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絶対に言ってはならない、うつ状態の人に対する3つのタブー
前回(うつ病よりも自殺率が高い厄介な精神疾患とは)は、時にうつ病との判別が困難である「統合失調症」「不安障害」「適応障害」「双極性障害」について解説しました。今回からは、うつ病に戻って、詳しく解説していきます。
もともとうつ病は、「几帳面で真面目な人がなりやすい」と言われていましたが、現在ではむしろ「性格に関係なく、誰にでも起こりえる」と考えられています。
誰でも可能性があって患者数も多いうつ病ですが、発症のメカニズムは実はよく分かっていません。
脳の神経伝達物質であるノルアドレナリンやセロトニンのバランスが乱れて生じるとされており、治療薬も主にそこをターゲットにして開発されています。しかし、なぜバランスが乱れるのかは不明ですし、バランスを調整する薬を飲めば、短期間でスパッと治るというものでもありません。神経伝達物質以外にも、様々な因子が影響していると考えられています。
詳しいメカニズムはともかく、うつ病を発症するきっかけは、だいたい以下のように大別されます。
(1)家族や親しい友人、可愛がっていたペットとの死別、離別
(2)仕事、対人関係のストレス
(3)環境の変化(異動、失職はもちろん、結婚や進学、就職、昇進など、一般的には好ましい変化でも発症しうる)
(4)がんや、慢性的な痛みなどを伴う病気の発症
その他、加齢とともに、緩やかに発症する場合もありますし、「これと言って明らかなきっかけがない」という場合もかなりあります。
いずれにせよ、うつ病を発症すると、頭や心の処理能力が落ちて、状況を理解・判断し、適切に対応できなくなります。いつもであれば乗り越えられるようなトラブル、ストレスの対応にいちいち失敗してしまうのです
■ うつ病の人にしてはならないこと
うつ状態になると、「自分には能力がない」「誰も助けてくれない」「解決方法はない」と思い込み、ものの見方が否定的になります。ストレス、不安は増大し、夜も眠れなくなり、心身ともにさらに疲弊していきます。その結果、頭や心の処理能力がさらに落ちてしまいます。つまり、どんどん悪循環に陥ってしまうのです。
本人が「なんだかおかしいな。病院に行ってよく診てもらおう」と思えればいいのですが、うつ状態の人は他人にうまく助けを求められず、自分だけでなんとかしなくてはいけないと思い込んでいるケースが多く、人知れず悪化してしまうことが少なくありません。そのため、「気分が落ち込む」「死にたい」など、自分の感情を表現できる場合はもちろんのこと、表現できない場合であっても、家族や友人、同僚などが早めに気づき、手を差し伸べてあげることがとても重要になってきます。
そして、その際に重要なのは、早めに医療機関への受診を促すことです。前回解説した通り、うつ状態であってもうつ病ではなく、統合失調症や不安障害、双極性障害などの可能性もあり、それぞれ治療方法は全く違ってきます。
その他、甲状腺機能低下症やアルツハイマー型認知症、副腎皮質ホルモン(ステロイド)やβブロッカーの内服によってもうつ状態になりえます。医療機関で正確な診断をつけることが何より大切なのです。
また、医療機関で適切な対応をせず、周囲の人たちだけで対処しようとすると、悪化していく可能性が高まります。なぜなら、よかれと思ってやったことが、逆効果をもたらすことがとても多いからです。これはやってはいけないという注意点をまとめます。
(1)頑張れと励ます
よく言われることではありますが、これはやってはいけないことの筆頭です。こう言われると、うつ病の人は「頑張っていないと思われている」「自分が甘えているんだ」と、自分を責めてしまいます。
うつ病の人にとって必要なのは休息ですが、「休むわけにはいかない」と頑張ってしまうと、悪循環からさらに抜け出しにくくなってしまいます。場合によっては、自殺の危険性も上昇します。
■ 「うつ病は心の風邪」が生み出す誤解
(2)何でもないことだと軽く考える
うつ病については、「心の風邪」と表現することがあります。「誰でもなりうる」「心配ない」ということを示そうとしているものと思いますが、必ずしも好ましい表現ではありません。なぜなら、「風邪であれば、少し休めば簡単に治るもの」という誤解を生み出しかねないからです。
うつ病は時に深刻な状態になりますし、自殺の危険性もあります。しっかりと医療機関を受診しても、年単位の治療が必要になることもあるのです。深刻ぶって接すればいいというわけでは全くありませんが、安易に考えず、慎重な姿勢、心構えが必要です。
食事などの気晴らしに誘うのも、向こうが望まない限り、控えた方がいいでしょう。「気を遣わせている」「行けない自分が悪い」などと思考がネガティブな方向に落ち込む可能性が高い。
「頑張れもダメ、気晴らしもダメなら、どうすればいいの?」と思うかもしれません。近しい人ほど、何かしてあげたくなってしまうはずです。しかし、うつ病の人に必要なのは、何よりもまず「休息」です。いったんすべてを棚上げさせて、つかず離れず見守ることが肝心です。
本人が話をしたければぜひ聞いてあげて、あいづちを打つのはOKです。でも、「こう考えればいい」「こうしたらどう?」などとこと細かくアドバイスをしたり、自分の考えを押し付けたりするのは、ついやりがちですが、避けた方が無難です。
(3)「クセになるから薬はやめたら?」などと気軽に言う
これもよくあるパターンです。うつ病の治療には「薬物療法」「対人関係療法」「認知行動療法」などがあります。この中でも、特に「認知行動療法」は、いつもの固定的な「認知(ものの捉え方)」を変えることによって「行動」自体も変え、抑うつ的な気持ちを楽にするという治療法です。
うつ病だけでなく、睡眠障害や不安障害などでも効果を認められており、場合によっては薬物療法よりも優先されることもあるほどです。この治療法については、回を改めてしっかりと解説します。
さて、認知行動療法が優れているとはいえ、薬物療法は今も昔も変わらず重要な柱です。そして薬物療法は、ある一定期間をまっとうしないと効果が薄れてしまいます。
■ 放置すれば時間の経過とともに悪化する
うつ病の治療は良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら進みます。しかし復帰を焦るあまり、途中で軽快した時に本人が自己判断で薬を止めてしまうことが多々あります。その結果、治療が振出しに戻ってしまい、病気がこじれていってしまう。
治療は専門家に任せるのが一番です。患者さん本人が一番不安に思っていて、それをうまくサポートしてあげなくてはいけないのに、周囲の人の不用意な一言で、状況を悪化させるようなことはくれぐれも避けるようにしましょう。
また、家族であれば、「自分の家族がうつ病になるなんて・・・」とネガティブに捉えてしまい、うまく受け入れられないというケースもあるかもしれません。しかしそこで時間を空費すると、状況はどんどん悪化していきます。すべての病気と同じですが、やはり早めの早めの対処が必要なのです。
引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/b4fcf2beb087318a5e8c2cc9bab45dcbdb008b86