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知っておきたい、大人の「発達障害」 職場に求められる理解と寛容

2019.07.28

■子供だけの問題ではない発達障害
「発達障害」という病気をご存じでしょうか。コミュニケーションをとるのが苦手だったり、絶えず動き回って落ち着きがなかったり、何かにひどくこだわったり、症状はさまざま。2005年に施行された発達障害者支援法は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」と規定しています。子供のころに発症する病気と思われるかもしれませんが、大人になってから診断されるケースもみられます。

いまや発達障害は子供だけの問題ではありません。発達障害者支援法は2016年に改正され、就労支援に関する規定で、事業主に対して「能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の発達障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない」と求めています。

大人の発達障害でよく見られるのが、注意欠陥多動性障害(ADHD、Attention Deficit Hyperactivity Disorder)とアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害に含まれる)の2つとされます。今回はADHDについてみていきます。
■ミスを繰り返す部下
あるメーカーでの事例です。営業部門の責任者がノイローゼ気味で勤怠に支障を来していると、人事部が産業医に面談を依頼しました。話を聞いてみると、配属された男性社員が毎日毎日ミスを繰り返してストレスになっているというのです。発注の数量をまちがえる、納品の期日をまちがえる――といったことを繰り返し、結果としてその上司が取引先からのクレームへの対応や事後処理などに追われているというのです。

そこで今後は部下の男性を面談することになりました。詳しく話を聞いていくと、上司が訴えていたトラブルは氷山の一角で、タイムカードの打刻を忘れてしまったり、メモがうまくとれなかったり、取り違いが多く仕事の判断が追い付かなかったり、といった悩みを打ち明けてくれました。この男性自身もミスによるストレスからうつ状態となっていました。

ADHDかどうかを判断するにはいくつかの基準があります。部下の男性の症状はまさにADHDにあたるものでした。本人に専門医を紹介するのとあわせて、会社には配置転換などの対策をとるように助言しました。

結果、男性は営業部門から製造部門へ異動となりました。周囲の理解やサポートに加え、機械の操作手順を細かく記したメモを持ち歩き、毎回ひとつひとつ確認しながら作業をこなすなどの努力も実り、ミスも目立たなくなったそうです。鬱状態だった心理状態も大きく改善されました。

■多動性・衝動性・不注意
それでは、ADHDはどのような病気なのか、詳しくみていきましよう。

ADHDの行動には(1)多動性 (2)衝動性 (3)不注意――の3つの特徴があります。

このうち「多動性」は、絶えず動き回るなど落ち着きがない症状を指します。子供のころにこうした行動特性がみられても、大人になると目立たなくなることが多いようです。

代わって大人で目に付くのが「不注意」です。ビジネスシーンでいえば、誤入力を繰り返したり、約束の期日を忘れてしまったり、といったようなミスを繰り返すことが多いようです。整理整頓や時間の管理が苦手という傾向もみられます。

「衝動性」の表れとしては、その場の空気を読まずに、ついつい思っていることをそのまま口に出してしまう、ということも含まれます。怒りをコントロールできず、ささいなことですぐに激怒してしまうという例も少なくありません。丁寧であるべきはずの顧客宛てのメールで、知り合いに送るようななれなれしい文面をうっかり記してしまったという人もいました。

こうしたADHDの症状は、本人が何かを怠った結果というわけではありません。むしろADHDの人には、非常に努力している人が多いと感じています。間違わないように気をつけようと思っても、自分をコントロールできず、うっかり忘れてミスを犯してしまうのです。

こうした症状の原因は脳内の神経伝達物質の減少にあると考えられています。

私たちの脳は無数の神経細胞(ニューロン)が接合してネットワークを形成しています。その接合部(シナプス)で情報をやり取りする役目を担っているのが、神経の末端から分泌される神経伝達物質です。この神経伝達物質(ドーパミン、ノルアドレナリン) が接合先の神経細胞を興奮させたり抑制させたりして、情報が次々と伝達されていく仕組みとなっています。ただ、何らかの原因で神経伝達物質の量が不足するなどすると、情報伝達が十分にできなくなり、不注意、多動性などの症状が表れると考えられています。

■早めに専門医の診断を
みなさんの職場で、いつもミスを繰り返したり、衝動的な振る舞いが絶えなかったりして、仕事のトラブルが続いている同僚がいたとしたら、その人はもしかしたらADHDかもしれません。業務の進捗に影響が出るかもしれませんし、たびたびミスを注意されることで、本人が自信を失いメンタル不調に陥るかもしれません。早めに、職場の責任者が産業医に相談するなり、本人に専門医による治療を促すなりすることが大切です。

ADHDと診断されたとしたなら、多動性、衝動性、不注意といった振る舞いが、本人の性格なのではなく、発達の問題による行動特性だと、周囲が理解する必要があります。本人は怠けているのではありません。脳(前頭葉)の機能不全で自らを十分にコントロールできずにいるのです。

どうしても仕事がうまくいかない場合は、その特性に応じて本人の能力を生かしながら働ける環境を整えることが望ましいでしょう。ADHDの人の多くは、集中力が求められる仕事や計画性が必要な仕事、根気が必要な単純作業は得意ではない半面、行動力や発想力に優れている傾向があります。本人と相談しながら、何ができるのか、何が得意なのか、何ができないのかを仕分けして、特性にあった仕事を決めていくのがよいでしょう。

具体的な仕事についても、1日に処理する仕事量を明確に決めてしまった方がよいでしょう。作業の内容についても、ひとつひとつ順位付けすることが望ましいでしょう。手順を細かく項目別に分けて、チェックリスト化するのもよい方法でしょう。

■能力の問題ではなく、あくまでも特性
発達障害はまさに「発達の障害」です。すべてが滞りなく完治するのは難しいとしても、改善はできます。今日では、神経伝達物質の分泌をコントロールすることで症状を抑える治療薬も登場しています。

自分自身、忘れ物や、うっかりしたミスが多かったり、整理整頓が苦手だったり、あるいは職場の仲間からそうしたことを指摘されたときは、産業医や専門医に相談してみてはいかがでしょう。

また周囲は、その症状が本人の能力の問題ではなく、あくまでも特性であるということを理解する必要があります。そのうえで、職場の責任者には、本人とともにその特性にあった仕事を探り、割り当てることが求められます。こうした取り組みこそが、障害の有無によって分け隔てられることのない社会をつくる第一歩となるのではないでしょうか。

引用先:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190728-00010006-nikkeisty-bus_all

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