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著者×担当編集者が語り合う“ひきこもりの問題”-今ひきこもりの君へおくる踏み出す勇気-
2019.08.10
「ひきこもり」と「発達障害」の関係について
●担当編集者・山崎(以下「山」と表記)──本書のテーマである「ひきこもりと発達障害の関係」についてはずっと考えられていたんですか?
■発達障害カウンセラー・吉濱ツトム(以下「吉」と表記)──考えてました。基本的には発達障害は劣位的な存在ではないということがあります。あるんですけど、適切な環境でなければ過度なストレスがかかってしまってしまう。
だから発達障害の学生は当然登校拒否とか不登校になりがちで、社会人の場合も同じことが起こる。もちろん「ひきこもり=発達障害」とは言わないですけど、かなりの確率で発達障害に起因しているんだろうなと思いますね。
●山)──「これ、ぼくもだな」「自分もひきこもりになるな」ってことがあって、もちろん本には書いてあるんですけど、せっかくなので、多くの人が悩んでいる引きこもりの出口…先生はその出口をどのように見つけたのかって言うのを改めてお聞きしたいんです。
■吉)──夢も希望もないんですが(苦笑)…追い込まれたということでしょうか。ひきこもりには色々な要因があるんですけど、まず1つは引きこもっても大丈夫な環境要因があるってことが挙げられます。でも僕の場合は家を追い出されて、貯金もなくなって引きこもるための資金もなくなったから対策をたてなければいけなくなったというのがありますね。
●山)──やるしかなかったというわけですね。
■吉)──そうです、生きるために(笑)。ひきこもりの特徴としては、適応できる環境とできない環境の差があまりにも激しいというのがあります。基本的には適応できる環境さえ見つけてしまえば回復への見込みができるんです。それと、発達障害には「これとこれとこれをやれば必ず改善できる」という世界標準のものがあって、それを上手に知ることができたことです。
つまり『追い込まれた+適切な環境を見つけらた+必要な知識を得ることができた』事だと思います。
●山)──一人でいること自体が鬱になりやすいことや、環境によって人は変わるということをこの本の中でも仰っていますよね。そういう意味では7040、8050問題の当事者、つまり40代以上の中高年のひきこもりが多い。特に40~50代の人は「就職氷河期世代」と呼ばれていて、そういった社会に環境も劣等感を高める状況にあったのかもしれませんね。
■吉)──大いにありますね。多くの人は、人の行動や言葉は内面が決めると思っていますが、それは半分以上は間違いで、言動の決定要因は内面ではなくて、実は環境的な要因が大きい。
●山)──具体的にはどういうことでしょうか?
■吉)──就職氷河期の世代でかつ若者を排斥するような終身雇用制度を例にすれば、本人に落ち度がないのに「制度=環境」として、どうしようもない。
そして落ち度がないにもかかわらず4回5回6回と続けて採用試験に失敗してしまったら誰だって心は折れますよ。それでも、しばらく経てば多少は回復するんだけど、改めて就職しようとしても終身雇用の制度で「30代後半だから無理です」と言われたら、もうひきこもるしかないんですよ。
●山)──ええ。
■吉)──引きこもりって言うのはもちろん発達障害もなんですけど、内面的な問題はさておき、単純に環境要因で引き起こされることが多いんですね。
暗闇から手を伸ばす方法とは…
●山)──既に引きこもっていて、ずっと部屋に閉じこもっている状態からの「前に出ることの難しさ」「一歩踏み出すことの難しさ」を感じます。元・引きこもりの先生はどうやって復活できたのかをお話しいただければ…と思います。
■吉)──意外かもしれませんが、まずは身体づくりから。身体づくりをしてないと鬱傾向になって、本来出るはずの気力がなくなるっていうのがあります。
●山)──確かに、少し意外ですね。
■吉)──次に適切な環境を見出すことです。例えば精神的なストレスを感じることなく、適応できる場所を明確にすること。そして、これが重要なんですが…スモールステップで行動していくということです。
いきなり週5日働くことはほぼ不可能なので、週1のバイトでいいからやってみたりということです。ひきこもりが長期化すると、場合によってパニック障害みたいな症状が出てきたりすることもあります。例えば電車に乗れなかったり。そういった人たちは、はじめは改札を通ればいい、次はホームに上がればいい。今度は1駅乗ってすぐ降りればいい…少しづつパニック障害を改善していくんです。
●山)──まさにスモールステップですね。
■吉)──引きこもりにも同じことが言えます。大半のひきこもりの人は真面目だから、今まで10年20年働けなかったのに「週5でちゃんと働かなきゃいけない」っていうビッグステップを目指すから、結果としてきつくなってしまう。
●山)──ついついビッグステップを目指してしまうのも、親の目や世間体を気にするという「環境」の問題なのでしょうか。
■吉)──「正社員じゃなきゃいけない」っていうのはまさに環境要因ですよね。
●山)──ひきこもりの人たちは、本来得ることが可能だったお金や地位などを早く取り戻したいからビッグステップを踏みたくなる、というような思考回路は発達障害とは関係あるんですか?
■吉)──それは誰もが思ってしまうことですが、引きこもりの期間に比例してサンクコストへの執着は大きくなると思います。
そして、これは「発達障害」に関係しているんですけど、未来に対して絶望感がある。未来に対して希望がない状態だと結果として執着する。金持ちになる確証がない人が1,000万すったら永遠に1,000万を取り返さなければ、と考えてしまうんですよ。
●山)──自分の未来に希望が持てないと、川崎の事件ですとか息子さんが殺されちゃった事件ですとか…絶望から「他を巻きこんでしまえ」と思ってしまうんですかね。
■吉)──被害者意識が大きくなってしまって、それが被害妄想になってしまう。そして、あらぬ敵をつくってしまう。「その敵をやっつけて自滅しよう」となっちゃう。
●山)──「破壊願望」がある種の希望になっちゃってるんですね…。先程の事件についてですが、一連の事件について、メディアの報道を見てこの本の内容に影響はありましたか?
■吉)──「引きこもり=危ない人」っていうイメージはついて欲しくないなと思いました。実際にそうじゃないですから。大半の人は普通に生活しているんです。
●山)──本書では7つの実例を掲載していますが、一番オーソドックスな「空気が読めない」とか「雑談ができない」といった人はどのように自己肯定感を持てばいいのでしょうか。
■吉)──まずは、外に軸足を持つということですよね。それによって心の支えができます。空気を読めるようになるための心理療法はあるんですけど、時間がかかってしまう。逆に、空気が読めない人って、環境が変わってフィットすれば、かえって強みを発揮できることもあります。
●山)──特に中高年の方だとビッグステップを踏みたくなってしまいがちなんですけど、今からでも改善することは可能なんですよね。
■吉)──そうですね。何年経ったとしても引きこもりを改善しなきゃいけないという前提に立っているのならば、何年経っても改善は可能です。20年ひきこもったから20年必要ってわけじゃなくて数カ月で十分な場合もあります。
「非ひきこもりの君」に知ってほしいこと
●山)──先生を訪ねてきたひきこもりの方に、最初に伝えることって言うのはどういった事ですか?
■吉)──基本は「環境を変える」ですね。
●山)──親子のパターンは多いのでしょうか?
■吉)──連れて来れないですよね。親御さんは一生懸命になっているんだけど、子供の内面をどうにかしたいと思っても行動が起こらない。
●山)──親御さんは子供に対する「罪悪感」を持っているものですか?
■吉)──そうですね。親側の問題ではないと薄々は思ってるんだけど、罪悪感ゆえにその一言が言えないでいるんですよね。結果、長期化している。あとは共依存関係。ダメな息子に尽くすことによって親が自己の存在証明をし、表面的には「困っている」と言うけれども、実は「子供が家に引きこもっている状態が最適だよね」って言う人も存在します。
●山)──この本ではそっちじゃない生きる道を探したほうがいいんですよって話を伝えたかったんです。それがスモールステップだと思ったんですね。変な言い方かもしれませんが「適正じゃなかった」。そこが不幸の源なのかなと思いましたね。
■吉)──社会的な理念や常識が後押しする形でスモールステップや適切な環境って言うのを見出せなくなってしまっている。そして親と子が見つめ合ってズブズブの状態になってしまっている。
●山)──「常識」は想像以上に我々の中に染み込んでいるものですからね…。ところで先生は、家族のような集団行動よりも、一個人で生きていく方が楽なんでしたっけ。
■吉)──そうですね。発達障害の人って「人嫌い」って言われていたんです。アスペルガーとか自閉症の人。でも、そうでもないんですよ。「人好きなんだけど、一人が好きなんですよね」って言う矛盾があって。西野カナ的なめんどくさい感じなんですけど(笑)。
アスペルガー的な視点で言うと、自分のスペースを害されること、劣等感を刺激されるのが嫌というのがありますね。
●山)──劣等感というのは?
■吉)──ここでいう劣等感は相対評価ではなく対人緊張だったりします。「あの発言で嫌われちゃったのかな?」とか気にしてしまうような繊細な人。こういう特性があるからアスペルガーやADHDの人はあまり人と接したがらない。いまは自己完結できるエンターテイメントが増えてきているので、その傾向はより加速していますよね。
●山)──本書は多くの方に読んでほしいと思うのですが、タイトルにある「君」たちって本を読んでくれると思いますか?
■吉)──あまりにもひどい状態でなければ、もしくは、ある程度苦しんだけども軽度のひきこもりの場合は、大半の人がもがいています。もがいているから情報収集は誰よりもやっている。だから本も読み漁っているんですよね。
●山)──苦しいからなんとかしたいと思っている。そうやって情報を集めて、客観的に判断して自分を相対化できる時って問題解決につながるチャンスです。そして、そこで踏み出せるかどうかなんですよね。ひきこもりって実は誰もが陥る可能性がある。きっかけさえあれば。元あった自分の気質に気づかされる。
■吉)──そうですね。
●山)──こんな人に読んで欲しいっていう読者はいますか?
■吉)──当事者や関係者の人には当然読んで欲しいのですが、当事者よりも世間一般の人に伝えたいですね。発達障害の人が発達障害について理解を深めたとしても世間一般の人が理解してくれないと、自分にとって最適な環境を構築するのが難しいんです。極端な事を云うと当事者よりも一般の人に読んでほしいですね。
●山)──今回、先生の本を編集していて、むしろ「ひきこもることは異常だよ」って言う考え方自体がおかしいと感じました。
■吉)──そうですね。それでひきこもりの人たちがこじれちゃっている所もある。
●山)──会社とか学歴とか、自分から属性を取ったときに一個人として見たら、みんな弱いからねっていうことを言っている。いつでも落ちるよと。そもそも「定型発達」っていうのがあるのかなっていうのは感じてましたね。先生はどうですか?
■吉)──基本的には定型も発達もないんですけど、ある程度の分類は「対称」ができるので必要かなと思います。そういった意味で定形と発達は分けてもいいよねってことです。
●山)──集団的にそうなりたいという願望なのかなとも思いますし、かといって発達障害がすごい異端であるかっていうとそんなことはないなっていう。「君へ贈る」という言葉に「あ、これは自分向けじゃない」と思っている人たちにこそ届けたいですね。
■吉)──ひきこもりを否定するのではなくて、活かす方向でアドバイスをしていますしね。
●山)──先生が言われたきた言葉がつながった気がしました。「引きこもりが…」って言うよりも自分はひきこもりと関係ないよって言っている人たちにも大いに関係ある問題だっていうのが、この表紙の逆光のように太陽に映し出されるってことですね。
先生の言葉でこの本の要約をすると、どのように言えるでしょうか?
■吉)──1つ目は「ひきこもり=いけないことではない」ということ。2つ目は同じく「才能の一部の表れに過ぎない」ということ。3つ目は「その才能を活かしながら、外で活動できる側面をつくろう」ということ。4つ目は「君たちの生きづらさは環境にも原因があり、才能が活かせる環境に出会っていないだけかもしれない」ということ。5つ目は「何年経っても改善できる」ということ。そして、6つ目は「ひきこもりの解決は当人や関係者だけじゃなくて、社会全体が方法と認識を共有することによって初めて成り立つ」ということです。
そのためには、関係がないと思っている人たちにも読んで欲しいですね。
●山)──同感です。今日はありがとうございました。
引用先:https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/10511?utm_source=headlines.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=relatedLink
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