察付きの執行猶予判決を求めていた。

 これに対して、河原裁判長は「被告人が、被害者の殺意に向けて、一時犯行を思いとどまりながらも、“ここで姉を殺さなければ、自分は一生、姉を殺すことができなくなる。自分が自殺するためには、姉を殺さなければ悔いが残る”などと考え、最終的には自分の意思で犯行に踏み切った」と、断じている。

 そのうえで、「被告人は、いまだ十分な反省に至っていない。健全な社会常識という観点からは、いかに病気の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば、同様の犯行に及ぶことが予想される」と推認。「本件においては、検察官の科刑意見は軽きに失すると判断することもやむを得ず、被告人に対しては殺人罪の有期懲役刑の上限で処すべき」としたのである。

 もちろん、犯行に至る経緯は、判決主文に沿って書かれていることを考慮に入れなければいけないが、報道の記事からだけでは想像することのできないような、被告人の背景や事情なども伺い知ることができる。

 つまり、姉を殺害した被告人は「アスペルガー症候群」と診断されているが、反省もなく、家庭内にも社会にも受け皿がない。「健全な社会常識」の観点からも、長い間、塀の中に収容していたほうが「社会秩序の維持」にもつながるというのである。

 この判決に対して、様々な障害者団体や専門家からは「アスペルガー症候群の人はコミュニケーションが苦手で、反省していないように受け取られることがある」「裁判官はきちんと理解できていない」「偏見に基づく判決」といった批判が出た。

引きこもり家族会の全国組織である「全国KHJ親の会(家族会連合会)でも、裁判所に抗議文を出す検討をしているという。

 確かに、痛ましい殺人犯罪だったとはいえ、「精神障害」を理由に量刑を重くするという事例は、あまり聞いたことがない。しかも、検察官が言ってもいないことまで推認して判決文を書くという裁判官のコンプライアンスの問題や、この国の司法制度のあり方そのものも問いかけられることになったといえる。

 一方で、「社会に受け皿がない」ことを指摘しながら、その社会のツケを個人に負わせるという矛盾したような形で量刑が認定されている。

地域住民の強い反対も…なかなか進まない「受け皿」の整備

 ところが、「受け皿」に関しては、最近、こんな話も報じられた。

 8月1日付の日本経済新聞によると、埼玉県松伏町で、民家を「自立準備ホーム」(刑務所などから出た後に行き場のない人を受け入れるNPO管理の施設)にする計画が持ち上がったところ、同町は、周辺住民の3分の2以上の同意を条件とする条例の制定を検討し始めたというのだ。

 記事によると、更生施設を巡っては、他の地域でも住民の反対で計画を断念するケースがあるという。実際、発達障害者のためのサポート施設を開設しようとして物件を借りようとすると断られるという話を身近でも聞いた。

「受け皿」については、こうした地域の理解や協力も不可欠となる。受け皿の整備が進まないのは、決して個人の責任ではない。

「僕は、今回の判決には賛成…というか致し方がない…と思います」

 少数意見ながら、判決の後、「重度の発達障害」だという当事者から、そんなメールも届いた。

「社会に受け皿がない以上、解決策がない。僕自身、自分がコントロールできない。事件に至るまでに何とかしなければいけないんだろうけど、何とかできないから、そうなっちゃったわけです。相談窓口へ行っても事務的で、深刻な話になるほど頼れない。事件が起きてから騒がれるのは、今のいじめの問題と、本質は同じ。やるべきことは、『事件を起こした後に擁護』することではなく、『事件を起こしてしまうまで追いつめないような逃げ道を作る』ことだと思います」

 この「頼れない社会」の仕組みを皆で変革していくことから始めなければ、いつまでも弱い個人が犠牲を強いられることになる。

記事詳細 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/22838

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