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仕事で挫折しひきこもって10年… 42歳の息子を変えた母の提案とは?〈AERA〉

2019.08.21

中高年の子と高齢の親が社会から孤立する「8050」問題。高齢化する親にも限界が近づき、さまざまな困難が表面化している。当事者たちは何を思うのか。

年が経つことにより、関係性が徐々に変化するケースもある。群馬県太田市の母親(69)と、10年以上ひきこもる息子(42)の場合もそうだ。

 息子は飲食チェーンに就職、一時は店長も経験したが、深夜までの不規則な業務で体はボロボロになり、29歳で退職を決断。

「当時の心配といえば、ひたすら健康のこと。睡眠障害、無呼吸症候群、高血圧、高血糖、脂肪肝とありとあらゆる病気を併発していました」(母親)

 不採用が続いて再就職もままならない息子が、「親の育て方が悪い!」と言ってきた時期もある。働いていた頃の貯金が尽きると、「もう死にたい」と言い出した。とはいえ、父親(75)は定年退職して家計も厳しい。7年前、母親はこう提案した。

「家でできる内職もある。母ちゃんだけやってみようか?」

 ボールペンを組み立てる根気の要る作業。母の内職を手伝ううち、組み立て作業も納品も、息子が担当するようになった。月3万円の微々たる額だが、稼ぎを得て息子は家計を気にするようになった。自動車保険や携帯代はその収入から払い、「僕の取り分は2万円でいい」と。

 ホームセンターでの買い出し。夕食づくり。家での役割も増えてきた。最近はトマトソース煮込みなど凝ったおかずも作ってくれる。自室にこもらず、家族と食事をする機会も増えた。

「親が年をとってきたから多少手伝わざるをえない、みたいな意識も出てきたと思う」(母親)

「働けない子どものお金を考える会」を主宰する、ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、ひきこもる本人が親亡き後も生き延びられる「サバイバル・ライフプラン」を立てることを勧めている。

「3万円でも5万円でも本人に働いてもらって、本人が生きていく保証をしてあげられるのなら、それも一つのゴールになり得る。20年、30年ひきこもった人がいきなり正社員になれたとしても、続くとは考えにくい。親や支援者が、長く続く仕事を共に考えるアプローチも大切かと思います」(畠中さん)

週5日働き、人並みの収入を得ることが必ずしもゴールではない。長いトンネルのような時間をくぐり抜けてきた親たちの視線は、「就労支援」から「生き抜く応援」にシフトしつつある。

 前出の太田市の母親は、ひきこもりの子を持つ家族会「太田道草の会」で活動を続けてきた。会の親たちとともに、支援者の協力を得てパソコン教室や文章校正、農園での袋詰めの軽作業といった「小さな仕事づくり」にも取り組む。

「ひきこもる子がいると地元でカミングアウトするのは勇気が要るけど、年とってそんなことも言っていられない。ネットワークを広げようと思っています」

 仲間の子どもたちによるワークシェアリングでの就労についても、近々、地元企業に提案してみるつもりだという。

 本人の社会とのつながりが希薄で親も隠したがるなど、ひきこもり当事者の実態がつかめない面もあるが、親の介護をきっかけに福祉が入り、発見されるケースもある。そこから、社会につながる事例も出てきた。

 10年ほど前、広島市基町地域包括支援センターに連絡してきた母親に介護が必要になったが、母親は徐々に弱るなか、50代の息子が失業を機に長く家にいるようになったと打ち明けた。この事例に関わった、藤原美喜センター長(当時)は振り返る。

「息子さんは家におられるけん、家でお母さんを見守ってくれる『介護者』だと見て関わっていった。『お母さんに何かあったら電話してくださいね』と」

 息子から事業所に連絡が入り、事なきを得たこともある。

「お母さんがベッドから落ちて移乗介助が必要な時は、息子さんが電話で『ちょっと大変なんだ』と。その時は自分が誰かも名乗らなかったけれど、SOSを出すにはそれで十分でした」

 母親の入院手続きや病院への付き添いなど、頼んだことは全てこの息子が行ったという。

「息子さんは、一般的には『ひきこもり』っていう言葉のイメージで見られる人だったかもしれないけれど、弱った母親を前に、徐々に介護の担い手へと役割が変化していったんですね。『親の介護、看取りを経験した人』として、今では地域の貴重なマンパワーに。地域の高齢者へのボランティアに関わってもらっています」(藤原さん)

(ノンフィクションライター・古川雅子)

※AERA 2019年8月26日号より抜粋

引用先:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190820-00000036-sasahi-life

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