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親を捨て『家族じまい』する人たち 女優・青木さやかの場合
2020年も年の瀬に迫った。そこで、AERA dot.上で読まれた記事ベスト20を振り返る。 【写真】母親との関係に苦しみ続けたと語る女性アナウンサー 20位は「親を捨て『家族じまい』する人たち 女優・青木さやかの場合」(12月3日配信)だった。
* * * 「絶縁する」──。親やきょうだいにこう叫んでも、離婚のように紙一枚で縁は切れない。一度入ったら抜けられないループのようなもの、それが家族だ。「家族じまい」する人が増えているという。親との関係に苦しんだ3人の女性を紹介する。 文筆家で漫画家の小林エリコさん(43)は、父親と兄からの暴力を受け、母からも助けてもらえず、「機能不全家族」の中で育った。 酒飲みの父親の口癖は、 「誰のおかげで飯が食えると思っているんだ」 母親への面前DVは常だった。小林さんは声を潜めるようにして育った。母親には幼少時代に毎年カーネーションや肩たたき券を贈っていたが、「なんであんなに肩たたき券をくれていたの」と大人になってから聞かれた。 「気持ちが全然届いてなかったんです」 家庭の中に自分の居場所も夢を語れる場面もなく、進路も欲しいものも全て我慢して育った小林さんは今でも自分自身にお金を使うことが苦手だ。 「子どもは育った家庭環境で人生のほとんどが決まると思う。私は、親に自分の可能性を潰された。その恨みが今でも根強くあるんです」 貧乏な生活から抜け出せず、生きていくことに絶望し、30代の半ばに大量の薬を飲んで自殺を図った。退院後に実家で療養しているときに見舞いに来た父親に思わず感情が爆発した。私が病気になったのも人生がこんなになったのも全部お父さんのせいだよと吐き出した。すると父親はこう返した。 「誰のおかげで生活保護が今受けられると思っているのか。俺が(書類に)サインをしたからだ」 小林さんの中で何かがプツンと切れた。 「お父さんとは絶縁する! もう二度と会わない」。家族の縁を自ら切った。今、父親は71歳に、母親は69歳になった。二人はようやく離婚した。 今年5月、小林さんは『家族、捨ててもいいですか? 一緒に生きていく人は自分で決める』(大和書房)という本を出した。皮肉にも本を読んだ父親が小林さんに連絡をしてきた。あれだけ憎み、恨み続けた父親と10年以上ぶりにつながってしまった。会わない間に父親は大病をし、性格が少し丸くなっていた。とはいえ小林さんにはいつでも親を捨てる準備ができている。
一方でこうも思う。 「ふと顔を上げて、鏡を覗き込むと、鏡には父にも似ているし、母にも似ている私が映っている」 女優の青木さやかさん(47)は、昨年母親を見送った。二人は20年以上折り合いが悪かった。几帳面で厳しく、世間体を気にする母親。小さいころから褒められた記憶がなく、テストで85点でも「なぜ100点じゃないの」と言われた。 お笑いの世界に入ったのも母親が嫌がる職業を選びたかったからだ。 そんな母親とは、物理的にも精神的にも距離をとったこともある。 「ある意味、あれは『家族じまい』だったと言えるかもしれません。私にはその定義がよくわかりませんが。でも私にとって、家族じまいでは楽にはなれなかったんです」 どこかで引っかかってしまったからだ。 「仲は悪くても、忘れきることができないんです」 昨年母親がホスピスに入って、いよいよ終わりという状況になった。 「そのとき、犬と猫の保護活動のノウハウを教えてくれた恩人、武司さんという男性から言われたんです。『親と仲良くなると自分が楽になれるよ、最後のチャンスだよ』と」 最初は半信半疑だったが、やってみた。病室でする何気ない会話も最初は「どんな仕事よりもハードなチャレンジだった」が頑張ってみた。できる限り、母がいる名古屋のホスピスまで足を運んだ。 「母のために、と思っていたらできなかったと思います。全部自分のためにやったことです。ふしぎなことに、母が亡くなるときはもう母のことは嫌いではなくなっていて、今は、どんどん好きになっているんです」 母親も青木さんとわかり合ってから死にたいと望んでいたとわかった。母への否定的な思いがなくなったことで青木さんの人生が楽になった。 「私にとっては、親との関係性が人間関係の基本。親への思いが強くなればなるほど、人との関係性が良くなりました」 冗談交じりに「今なら結婚もうまくいくかも」と話す(青木さんは2010年に長女を出産後、12年に離婚)。 「武司さんから、『死んでもできる親孝行があるよ』とも教わりました。それは私が母を送った後も楽しく笑って日々過ごす、ということです」
今は一人娘と幸せに暮らしている。 こうした青木さんのケースと違い、親の影響が強すぎて、精神的に苦しんだ上、「無理に親の面倒をみて子どもも共倒れというケースもあります」(中央大学の山田昌弘教授)。 家族社会学が専門の山田教授によると、「自分(や自分の子ども)の生活を守るために家族をしまわなければならないという人も存在します」。 「家族じまい」し、自分らしい人生を歩みだしたのはライターの寺田和代さん。幼いころに実の父親が自死。養父と実母との間に生まれた弟を含む4人での暮らし。家族の自死はタブー視された時代。感情や記憶を口にすることもできず、飲酒問題を抱えた養父からの暴力も誰にも言えないままだった。父の自死を「なかったこと」と封印し、養父から実娘への虐待を否認し続けた母親は9年前に大腸がんで亡くなった。親戚から余命いくばくもないという連絡を受けても、会いに行くことを選ばなかった。 一度だけ母親に手紙を書いたこともある。しかし「私がどんなにあなたを誇りに思ってきたか、あなたにはわからなかったのですね」と、的外れな一言だけが返ってきた。 「最後まで母親とはわかり合えませんでした。物別れという結末です」 寺田さんの中に、親を捨てたという感覚はない。 「もちろん『親を捨てた』結末に至ったのですが、そうしなければ自分が生きられなかったのです。捨てたくて捨てたのではないという長い、長い葛藤があったような気がします。これだけ親子愛や家族愛至上の社会で『親を捨てる』ということは私にとってはほとんど命がけみたいなものです」 深刻な鬱状態になり、1年ほど、働けないどころか、ほぼ寝たきりだった時期もある。人生の大半を母親との関係に悩まされてきた。母親が亡くなったときは「母娘関係にこれ以上苦しいエピソードが重なることを不安に思わなくていいという安堵と解放感が残りました」。 親との関係に苦しんだ女性3人のケースをご紹介したが、大事なのは家族という既成概念にとらわれることなく、自分の人生を自分の足で生きることかもしれない。(本誌・大崎百紀) >>【後編/増える「家族じまい」相談は5倍 「親の骨を拾いたくない」と家族代行に依頼も】へ続く
引用先:親を捨て『家族じまい』する人たち 女優・青木さやかの場合【2020年ベスト20 12月3日】〈週刊朝日〉(AERA dot.) – Yahoo!ニュース