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発達障害30代男性の自己否定感を決定づけた「いじめ後遺症」地獄
世の中がコロナ禍に見舞われる中、この年末年始もまた、「世の中に見捨てられるのではないかとすごく不安」「このままでは1人で生きていけない」「助けてください」などといった相談が、筆者の元に数多く寄せられた。その中の一つに、30代後半の男性Aさんからの相談があった。小学校時代に遭ったいじめの後遺症に今も苦しめられているという。
● コロナ禍の年末年始に多かった相談 おカネの不安と「いじめ後遺症」 ひきこもっているか働いているかにかかわらず、つながりを求める人たちは毎年、大晦日が近づくと、ふだん行き場所にしているような図書館や公的施設などが休みになることや、正月に親戚が来るなどして家に居づらくなる状況もあって、ますます寂しさや不安を募らせる。今年は新型コロナウイルスの影響で相談は少ないかと思っていたが、そう例年と変わらなかった。 ひきこもる子を抱えた親や兄弟姉妹からの相談も依然多いものの、とくに今年感じるものの一つは、コロナ禍によって雇用環境が深刻化する中で「お金についての先行き不安」だ。また、それとともに学校時代に遭った過去のいじめなどといった人間関係のトラウマによる、大人の「いじめ後遺症」の苦しみだ。
県庁所在都市から遠く離れた地方の実家で両親と同居する30代後半の男性Aさんは、高校を中退してひきこもってきた後、10年余りにわたって新聞配達のアルバイトを続け、何とか収入を得ていた。ところが、今でも小学校時代に受けた体罰や暴力、いじめなどの「嫌な記憶」に苦しんでいるという。 Aさんは8年前、父親に連れて行ってもらった病院の精神科で、「発達障害」と診断された。 子どもの頃から人との集団生活になじめなかったのも、発達の特性からきていたものかもしれない。 ● 小学校入学後に始まった地獄 教師による恫喝に体罰 幼稚園のときは「いい時間を過ごしました」というAさんは、小学校に入学してから地獄が始まったという。 「小学1年生のときの担任の先生は、私が目をキョロキョロしていると殴ってきました。恫喝(どうかつ)に近い行為もしてきて、2年になっても状況は変わりませんでした」 小学3年生になるとクラス替えがあり、女性の担任に代わった。 「ある日、算数の授業のときに、課題をクリアしたら分度器を支給するという課題がありました。課題を終えて先生に見せたのですが、先生の結果は“ダメ”の一言。結局、授業に必要な分度器を受け取るには、泣いてお願いするしかありませんでした。 同じようなことは、小学4年のグラフを描くという課題のときにもありました。課題をクリアしたら帰宅することを許可しますと言われたのですが、何度グラフを描いてもダメ出しされ、このままでは次の習い事の時間がなくなると焦り、泣いてお願いすることでようやく帰してもらったんです」 しかし、担任はささいなことでもすぐに親に報告するタイプだったようで、Aさんが帰宅すると、母親からは「グラフの課題ができなかった」ことを責められた。 「3年生と4年生のときの担任は、問題を起こせば、班から外すなどのペナルティーを取ったりする先生でした。私の自己肯定感が低いのは、小学校のときの体罰が影響しています」
● 小学4年の頃に始まったいじめ 最上級の6年生から暴力 その頃から、Aさんは次第にいじめも受けるようになった。 「私は小学4年生の時にいじめを受けていました。いじめをしていたのは当時6年生の最上級生です。彼らは下校中に追いかけてきては殴ってきたり、靴箱に入れていた自分の外靴をどこかに隠したり…。担任にはいじめのことを話しましたが、何もしてくれませんでした」 Aさんは当時、母親に「学校に行きたくない」と話した。しかし、母親からは「学校に行きなさい」「無視しなさい」と言われただけだったという。 「ある日、私が図書室を掃除している最中に、いじめをしていた加害者の6年生の男子が入ってきました。そして私を見つけると、いきなり殴ってきました、私は抵抗もできませんでした。同じクラスメイトたちが先生を呼んで何とか事は収まり、加害者の男子は謝罪をしました。しかし、実際は表向きの謝罪で済ませた感じで反省の色もなく、今でも心から謝罪してほしかったというわだかまりが残っています」 Aさんは、こうして小学校時代に担任や上級生から暴力やいじめを受けながらも、頑張って学校に通い続けた。いわゆる「苦登校」である。 当時の不安な学校環境がAさんの後の人生にどう影響したのかは分からない。ただ、写真のように鮮明に覚えている学校時代の記憶が、今でも払しょくできずにいるという。 高校時代、母親はAさんの卒業後の進路に口出ししてきて、在住する地方都市にある「地元の企業に就職しなさい」と強く勧めてきた。 「私は、進学を望んでいました。このまま進学して、『声優になりたい』という将来の希望を口にしたら、母親は鬼のような形相になりました。私はこのとき、『この家には居場所はない』と確信しました」
● 「あのいじめさえなければ…」 自己否定感を決定付けたトラウマ体験 高校卒業後、8年間にわたるAさんのひきこもり生活が始まった。 「親は、常に先回りして行動していました。私は自己肯定感が低くて親に反発することもできず、常に親の言うことを聞いていました。母親は常に私に対して、『あれをしろ』『これをしろ』『あそこには行くな』などと指示をしてきます。でも、親の言うことは絶対だと思ってはいけないことに気が付きました」 11年前、新聞のチラシに入っていた「配達員募集」の求人を見て、新聞配達を始めた。配達の仕事自体は「苦労もありますが、楽しいです」という。 Aさんは今後、都会に出て自立した生活を望んでいるが、両親から「生活費はどうするの?」「自立のために必要な生活費を計算してみなさい」などと反対されている。 「あのいじめさえなければ、高校受験や就職の面接もうまくいったのではないか。いじめの影響で、自己否定感が強まった感じがします。せめて、母がいじめの対応をしっかりしてくれていれば、ここまでひどいことにはならなかった。いじめの証拠を見つけ、裁判を起こしていれば、『学校には無理して行かなくてもいいよ』って誰かがアドバイスしてくれていれば、もう少し良い人生を歩めたのではないか」 過去の「いじめのトラウマ体験」からくる、心のつっかえが払拭されなければ、おそらくAさんの不安は消えないだろう。家族の協力が得られないとなると、アルバイトの収入と障害年金の受給額だけでは、都会の1人暮らしになかなか踏み出せない。 「母親の考え方は、終身雇用が神話状態の人で、プライバシーにも土足で踏み込んだりします。正直、限界です。自立ができるのならば、東京や大阪で生活したい。就労支援の訓練も受けたいのが希望です」 信用できる医療機関の情報がなく、「どこで診察してもらえばいいのか分からない」というAさんに、ひきこもった経験がある当事者の口コミで評判のいい医師を紹介した。 地域には、孤立した状態に不安を感じながら、必要な支援が届かない世帯も数多くある。2021年は、孤立して取りこぼされがちな当事者たちと、できる限り同じ方向を向いていきたいと思う。 ◇ ※この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方、また、「こういうきっかけが欲しい」「こういう情報を知りたい」「こんなことを取材してほしい」といったリクエストがあれば、下記までお寄せください。 Otonahiki@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください) なお、毎日、当事者の方を中心に数多くのメールを頂いています。本業の合間に返信させて頂くことが難しい状況になっておりますが、メールにはすべて目を通させて頂いています。また、いきなり記事の感想を書かれる方もいらっしゃるのですが、どの記事を読んでの感想なのか、タイトルも明記してくださると助かります。
池上正樹
引用先:発達障害30代男性の自己否定感を決定づけた「いじめ後遺症」地獄(ダイヤモンド・オンライン) – Yahoo!ニュース