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夫からのすさまじい暴力に10年耐えた妻、「悪いのは私」と思い込む“DV洗脳”の恐怖
元マクドナルド社長の原田泳幸氏(72)が妻でシンガー・ソングライターの谷村有美さん(55)を暴行、通報により警察が駆けつけたという今回のDV事件。原田氏はゴルフ器具で複数回殴り、右腕や太ももなどに全治10日のケガをさせた傷害の罪で2月19日付で東京区検に略式起訴された。これを受けて東京簡裁は、2月19日罰金30万円の略式命令を出し、原田氏はすでに現金で納付したという。
全部自分が悪い、そう思い込んでいた
通報の報道を知った際、京都府在住の浜口真理子さん(仮名・50歳)はDVを受けた時点で通報をした谷村さんに心から拍手を送ったという。 彼女のすさまじいDV体験と脱出までの道のりを聞いた。 「DVを受けていたとき、私は、通報はおろか周りに相談もできませんでした。殴られたときも、蹴られてあばらを折られたときも、相談はおろか病院にすら行ってはいけない! と思っていました。全部自分が悪い、そう思い込んでいたんです」 まだDV、モラハラという概念が世の中にしっかり定着する前、およそ20年前のこと。 浜口さんは原田夫婦と同じ年齢差でもある17歳年上の夫に約10年間、暴力、モラハラを受け続けたという。 「実は6年前に主人は亡くなったのですが、いま思い返しても彼は悪魔だったのではないかと思うときがあります。20代前半からずっと知り合いだったのですが、付き合い始めたのは30歳ころでした。付き合っていた当初は年齢差もあり、優しく、すごく大切にしてくれました。最初に“おや?”と思ったのは32歳のころ、一緒に住み始めてからですね。 食事のとき、唐揚げを揚げていたんです。そしたら、ものすごく激怒されたんですよ。“オレが座っているのになんでまだ唐揚げを揚げているんだ”と。私は揚げたてを食べてもらいたかっただけなのですが。そんなことがだんだん増えてきて」 そうして、生活に少しずつ暗黙のルールが増えていったという。 「彼が狡猾(こうかつ)なのは、家庭の中で誰彼かまわずDVをするのではなく、私に優しいときは子どもに、子どもにやさしいときは私に敵意が向くわけです。だから、子どもを守るために彼の敵意が自分に向くよう、常に気を配っていました。私に敵意が向いていれば子どもには優しいし、私も彼も再婚同士で、この家族3人で生きていこう、そう思っていたので、当時はその異常性に気づこうとしなかった」 それでも、ケガをするまで暴力を受けたら、そこは逃げるか、誰かに訴えるか、そう思うものではないか。 「誰かに訴えても100倍になって返ってくる、絶対に逃げられない、それに私も悪いのだから、と。そういう思考になってしまうんですよ」
ひと晩中、説教をされマインドコントロール支配下に
34歳から、夫の指示により、自らの得意分野を生かしたヘルスケア関連のビジネスを始めた浜口さん。そのころから夫は仕事もしなくなっていったという。 「朝、私を駅まで送っていって、帰りの時間も報告しなければならない。どこに寄り道することも許されず、私が仕事から帰ったなり“今日の気に入らなかったこと”と題してひと晩中、朝まで説教が続きました。もちろん、ときには手も足も出ます。無職で昼間は寝ているわけですから、彼は元気なんですよね」 その気に入らなかったことといえば、掃除ができていなかった、ご飯が気に入らないといった本当にささいなことであったという。 「自分でももちろん、そんなささいなこと!? なんで私がそこまで言われなくちゃいけないんだと、当然思ってはいます。でもね、ずーっとガミガミ言われていると“とにかくこの時間が終わってくれさえすればいい”という思考になっていくんですよね。だから、ごめんなさい、はいはいわかりました、と。でもやっぱり心から悪いとは思っていないわけなので、その態度がまた主人は気に食わない、それでまた怒るの繰り返し」 そんな生活が4年ほど続いたある日、全くの偶然で夫婦問題カウンセラーである棚橋美枝子さんに出会い、夫婦問題カウンセラーといった肩書に思わず反応してしまった浜口さん。 それでも、実際に相談に出向くことはなかった。ただ、女性を相手にお仕事をしているという共通点から、仕事を通じて再び棚橋先生と会う機会が訪れる。
この出会いがなかったら今ごろは犯罪者だったかも
「当時は、ストレスで眠れない、下痢、食欲不振と身体はボロボロでした。棚橋先生とランチをご一緒していて、私があまりにも食べないので“顔色も悪いし、げっそりして、どうしたん?”と聞いてくれたんです。そこで、初めて夫の話をしてしまいました」 暴力の話はできなかったものの、やっと、外に思いを吐き出すことができたとき、棚橋先生から「それはモラハラよ」と断言される。 「“あなたは360度どこを見渡しても、朝まで相手に説教されるほど悪くない”と。そう言われてやっと“そうかも”と、心から思い始めたのです」 それでも、“私にも悪いところが”と思う癖はなかなか抜けなかったという。 「でもある日、私が仕事中で携帯がつながらないことを理由に、ものすごく激怒されたときに“これは私、絶対に悪くない”と心から思ったんです。棚橋先生に相談を続けていたことで、少し強くなっていたんでしょうね」
夫からではなく息子からの暴力で家を出る決意が固まる
少しずつ強くなる妻。その態度が気に入らないと、夫は次なる手に出る。 「思春期に差しかかって、どう吹き込んだかはわかりませんが、子ども(当時15歳)までもが“お前が悪い”と。私に暴力をふるいだしたんです。それがもう耐えられなくて。主人に暴力をふるわれるよりなにより堪(こた)えてしまって、家を出たんです」 夫が働いていないぶん、働くしかない浜口さんは多忙を極め、息子が家に帰ったときには父親しかいない。そこでどんなやりとりがあったかは誰にもわからない。しかし、息子は母親に対して、明らかに敵意を向けるようになっていったという。 「息子からしたら、私ひとりで家を出たので“捨てられた”と思ったかもしれませんね。でも、息子が主人とそっくりに、私に暴力をふるうことが本当につらくて、身ひとつで家を飛び出してしまったんです。もちろん、後日すぐに迎えに行きました。でも、息子は主人を選びました」
証拠がないから調停は打ち切りに
もちろん、愛息子を取り戻したい浜口さん。家庭裁判所へ離婚と、親権確保の訴えを起こします。しかし、ここでも夫の狡猾さが際立つ。 「本当にね、外面がよくて話術が長(た)けている。そこは本当にもう尊敬するほどです。私がどんなに訴えても、ご主人も息子さんも出ていったあなたが悪いといっていますよ、と。今まで受けた精神的、肉体的な被害、思い出せるものすべて書き出して提出しても『証拠』にはならないと。 棚橋先生とお会いした後に、録音も試みたのですが、バレたらどうしようという恐怖心もあってうまく録音できなかった。あのとき病院に行って診断書をもらっておけば、何か証拠を残せていたら。もう、すべてが後から思いつくんです」 決着がつかず、家庭裁判所の審判まで進み、さあこれからどう立証しようかと弁護士と相談を重ねている最中、夫死亡の一報が入ったという。 「脳出血で即死でした。おそらく、あのまま生きていたら親権もとられたまま、今ごろ子どもも夫そっくりに育ってしまったのではないかと思います」 それから6年。今は息子さんと一緒に住んでおり、徐々に関係も改善したという浜口さん。それでも当時のことはまだ話せないでいるという。家族間DVの傷は、たとえ解消されたとしても、その後の人生にも大きく影響を与えているのだろう。
被害者・加害者ではなく当事者と思うことで見えてくるもの
浜口さんが出会った、結婚・夫婦カウンセラーである棚橋先生によると、昨今、事務所に相談に来る人たちは肉体的DVよりも、精神的DVに苦しむ人のほうが圧倒的に多いという。 「ひと昔前まで、男性が腕力や体力にものを言わせ女性を服従させることが容易な時代もありました。女性も出産できてこそ一人前と評価される、そんな時代の名残が未だ残っているからこそ、男性から女性への身体的暴力は終わらないのかもしれません。 しかし、今は、執拗な形で精神的に追い詰めるという暴力が増えていると感じます。モラハラがエスカレートして身体的暴力になるというのではなく、それこそ全く違うタイプのもののように感じます。DVも知能戦の時代と言えるのかもしれません。 また、家庭環境が与える影響はとても大きいと感じています。父親が母親を見下す、攻め立てる。そんな家庭に育ったことで、暴力はいけないと誰よりわかっているはずなのに中から溢れ出す暴力的な感情を抑えることができない。連鎖から起きる新しいDV家庭の発生は問題ですよね」 相談に来た人に棚橋先生が必ず伝えているのが『加害者、被害者ではなく、お互いがこの問題の“当事者同士”である』ということ。 「当事者が抱えた問題に向き合うのはかなりの時間がかかります。でもね、離婚するにせよ、夫婦関係を修復するにせよ、まずはDVの本質を知らなくてはならない。事件の加害者と被害者ならば離れるしか解決策はありません。しかし、単に被害者として怒られ役にあなたは甘んじてはいませんか? 今、あなたは怒られていることを本当にしていましたか? そこで謝る必要ありましたか? と、被害者としてではない、当事者として自身の現状を客観視するという意識改革を行っていかないと根本の問題解決には至らないんです」 結婚をするとき「きっと、この人なら幸せにしてくれるにちがいない」と思い、離婚をするときには「この人と離婚さえすれば幸せになれるにちがいない」。このどちらにも「自分の幸せとは何なのか?」という大切な一点が抜け落ちていると棚橋先生は指摘する。 「誰かに“幸せにしてもらう”と思っていると幸せにしてもらえないと感じたとき、私たちは被害者意識に傾いてしまいがちです。夫やパートナーに依存する前に“自分の本当の幸せってなに?”と、いま身近な関係性の中で、身体的に、精神的に何かしらダメージを受けている人は自問してほしい。 私たちが描く幸せは人それぞれですが、最低限、安全で安心で人権が守られている環境に自分は生きているのか。生きてよいのだ! と、ぜひ、まず一番に考えていただきたいですね」
引用先:夫からのすさまじい暴力に10年耐えた妻、「悪いのは私」と思い込む“DV洗脳”の恐怖(週刊女性PRIME) – Yahoo!ニュース