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引きこもり経験者を本物の「警備員」として雇う会社
2015.12.17
ビルの中の急な階段を登って、探偵ドラマに出て来そうな古めかしいドアを開けると、温かな雰囲気の部屋があった。
東京都町田市にある「エリア警備」という警備会社だ。
15年という長期の「引きこもり」経験者や40代、50代の高年齢化した当事者たちも雇用されているという噂を聞いて、会社を訪ねてみた。
週1日でも半日からでもOK
引きこもり経験者が約10人働く会社
同社は元々、別の警備会社にいた大橋源社長(36歳)と松本大助取締役(41歳)が、昨年1月に個人事業として立ち上げ、今年4月に法人化した。
最初から意識して、引きこもり当事者を雇用したわけではない。フリーペーパーなどの求人情報を見た家族などを通じて、結果的に「当事者とつながった」だけだという。
50代の当事者は、1度も働いた経験がなかった。ただ、両親が亡くなり、「この先、自分も不安だから、仕事してみようかな」と応募して来たという。
約15年引きこもっていたという男性は、まず母親が募集を見て面接に来た。その母親は「自分の家に引きこもっている息子がいるから、出してみたい」ときっかけを求めてやってきた。その息子も、いまでは現場でリーダーをしていて、婚活パーティーに参加できるようになるまでに変化したという。
「メンバーは、現場での経験が多いんです。みんな、現場の中で(最初はみんな)同じ他人同士というのを知っていて接するから、職場に入りやすかったんだと思います」(松本取締役)
主な仕事内容は、道路に立って赤い棒を振ること。他の登録制と違って、警備会社は法律で定められた30時間以上の研修期間がある。それを受講すると、初めて警備員としての登録ができて、採用もされる。
現在、同社の登録者のうち、引きこもり経験のある当事者は10人前後に上るという。自宅にずっと居るという意味で使われるネットスラング“自宅警備員”ではなく、本物の警備員だ。
「スーパーのレジ打ちや接客などと違って、対人がなさそうというのがいいのかもしれません。土木のような力仕事でもない。夜中の倉庫業務などは、若い子以外は期間限定になりがち。家族以外の対人関係のなかった人たちは、少しプライドの高いところがあり、上司が年下というだけで居づらい。警備員は、単独でやっている感じがするようです」(大橋社長)
しかし、実際には、道路で住民に「ここは通れません」「回り道をお願いします」などと声をかけなければいけない。最初は、話すのが苦手で戸惑いがあるような人でも、社会で自立したい人、家から出ようとしている人たちにとっては、やりやすい仕事なのかもしれないという。
登録制なので、自分のペースで仕事ができるのも大きい。
「1週間でどれくらい働きたいのか、今月はこの日を休みたいとかを自己申告制で聞いて、それらの希望に沿ったシフトが組まれます。今日入っている人も、明日はどこの現場か、終わったときに毎日確認を取っています」(大橋社長)
現場で仕事するのは、週に1日でも半日でもOK。日勤も夜勤も選べる。そんな仕組みも、少しずつ働きたい人にとっては入りやすい。
ただ、大手の警備会社の中には、毅然とした態度をとることや、白い歯を見せるなと厳しく指導される会社もある。
「会話ができたら、どの仕事よりも楽なんですけど、住民さんの印象が大事になるので、やはり難しい。覚えることも、非日常ではなくて日常なんです」(大橋社長)
“履歴書の空白”も気にしない
採用にあたって、よく障壁になるのが“履歴書の空白”だ。しかし、大橋社長に聞くと「気にしない」という。
「引きこもるというのは、いろんな理由があるからだと思います。こういう性格からだからかもしれないけど、高校デビューとかあったじゃないですか。仕事しようとしている人間って、対人関係に何かがあってとか、仕事の意欲のある人ほど、いじめられてて引きこもる人も多い。そうであれば、そんな環境がなくなったところで働くのであれば、自分を変えようとしてもらった方がいいので、過去に何があったかはあまり気にしないですね」
その働き方も、気が向いたときに、月に1回くらい、仕事に来るという当事者もいる。その当事者は元々、駅に行くことも1人ではできなかった。
「生活を変えたい」という動機で応募してきたものの、事務所で社長とも話さず、5~6時間ずっとテレビを見ていた。スタッフたちも気にしないでいると、この空間を好きに使っていた。そんな“新入生”も、いまでは毎日働きに来るようになった。掃除や宴会にも欠かさず参加するまでになったという。
「実は、まったく未経験でプライドの高い人ほど、認めてほしいというところがあって、一生懸命働いてくれて、お客さんにも恵まれているのか、ウケがいいんです」(松本取締役)
日給は1日約8000円。決して高くはない。
ただ、現場が終わると、みんなここに帰ってきて、上下の関係なく、特別視することもなく、友人のように一緒に会話する。そんな中で、引きこもっていた人が堂々と「引きこもってました」と宣言もできる。
このような「全員で見守っていて、フォローできる」という会社のスタッフの温かい雰囲気が、当事者たちが社会につながるきっかっけをつくり出しているのかもしれない。
同社では、現在もスタッフを募集中だ。
記事詳細 ダイヤモンドオンライン
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