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「引きこもりのほとんどは発達障害」って本当? 引きこもり支援のプロが語る”ボーダーの生きづらさ”
「10年引きこもりでもうちの子は働ける…」1600人以上を支援したNPO関係者が語る”引きこもりのマッチング” から続く
訪問活動と共同生活寮の運営などを通じて、1600人以上の引きこもりを支援してきたNPO法人ニュースタート事務局スタッフ、久世芽亜里氏は、「引きこもりとその親、支援状況には多様な実情がある」と語る。今回は久世氏の著書、 『コンビニには通える引きこもりたち』 (新潮新書)から「引きこもりと発達障害」について紹介する。
シンスケ君(仮名)は、現在20歳。おとなしいタイプでしたが、中学では友人は数人いました。高校では一時期不登校になりながらも何とか卒業。何もしない生活を送っていましたが、1年後に「これならできるかも」と倉庫の仕事を自分で見つけ、働き始めました。 自信が持てなかったのか、週2日という少なめの日数からスタート。きちんと出勤していたのですが、いきなり「やめたい」と言い出し、5ヶ月で退職しました。何があったのか、親には話してくれません。それから1年、引きこもり生活を送っています。 家族仲は良く、食事も一緒に取り、たまに家族で外食にも行きます。ですが1人での外出は全くありません。高校時代にいじめとはいかないまでも、からかい程度はあったようで、同世代の人への恐怖心が今もあるそうです。バイト先でも、色々とあったのかも知れません。 「今思えば子どものころから、『おや?』と思うことはありました。例えば『お茶碗を洗っておいて』と言うと、本当にお茶碗しか洗っていない。流しにある他のコップやお皿は洗わずそのままでした」と母親は言います。あいまいな指示をされても分からない、一度に複数の指示をされると最初の方は忘れている傾向があり、親は発達障害を疑っています。 引きこもりと発達障害も、よく混同される組み合わせです。「引きこもりのほとんどは発達障害だ」と言っている人もいますが、こちらが相談を受けている中で、検査をすれば発達障害の診断が下りるのではと思われるケースは、3割程度ではないでしょうか。
「ほとんどは発達障害」って本当?
発達障害には、自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがあります。一時期よく耳にしたアスペルガー症候群は、自閉症スペクトラムのタイプの一つに分類されています。 持っている症状も様々です。自閉症スペクトラム一つを見ても、会話がほぼ成立しない人から会話に問題はない人、勉強も普通にできる人とできない人、教科によってひどく凸凹がある人などがいます。複数の情報から取捨選択できないタイプにも、情報が目に入っていない人だけではなく、他のたくさんの情報も一緒に頭に入ってきてしまい選べなくなる人もいます。一人一人を見て、その人の持つ特性を見極めるしかありません。 シンスケ君のケースでは、親御さんが発達障害ではと疑っていますが、全く気付いていない方や、話を聞く限りこちらはそう思えないのに「うちの子は発達障害だと思います!」とおっしゃる方もいます。自ら診断を受けに行った方は少なく、病気と同様、必要な方がきちんと病院に行っているとは言えない状況です。 また通院しているのに適切な対応を受けていない場合もあります。精神科や心療内科もそれぞれ得意分野があり、どの病院でも一律の対応をしてもらえるとは限りません。発達障害の深い知識を持たず、ただ何となく薬を与えられているだけの場合もあります。病院は、発達障害を診療分野に掲げている所を選ぶ方がいいでしょう。 発達障害とは何なのか、ただの性格や特性ではないのか、診断を受けることに何の意味があるのか、という問題があります。これには人や団体によって様々な考え方があります。本人が障害をどう捉えるかの問題もあります。 私たちの場合は、「一般就労が可能か、障害者雇用の方がいいか」を判断基準にすることが一番多くなります。いつかはいなくなる親の元を離れて自分で生きていけること。これが私たちの支援目標の大部分を占めているので、就労の問題には必ず直面します。障害者雇用となると私たちだけでは対応できなくなるため、ここが大きな境目なのです。 障害者雇用でなければ就労できないだろう、継続しないだろうと思った場合は、発達障害の診断を受けるために医療につなげます。診断を受け、障害者手帳を取得することにより、臨床心理士やケースワーカーの方とつながり、就労移行支援やA型B型事業所(雇用契約を結ぶのがA型、結ばないのがB型)が利用でき、障害者雇用や障害者年金の可能性を探るなど、将来の選択肢が広がるのです。 発達障害が何なのか、私たちもよく分かっていません。発達障害という診断名は、それ自体に意味を求めるのではなく、困っている当事者が利用できる支援を増やし、可能性を広げるためのもの、と捉えています。このような発達障害の捉え方は、私たちの支援内容から出てくるものですので、一つの参考程度にお考えください。 発達障害の話で欠かせないのが、「ボーダー」と呼ばれるぎりぎり障害の診断が下りない人たちです。障害ではないと判断されても、やはり生きづらさを抱えています。ですが診断が下りないため、医療も福祉も利用しにくく、行き場がないことが多いのです。
発達障害と病気が混在すると判断が難しくなる
ツネオ君(仮名)は21歳。子どものころから相手に合わせられないタイプでした。物の考え方にも、こだわりがありました。会話がどうしても一方的なものになり、小学生の頃からいじめにあったようです。中学では不登校になり、高校は通信制を選択。集団の中にいるのが難しいからと、サポート校に他の子と時間をずらして通い、先生とほぼ1対1で面倒を見てもらい、何とか卒業しました。 卒業後はバイトをしようとしましたが、本屋など自分が好きで行くお店ばかりに応募します。接客業になるので難しいと親は止めたのですが、本人は聞き入れません。案の定受からない、受かっても続かない、の繰り返し。そのうち引きこもりが始まり、もう2年になります。コンビニや散髪程度の外出はしています。父親のことは避け、母親とはよく話します。ただ気に入らないことがあると母に声を荒らげることもあります。怒る理由は、好きな食べ物がないなど、子どものようなものです。 問題は、家の中で声が聞こえる、うるさい、などと言っていることです。幻聴の症状があると思われます。この状態で病院に行くと、統合失調症の診断を受ける可能性が高いでしょう。薬も出るものと思います。そうして治療をすれば引きこもりから脱出できると親御さんが勘違いすることがありますが、実際はそうは行きません。「薬が効かない」と通院をやめてしまう方もいます。 確かに今は統合失調症の症状が出ており、その治療は大切です。ですがその根底には、恐らく発達障害があります。周囲とうまくいかず引きこもるに至った原因は、発達障害によるコミュニケーションの難しさであり、統合失調症はその二次障害だと考えられます。ですから、統合失調症だけを治療しても、会話が一方的な状態がそのままなら、人の中でやっていけず、バイトなどができるようにはなりません。 病気だけでも発達障害だけでも、対応はぐんと難しくなります。ところがその両方の傾向がある方が、実はとても多いのです。発達障害がある方は、抱える生きづらさからストレスが多く、病気を発症しやすいのかも知れません。 親御さんがそのことに気付いていないことも多々ありますし、通院していても発達障害の話は全くされていないという方もいます。発達障害の話は、当人が疑って、そうではないかと聞くまでは、医者の側からは検査をしましょうとは言えないのかも知れません。そう思えるほど、「発達障害の可能性もありますから、今の症状が落ち着いたら検査をしてみる方がいいですよ」とお伝えすると、驚かれる方が少なくないのです。
決定的な解決策などない
引きこもりになるきっかけは、いじめや、人間関係のトラブルや失敗、病気など、様々なものがあります。それどころか、「家を出る理由もなかったから」「何となく」という人すらいます。外出できる人できない人、自室からもほぼ出ない人。家族との会話がある人とない人。年齢や年数も様々な上、病気や発達障害のある人もいます。この中でどのタイプが特に多いということはなく、どのタイプも比較的まんべんなくいます。引きこもりを一つのパターンにまとめることはできないのです。 それはすなわち、引きこもり支援の難しさでもあります。到底親だけでは対応し切れず、支援者も単独では難しく、複数の機関で協力して関わらなければ解決に至らないケースも、たくさんあるのです。医療と福祉と自立支援。引きこもり支援と就労支援。公的機関と民間団体。どの支援をどう使うのか、1箇所にするのか複数使うのか。これは次の章で触れていきたいと思いますが、実は今はたくさんの選択肢があります。引きこもりは多様化してはいますが、支援も多様化しています。適した支援をうまく使えば、かなりの数の引きこもりは解決するのではないかと思います。 ただし、マッチングはあまりうまくいっている印象がありません。現状では引きこもる当人やその家族が支援を選ぶ形が主流です。私たちニュースタート事務局を含め支援側は、支援を求めて来る人を待つ立場です。 ですが当人や家族が引きこもりの多様性を把握し、その中で自分たちがどこに位置するかを正しく判断し、適した支援を選ぶのは至難の業でしょう。このミスマッチゆえに、引きこもりはなかなか解決しないのです。
引用先:「引きこもりのほとんどは発達障害」って本当? 引きこもり支援のプロが語る”ボーダーの生きづらさ”(文春オンライン) – Yahoo!ニュース