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6月は「受験後うつ」に要注意! 難関校に合格した“優等生”を襲う見えないストレス〈dot.〉
  • 厳しい受験競争を勝ち抜き、第1志望に合格した子どもたちは、誇らしい気持ちで春からの新生活を満喫している――と思われがちだが、実はそうとも限らない。特に難関校の合格を勝ち取った子どもこそ注意すべきなのは、「受験後うつ」の兆候だ。症状が悪化すると、イライラして暴言を吐いたり、家庭内暴力に発展したりすることもある。この時期、いわゆる“受験エリート”に何が起きているのか。受験を専門に扱う心療内科「本郷赤門前クリニック」院長の吉田たかよし医師に、「受験後うつ」の原因や親が気を付けるべきポイントを聞いた。


    *  *  *


    「受験後うつ」はなぜ起きるのか


    「頭がいいと褒められて育ってきた、いわゆる“地頭がいいタイプ”が要注意なのです」


     吉田医師は「受験後うつ」になりやすい子どもの特徴をこう話す。なかでも、親の関与が大きい中学受験で、「御三家」などの難関中学に合格した子どもが発症するケースが多いという。


     一体なぜか。


     吉田医師によると、「地頭のよさ」というのは幼少期の脳の使い方によるところが大きく、子ども本人が自覚をしていない時期に親が熱心に教育へ取り組んだ結果のあらわれだという。だが、子どもはこれを勘違いして、「頭のよさ」は持って生まれた特別な能力と捉えてしまう。受験期に勉強を始めると、そう努力をしなくても難解な問題をすらすらと解けてしまうからだ。周囲からは羨望(せんぼう)のまなざしで見られ、自分は特別な存在なのだという「自己愛」がむくむくと膨らんでいく。そして、実際に難関校に合格することで「自己愛」は最高潮に達するのだという。


    「この自己愛が最大限に膨らんだ状態で難関校に入学し、新しい環境でそれが否定されたとき、うつの原因となるのです」(吉田医師)


     難関中高一貫校には、当然、地域のトップレベルの頭脳の持ち主が集まってくる。その優秀な生徒たちがさらにコツコツと勉強を続け、しのぎを削りながら、6年後の大学受験を目指していく。必然的に目標となるのは、東京大学をはじめとする超難関大学となる。


     そうした精鋭集団では、相当の努力をしなければついていけなくなる。つまり、「地頭のよさ」だけでは戦えず、それに頼ってきた子どもは成功体験が通用しなくなるのだ。成績が振るわず、周囲から褒められないのは「頭がよい自分」という存在意義が否定されることを意味する。焦燥感がつのり、子どもにとっては大きなストレスとなる。


    もっとも、受験勉強期から子どものストレスは徐々にたまっている。その状態で「勉強でちやほやされないストレス」が重なるので、最後は「大爆発」を起こし、うつを発症してしまうのだという。


    「ストレスも花粉症などのアレルギーと同じように“許容量”があります。一定量のコップにストレスがたまっていくと、あふれたところで症状が出てしまう。難関校入学直後の挫折は、そのきかっけになりやすいのです。自分の『頭のよさ』が否定されたことで、まだ13歳という若さで、アイデンティティーを見失ってしまう受験エリートは少なくありません」(同)


    自己愛を肥大化させてしまう母親


     吉田医師によると、子どもが「自己愛」を肥大させてしまうのは、母親の影響も大きいという。


    「難関中学を狙う子どもの母親は、わが子の頭の良さを中学受験で証明しようとする人が多い。母親自身の存在価値を、子どもの成績に置き換えてしまう人もいます。そうなると、母親はプロセスではなく『いい結果』だけを褒めてしまう。そんな母親の偏った期待に応えようとしてきた子どもは、自分の価値は頭のよさであり、特別な才能の持ち主だ、というゆがんだ自己認識を強めてしまうのです」


     さらに、いい成績をとるためならば何でもやってくれる母親の姿を見ると、子どもは「いい成績さえ取れば親は何でも思い通りになる」という勘違いをしてしまうという。


    「次第に、子どもは王子様・お姫様で、母親はその家臣という関係性になってしまう。もちろん受験期には母親のサポートは必要で、勉強環境を整える手助けは悪いことでありません。ただ、家臣と化した母親が子どもに尽くし、成績ばかり褒め続けることで、子どもの自己愛はますます過剰に肥大してしまうのです」


     そして肥大化した「自己愛」が否定されたとき、その不満は親に向かってくる。


     進学校で成績が振るわないのは自分の努力不足ではない。なぜなら自分はもともと頭がよく、「特別な存在」だからだ。じゃあ、この原因をつくったのは誰か。自分の“家臣”である母親のせいだ――こうした間違った思考サイクルになってしまうという。


     そうなれば、次第に母親への暴言がエスカレートし、暴力へと移行することもある。男児の場合は母親が骨折するまで暴れるケースや、お嬢様学校に入学した育ちの良さそうな女児が家具を壊すといったケースもあるそうだ。


    重症化する前に家庭でできること


     ただ、いきなり親に暴力をふるったり、家庭内で暴れたりするわけではない。そうなる前に、「受験後うつ」には兆候があるという。


     わかりやすいのは、ゲームやスマホへの過度の依存。深夜までゲームなどに没頭し、朝起きられなくなり、登校を渋るようになる。決まった時間に食事をとらないなどの生活習慣も乱れてくる。こうなると、他人の注意や考えを全く聞き入れなくなる。この年代の反抗期は耳で聞いたことに反発するのが一般的だが、うつ症状があると全てをシャットダウンしてしまい、衝動的に「うるさい!」と反応するようになる。


     生活習慣の乱れを目の当たりにすると、親としては口うるさく注意したくなってしまうが、これは控えた方がいいという。


    「あえて放っておくことも大切です。そもそもメンタルは大人でも子どもでも一定ではなく、安定期と不安定期を繰り返しています。とくに思春期はホルモンの関係で、この変動が大きい。よく子どもの様子を観察し、メンタルが安定しているときが、声をかけるチャンスです」(同)


     特に翌日から学校が休みになり、ストレス負荷が低くなる金曜日の夕方や土曜日に声をかけるのがいい。食事後のリラックスしている時間も効果があるそうだ。その際には、「ゲームをやめなさい!」「勉強しなさい!」と高圧的に注意するのではなく、「これからどうする?」と問いかけることで、子ども自身に生活を改善するルールを考えさせることが大切だという。さらにそのルールを紙に書いて、壁に貼るところまでやらせる。最大のポイントは、ルールを守れたときにその努力を褒めること。守らないときは放っておき、守れたら次のルールへというプロセスの繰り返しが必要という。


     多くの受験うつの子どもやその家族を診てきた吉田医師だが、それでも中学受験をすることには肯定的だ。


    「中学受験のメリットは、学力の向上とともに、困難に負けない力を養うことにあります。人生で初めて、大きな関門を自分の意思で乗り越えていく挑戦を小学校時代に体験することは、その後の大学受験や社会人生活への強い基盤になるはずです」


     その挑戦を子どもにとってプラスにするか否か、子どもと向き合う親の力も問われることになる。


    (AERA dot.編集部・市川綾子)


    ●吉田たかよし


    医学博士・心療内科医師。灘中・高校を卒業後、東京大学工学部、東京大学大学院工学系研究科を修了。NHK入局後、北里大学医学部を経て東京大学大学院医学博士課程を修了。受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」を開設。


    引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/27a9e284f812375ff8fc0a9fd595b675ac76e8bc


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