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「今は出ないの?」夫からDV、離婚拒まれ…支援受けられぬ“プレシンママ”の苦悩
「離婚届を出したかどうか、の違いだけですよね。紙切れ1枚の話なのに」 九州の30代女性は声を絞り出す。夫からドメスティックバイオレンス(DV)を受け、小学生の子ども2人と家を出た。別れたいのに拒まれ、ひとり親家庭の支援を受けられない。まだ戸籍上は夫婦だからだ。
夫への不信は妊娠初期に始まった。つわりで嘔吐(おうと)を繰り返し、体重が6キロ減っても「病気じゃないから甘えるな」。涙があふれた。
育児もほぼ1人で担った。夫がおむつを交換したのは5回、風呂に入れたのは10回ほど。子ども2人は病気がちだが、一度も通院に付き添ってくれなかった。 月に約8万円を渡され、食費や洋服、ガソリン代をやりくりした。子どもを遊びに連れて行きたくても上積みは断られる。「頭、おかしいんじゃないの?」。いつも見下された。 やがてうつ病の疑いと診断され、DV相談窓口でモラルハラスメントと言われた。数百万円の蓄えを使い込まれていたことも知った。 ある夜、夫の行動に身の危険を感じた。寝ていた子どもを起こし、家を出た。
** 今、部屋を借りて子どもと暮らす。以前していた仕事を自営で始めたが、収入は月2万~5万円。貯金は減り続けている。 通常の社会生活を維持するための生活費「婚姻費用」の支払いを夫に求める調停を家庭裁判所に起こした。月5万円を受け取ることになり、最初は振り込まれたものの、この数カ月は途絶えている。いずれ離婚調停を申し立てたいという。 司法の場で離婚手続きをする場合、まず家裁に調停を起こすのが原則だ。夫婦が調停委員を交え、親権や慰謝料などをどうするか話し合い、合意すれば婚姻関係を解消できる。折り合わなければ訴訟に移るのが一般的になっている。
ただ、裁判になってもすぐに別れられるわけではない。判決で離婚が認められるには、夫婦間に不倫や結婚生活を続けにくい重大な事由があるなど、民法の定める条件を満たす必要がある。 「重大な事由」はDVや別居が当たるとされるが、女性の弁護士は経験から「激しい暴力で診断書があるなら分かりやすいが、モラハラでは裁判所も離婚を認めない」と明かす。 住まいを別にすることの判断も難しい。期間が短すぎると結婚の解消を認めない判決が出るといい、「家を別々にし、調停を経て訴訟になり、別居期間が3年くらいになると離婚が認められやすくなる」。弁護士間で「別居期間を稼ぐ」と呼ぶ考え方という。 相手に別れることを拒まれ、民法の定めも満たさないと、ひとり親になるまでに時間がかかってしまう。その間、プレシンママは公的支援から漏れ続けることになる。
配偶者からの生活費が逆にあだになることもある。 ひとり親世帯向けの児童扶養手当は、夫婦のどちらかが家族の養育を1年以上、放棄している家庭には夫婦関係を解消する前でも支払われる。 しかし、生活費を受け取っていると対象から外れるという。厚生労働省の担当者は「配偶者から生活費をもらっていれば養育の放棄には当たらない」と説明する。 女性は夫と別れていない上、お金が滞りつつも入った経緯があり、支給を受けられない。家を出てから「配偶者暴力相談支援センター」でDV証明書を発行してもらい、生活の手続きで役所に通う中、職員に掛けられた言葉が忘れられない。「離婚したら、すぐ教えてくださいね。いろんな手当がありますから」
自分と、支援対象となるひとり親と、何が違うのか。「今は出ないの?」。口から出そうになった。 行政の後押しがなく、権利として得られるはずの配偶者の援助もない人は確かにいる。話し合いだけで別れることを望む人は相手に応じてもらえないと、苦境が長引く恐れもある。 離婚問題に詳しい九州の弁護士は言う。「婚姻費用を少しもらっただけで行政の支援を受けられないなら、もう支払ってくれなくていい、と言いたくなる」。その上で強調した。「ひとり親の支援制度は離婚しているかどうかを重視しすぎだ。届くべきところに手が届いていない」 【連載「プレシンママは今 離婚できない母」より】 (編集委員・河野賢治)
離婚の種別
離婚は、夫婦が話し合いで決める「協議離婚」をはじめ、家庭裁判所の調停で合意して決める「調停離婚」、訴訟で判決が出されて別れる「判決離婚」などがある。訴訟の途中、双方が和解案に合意して婚姻を解消する「和解離婚」もある。国の集計では2019年、離婚件数は約20万8000件。このうち協議離婚は約18万4000件、調停離婚は約1万8400件、判決離婚は約2000件、和解離婚は約3000件だった。
引用先:「今は出ないの?」夫からDV、離婚拒まれ…支援受けられぬ“プレシンママ”の苦悩(西日本新聞) – Yahoo!ニュース