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両親を失いゴミ屋敷に引きこもる60歳男性、彼を追いやったのは誰か

2019.04.18

段ボールが散乱するゴミ屋敷で1人静かに暮らす60代男性の素顔
 住宅街にある2階建ての家の玄関を開けると、目の前に段ボール箱などの散乱するゴミ屋敷のような風景が広がっている。家の中を清掃したくても、足に痛みを感じて、片づけることができないのだ。
 都内在住のAさん(60歳)は、父親と母親を亡くした後、そんな両親の残してくれた家に、今は1人で暮らしている。
 足の痛みで階段を上り下りするのも不自由なAさんは、2階の部屋を埋め尽くすアンティークなオーディオ機器や家具、レコードなどの山に囲まれて、最近は敷きっぱなしの布団の上で寝たきりのような状態になった。
 高齢の親が収入のない子の生活を支える「8050問題」の背景には、同居している親子が家族ごと孤立していて、身動きが取れなくなっている現実がある。そんな当事者たちが心配しているのは、親に万一のことがあったとき、残される子はどう生きていけばいいのかという問題である。
 Aさんの両親は、ともに公務員だった。唯一の兄弟である弟も公務員で、兄弟仲が悪いこともあって別居している。親の遺産をそれぞれ相続した形だ。
「4人家族のうち、公務員でないのは僕だけです。父からは“役人が一番いい”と散々言われました」(Aさん)
 小学校は母親が勤める学校だった。クラス替えになるたびに、Aさんの担任になる教師の職員室の机は、なぜかいつも母親の机の向かい側だった。
「何も隠し事ができなくて……。いつもいい子でいなければいけないし、他の親からも疎まれた。今の自分が引きこもりになるルーツの1つだったのではと感じてます」
 振り返ってみれば、自分自身が変わった反応をしてしまうため、クラスメートと話せなくなり、小学校の頃から移動中に後ろを蹴られたり、モノを隠されたりして、陰でいじめられた。人を信用することもできなくなっていた。
 Aさんは人間関係で人と衝突するのが嫌で、「お人よし」と言われた。母親は常に「この子は、社会適応ができないのではないか」と心配していた。Aさんも、本当は皆と仲良く楽しく過ごしたいのに、自分を保つために壁をつくった。

「学校に無理やり行かされたこともありました。当時は、先生や親の言うことに従うのが優等生。学校に行くのは当たり前だったんです」
 それでも学校で気になる行事などがあると、内科的な症状になって熱が上がり、休むこともあった。高校は、推薦入試で私立に入った。そして、大学を中退後、求人広告の会社に入社して営業の仕事をした。

 しかし、Aさんは職場や人間関係になじめず、半年で辞めた後、警備会社に入った。営業の仕事は前職でこりごりだったのに、社員になって配属された先はまた営業だった。ただ、その職場では実績を上げ、十数年勤務し続けた。
6つの会社の営業職を転々、足に潰瘍ができて動けなくなる
 その後、Aさんは先輩が独立した会社に引き抜かれて、転職した。こうしてAさんは、ほとんどが声をかけられる形で、6つの会社の営業職を転々とした。
 そして、Aさんが最後に仕事をしたのは、3年間、警備会社での工事現場の警備員だった。そもそもは内勤の仕事だったのに、「人手が足りないから」という理由で、外の警備の仕事に出された。「中の仕事をやらせてほしい」と相談したところ、会社からは「もし身体が悪いのなら辞めてほしい」と言われたという。
 Aさんは、足に痛みが走って動けなくなり、救急車を呼んだ。足の皮が破けて中がドロドロになり、足の中に潰瘍ができていた。歳をとって、長時間立ちっぱなしの仕事をしていたことが災いしたのではないかと、Aさんは感じている。
「それでも生活していかなければいけないと思い、会社に日数を減らしてほしいと相談したら、退職届を渡されて、早く辞めるようにと説得されました」(Aさん)
 Aさんには今、収入がない。会社の給料の貯金も切り崩して、とっくになくなった。役所に相談してみたが、「年齢が65歳に達していない」からと支援を断られた。「引きこもり」というカテゴリーで相談をしても、年齢での制限や障害がなければ、制度に乗せてもらうことができず、サポートを受けられない。
 最近、民生委員から確認の電話があり、民生委員から紹介された地域包括支援センターのケアマネジャーが訪ねてきた。ただ、地域包括支援センターは高齢者の介護などのサポートをするのが本来の仕事であり、引きこもり支援の担当ではない。

今回は、Aさんの「表に出られないから何とかなりませんか?」という訴えを聞き、民生委員からの紹介で無視できなかったことから、地域包括支援センターが動いたようだ。
「早く死んでくれ」って社会から言われてる感じ
 多くの自治体の現場では、Aさんのような外に出るのが難しい引きこもり中高年者に寄り添って、生活をサポートしてくれる担当者も支援の仕組みもないのが実態だ。Aさんは、こう問いかける。
「水際って、よく言われるけど、支援の制度自体が対象者の少ないレベルで設定されてるのではないかと思うんです。実は谷間の人が多いから、経済破綻しないようにしてるのではないか。でも、人間は生きているわけだから、人権の問題だと思います」
 足の悪いAさんは、ケアマネジャーが置いて行ってくれたパンフレットに載っていた民間の宅配弁当の案内を見て、1日1~2食、弁当を配達してもらっている。それでも、1食540円の出費がかさんでいく。
「早く死んでくれって、社会から言われてるような感じがします」
 本人たちが望んで引きこもっているわけではないのに、今の日本の社会構造から、そうのような方向へ追いやられているのが、Aさんの実感だという。

引用先:https://diamond.jp/articles/-/200193

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