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誰もがその特性を持っている?「大人の発達障害」で注目された「自閉症」の基礎知識
2016.06.23
つい先日ですが、「発達障害者支援法」が10年ぶりに改正され、発達障害がある人への教育・就労の支援の充実、社会的障壁を取り除くことが法律でも強調されました。しかし、理解や支援といっても、実際のところ、発達障害ってどんな人たちなの?という方が多いのではないでしょうか。
「大人の発達障害」という言葉は、みなさんも一度は見聞きしたことがありませんか?Amazonで「大人の発達障害」と検索すれば、実に200冊の書籍がヒットし、クローズアップ現代やNHKスペシャルなどでも取り上げられたテーマです。複雑なコミュニケーションが求められる社会になるなか、困り感を抱える当事者へのサポートや強みを生かす支援、職場など周囲の理解の重要性が指摘されています。
大人の発達障害は生まれつき
生きづらさを抱えながらも診断されないまま大人になり、社会に出てから「発達障害」という診断に至るケースが増えているようです。これが「大人の発達障害」です。「発達」という語感から子どもの障害であるイメージが強いかもしれませんが、先天的な脳の機能障害です。成長とともに緩和するケースはありますが、治ることはありません。発達障害がある子どもは大人になってもその特性を持ち続けることになります。大人の発達障害が増えた要因は、診断基準の整備や高度なコミュニケーションを求められる社会の変化と考えられますが、これは子ども世界においても同じです。文部科学省が2012年に実施した調査では、発達障害の可能性のある児童が6.5%の割合で通常学級に在籍することが示されました(文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援の必要な児童生徒に関する調査」)。医師が診断した数ではなく、教職員などが評価したデータである点は留意が必要ですが、1クラスに2人程度いる計算になります。みなさんの職場にも、通勤電車の中にも、お子さんの学校のクラスにも、決して少なくない数の発達障害の人がいるということです。
本記事ではもう少し踏み込んで、みなさんも多かれ少なかれ、わずかであっても、その特性を持っているという話をしたいと思います。
自閉症と健常者に明確な境目はない
発達障害は、大きく「自閉症スペクトラム」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」に分けられます。注意力や衝動性に障害があるADHDや、読み書きや計算に特異的に困難を示すLDに比べて、自閉症スペクトラムの人は、言葉の遅れや、他者の感情が分からない、パターン化した行動など障害特徴のあり方が複雑です。実際に接した感覚としても、一番特徴的に感じるかも知れません。
この「自閉症スペクトラム」について詳しく見ながら、「境目がない」ということの意味を紹介しましょう。「自閉症スペクトラム」というのは聞きなれない言葉だと思います。「スペクトラム」は「連続体」という意味で、いわばグラデーションのようなものです。「自閉症の人」と「自閉症ではない人」(=多くの読者のみなさん)の間に明確な境界線があるわけではないのです。健常者や軽度の自閉症傾向の人から、重度の自閉症の人まで、連続的につながっているという考え方が、この障害名の前提にあります。特性の強さや現れ方に程度の差こそあれ、誰もがその特性を持っているということです。
誰もが特性を持っているのなら、自分はこのスペクトラムのどの辺りに位置するか気になりませんか?位置を把握するための参考指標として、「自閉症スペクトラム指数(AQ)」という評価尺度があります。もともと海外で開発されたもので、若林ら(2004)により日本語版に翻訳・標準化されています。web上で簡単に自閉症傾向をチェック、自動計算されるサイトもあるようです。
自閉症スペクトラム指数(AQ)
全50問の簡単な質問に当てはまる度合いを4択で答えることで、自閉症スペクトラム指数を割り出すことができます。上記論文によると健常者の成人(社会人)の平均値は18.5で、33点以上が自閉症スペクトラム障害の可能性が高くなります。これは知的障害のない成人向けの臨床的診断ツールの一つですが、健常者における自閉症傾向の個人差の測定ツールとしての有効性も示唆されています。
(※上記サイトや論文にも記載がありますが、このチェックで33点以上だった場合に直ちに「自閉症スペクトラム障害」と診断されるわけではなく、診断は専門医にしかできません。)
上記チェック項目には、
「同じやりかたを何度もくりかえし用いることが好きだ」
「ほかの人は気づかないような細かいことに、すぐ気づくことが多い」
「パーティーなどよりも、図書館に行く方が好きだ」
などの項目があり、誰もが少しは当てはまるのではないでしょうか。
ちなみに私もチェックしてみたところ、12点で、平均よりも低い得点となりました。私の所属する組織の男性スタッフは16点だったそうです。性差もあり、女性よりも男性のほうが得点が高い(自閉症傾向が強い)といわれます。
繰り返しますが、私たちのように健常成人といわれる人と自閉症の人たちとの間に明確な境目があるわけではありません。あくまで程度の問題として、社会適応が難しいレベルに特性が強い場合、自閉症スペクトラムという診断につながるということなのです。
適切な支援で症状が改善
自閉症スペクトラムは、「心の病気」や「引きこもり」ではなく、先天的な脳の機能障害です。外界の認知に偏りがあり、社会的コミュニケーションが苦手であったり、特定の物事に強い拘りを示します。その原因は解明されていませんが、何らかの遺伝的要因によるという考え方が主流です。「愛情不足」や「育て方」のせいであるという誤った認識から、当事者家族がつらい思いをするケースも未だに多いのですが、それは断じて違います。私が出会ってきた何百人もの自閉症があるお子さんの保護者の方たちは、とても愛情深く子育てに前向きです。
また、この障害は基本的には治るということはありませんが、本人の特性に合わせた環境(仕事内容や周囲からの関わり方)の設定によって生きやすくなります。持ち味をいい形で発揮できるようになるわけです。さらに、適切な方法に基づきトレーニングを行うことで、社会性や知能も向上する可能性があることも分かっています。
具体的なトレーニングについてご興味がおありの方はこちらをご参照ください。
効果のある療育支援について
最後に
まずは発達障害を今より身近に感じてみてください。皆さんも多かれ少なかれ持っている特性が、たまたま極端に強いために、環境によっては適応が難しい障害なのです。理解と共感がゆるやかな支援となり、その先に初めて積極的な支援が行き渡る社会の実現があるのではないでしょうか。
記事詳細
竹内弓乃特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/竹内弓乃
2016年6月23日 13時5分配信
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takeuchiyuno/20160623-00059163/
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