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「心が追い込まれるとき」人が抱える4つの感覚
厚生労働省は1月22日、2020年は自殺者数が11年ぶりに増え、2万919人(速報値)だったと発表した。とくに女性は6976人で前年より885人(14.5%)も増加した。新型コロナウイルスによる生活の変化が自殺増加の背景にあるとみられている。 コロナ禍による生活困窮など経済的な原因が大きいと考えられているが、精神面での要因を指摘するのが、自衛隊で長年メンタル教官を務めてきた下園壮太氏。ロングセラー『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』の著書もある下園氏に、長引くコロナ禍がメンタルに及ぼす影響とその対処法について話を伺った。
■うつになる要素が今あふれている まずお話ししたいのは、コロナ禍がもたらした生活の変化は、うつになりやすい要素があふれている、ということです。そのことについて、順を追って説明していきましょう。 (1)コロナ禍は「ステルス疲労」をもたらす コロナ禍による生活の変化により、「本人にとって自覚しづらい疲労=ステルス疲労」がたまっていくことがあります。 たとえば、テレワーク。「新しい生活様式」という言葉も使われ、通勤時間が減って楽になった、嫌いな上司にも直接会わなくていいから気楽だ、といったプラスの面が強調され、いいことずくめのように感じられます。
ところが実際は、初めてのテレワークではオンライン会議への準備や慣れるまでエネルギーを使いますし、通勤がなくなり、よいことばかりのように感じられても、外出しないことによるストレスも感じています。 そもそも、人間にとってあらゆる「変化」はストレスです。結婚、引っ越し、異動、転勤、転職など、あらゆる変化は、たとえそれがプラスの変化であっても、新しいことに対応して慣れるためにエネルギーを使うという意味で、疲れるのです。
ただ、転勤といった1つだけの要素であれば、通常は2~3カ月で慣れて、疲労も取れて新生活になじむことができます。ところがコロナ禍によって、この1年は新たな変化の連続でした。突然の緊急事態宣言、学校や保育園の休校・休園、テレワーク、マスクやトイレットペーパーの品切れ、自粛警察……などなど。 緊急事態宣言が解除されたと思ったら、今度はGO TO TRAVELやGO TO EATの推奨。そしてまた、再度の緊急事態宣言……。ブレーキとアクセルを次々と踏みかえるような、まさしく変化にあふれた1年で、気づかないうちに、多くの人に自分では自覚しにくいステルス疲労がたまっています。
(2)「生命直結の不安」という特徴 新型コロナウイルスは生命に直結する「不安」をもたらします。高齢者や持病を持っていない人でも、感染に関する恐怖はあり、その不安はさまざまな報道によって、日々、大きくなったり、小さくなったり揺れ動いています。 明日のプレゼンで失敗するかも、といった不安とは質の違う、自分や家族の生命に関する不安に1年間さらされ続けるというのも、疲労を蓄積させます。 (3)「我慢」がエネルギーを消耗させる
緊急事態宣言にともなう「自粛」の要請により、これまで好きだったことを「我慢」しなければなりません。人間は「我慢」することにも、精神的エネルギーを多く使います。 (4)「不安の感受性」の個人差 コロナ禍では、感染への不安の強弱が人によって大きく異なります。「不安の感受性」の個人差が大きいからこそ、周りの人はどう思っているのか、余計に気を遣って観察したり、話をしたりしないといけません。他者の考え方、行動にこれまで以上に気を遣わなければならず、その結果、疲労がじわじわとたまっていきます。
(5)みんな同じつらさを抱えているのに、というプレッシャー コロナ禍は日本中、世界中の人に降りかかっている災禍です。医療従事者をはじめ、多くの人が頑張っているのに、自分みたいに恵まれている立場の人間が疲れたなんて言っていられない。そのように感じる人も多いのです。 疲れやつらさを感じていても、それを口に出しにくい、出しているような状況ではない、と自分の心にふたをしてしまうことで、ますますつらさは増していきます。
(1)から(5)まで見てきましたが、ステルス疲労は新型コロナウイルスの症状の特徴として言われている「ハッピー・ハイポキシア(幸せな低酸素状態)」に似ていると思います。 「ハッピー・ハイポキシア」とは、血液中の酸素濃度が96~98%あるのが正常な状態のところ、70%を切るような濃度でも苦しさを感じずに話をできる状態の患者さんを指す言葉です。つまり、酸素濃度が足りていなくても自覚症状がないのです。しかし、この間に病状は進行して、急激に重症化するケースも多いのです。
「ステルス疲労」も見えず、感じず、自覚していないうちに心の中で疲労が蓄積して、うつ病になったり、最悪の場合、自殺に至ってしまうという意味で、非常に注意を要するものです。 ■雑談の減少の影響 新型コロナウイルスによる生活の変化が負担感をもたらすものの一つに「雑談の減少」があります。女性は1日に約2万語の単語を発し、その量が6000語に減るとストレスを感じるという研究結果もあります(男性は1日に約7000語。アメリカ、メリーランド大学)。
テレワークが進むと必然的に雑談の量は減ります。Zoomなどのオンラインの打ち合わせや会議は、目的を持って行うもので、雑談はなかなかしにくいものです。発言がかぶってしまうと、聞こえなくなったりもします。そうなると、どうしても言葉を発する量が減ってしまいます。 私はうつ病になりやすい、「4つの痛いところ」があると思っています。 (1)負担感、(2)無力感、(3)自責感、(4)不安感 です。新型コロナウイルスはステルス疲労で(1)負担感を高めます。そして、長引くウイルスの流行は自分や人間社会が頑張ってもウイルスにはなかなか勝てないという(2)無力感を強め、自分が無自覚に病気を人にうつしているかもしれないという(3)自責感も刺激します。
そして、雇用や収入などへの(4)不安感も、コロナウイルス終息の先行きが不透明なことから、強まっていきます。 (1)から(4)の「4つの痛いところ」が揃ったとき、これから先、生きていてもよいことなんてないし、自分は誰にも貢献できないし、誰にも構ってもらえない。私なんかいないほうがいい、という「死にたい気持ち」が出てきてしまいやすいのです。 ■コロナ禍を生き抜くためにやってほしい3つのこと これからも続くコロナ禍を生き抜くためには、まずこれまで述べてきたメカニズムを理解し、自分が疲労している、ということを知っておくことが大事です。疲労していて当たり前なんだと、まず自分の疲労を自覚してください。自覚してはじめて、「疲労をとろう、自分を労わろう」という気持ちが生まれてきます。
疲労を自覚したうえで、(1)休む、(2)不安情報から離れる、(3)体を動かすの3つを心がけてください。 疲れたら(1)休むのが一番です。普段より1時間、睡眠を長くとるようにするとか、何もしないぼーっとする時間を増やすとか、好きな映画を見るとか、心身を意識して休ませるようにしてください。 コロナ禍で高まる不安を鎮めるためには、(2)不安情報からも離れましょう。テレビのワイドショーを1日中つけていると、ずっと不安な気持ちになってしまいます。ネットでコロナ情報を検索し続けるのもよくないです。情報は新聞からとか、このニュース番組だけ見ると決めて、不安情報に接する時間を減らしてください。
コロナ禍で外出自粛が増えると、家にこもりがちになります。人間は動物、動くものですので、動かなくなると、どうしてもうつっぽい気分になりやすくなります。ですから、無理のない範囲で、毎日散歩するとか、スーパーに買い物に行くなど、(3)外に出て体を動かすことを心がけてください。 疲労を自覚し、(1)から(3)の対策を実行する人が増えることで、コロナ禍によるメンタルクライシスを乗り越える人が増えると信じています。
引用先:「心が追い込まれるとき」人が抱える4つの感覚(東洋経済オンライン) – Yahoo!ニュース