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半年の入居費用685万円も…自立支援施設とひきこもり当事者の「人権」
2019.07.31
内閣府の調査によると、ひきこもり状態にある人は全国で推計「115万人」にのぼる。「ひきこもり支援」施設に申し込むのは、ほとんどの場合、当事者の親だ。不安や焦りを持ち、藁にもすがる思いでいる。そこを狙い、「支援」をうたうが、本人の同意を得ず実も伴わない。いま、こうした民間業者は「引き出し業者」や「暴力的支援団体」などと呼ばれ、元入居者や保護者から訴えが相次いでいるという。
自身も10年近くひきこもっていた「ひきこもり新聞」編集長で、「暴力的『ひきこもり支援』施設問題を考える会」(考える会)の共同代表の木村ナオヒロさん(35)は、引き出し業者が部屋から連れ出す行為を「ひきこもり狩り」と厳しく批判する。
「ひきこもりは家庭だけで解決できないので、支援者が自宅に出向いて本人や家族に働きかける『アウトリーチ』という手法はあります。けれど、本人の合意なく強制的に外に連れ出す行為は人権を無視しています」
ひきこもっている人の多くは自己否定を繰り返し、傷つき、ギリギリのところで生きているという。それが無理やり連れ出されれば、命を絶つ危険性もある。施設に入れられ自殺をしたケースも聞いているという。
木村さんによれば、ひきこもり狩りに共通するのは、(1)本人の同意がない、(2)法外ともいえる高額な契約、(3)支援体制が整っていない──の3点。入居料は、1カ月で60万円前後、3カ月で300万~500万円と高額な施設が少なくない。法外とはいえない金額であっても、「3カ月でひきこもりは治らない」などとして、長く施設に入れ結果的に高額な請求をするパターンもある。親は、高額なのはそれだけの理由があるからと信じ、7年間で1200万円近く支払ったケースもあったという。
「自立支援をうたいながら、自立プログラムは極めて脆弱(ぜいじゃく)で、『放置型』や、延長による追加支援を目当てにした『自立阻害型』も珍しくありません」
2月、東京都新宿区にあるひきこもり自立支援施設「あけぼのばし自立研修センター」の元入居者の30代の男性が、施設の運営会社「クリアアンサー」を相手に550万円の損害賠償を求める訴えを起こした。このセンターには、子どもを入居させた親から半年間の費用として支払った685万円の返還を求める訴えもある。弁護団の一人、宇都宮健児弁護士は強く批判する。
「本人の承諾が取れていないのに部屋から強引に連れ出し施設に連れていくのは、本人の人権が全く無視され犯罪に当たる。親の焦りをあおり、高額な費用を要求しているのも悪質だ」
クリアアンサーは本誌の取材にこう話した。
「裁判で明らかにしていきたい」
なぜ、自立支援の過程で人権侵害が起こるのか。20年以上ひきこもり問題を取材してきた、ジャーナリストでNPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」理事の池上正樹さんは、「制度の狭間に置かれた課題」だと指摘する。
「ひきこもりという状態に診断名や共通する症状はなく、もし問題があっても『自分に障害はない』、親も『うちの子に障害はない』と考えがち。そのため、支援や福祉などのサポートにつながらないことが多い」
家族も追い詰められ孤立しているほど、ネットで検索すると上位に表示されたり、テレビで紹介された支援業者に飛びついてしまう。もちろんすべての施設に問題があるわけではない。入居者の意思を尊重し、良心的な入居料で運営する施設もある。どうすれば見分けられるのか。
池上さんは、「本人が施設への入居を望んでいる」ことを前提とした上で次のように話す。
「本人の意思が尊重されているかどうかが重要。一つの業者の話だけをうのみにしてはいけない。情報は公的な相談窓口や家族会などに問い合わせればありますし、当事者の会に行けば、悪質業者に入った経験者がいることも多く、当事者目線で評判を知ることができます」
公的な相談先として「ひきこもり地域支援センター」が全都道府県と指定市にあり、KHJ全国ひきこもり家族会連合会のホームページには全国の家族会の連絡先一覧が掲載されている。
最近は、「自分たちは福祉の人間である」などと言葉巧みに引き出すケースが増えている。同連合会ではそうした情報も収集しながら、見分け方のガイドラインをつくるという。
前出の考える会では、ひきこもっている人の人権が侵害される状況を変えるべく、「ひきこもり人権宣言」を出す予定だ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年8月5日号より抜粋
引用先:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190730-00000081-sasahi-life
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