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AKB襲撃事件でまるで“犯罪者予備軍”扱い!? 「大人のひきこもり」への偏見に警鐘を鳴らす

2014.05.29

またしても「引きこもり=犯罪者予備軍」という誤解を招くようなネガティブイメージが流布している。

 きっかけは、25日に起きたAKB襲撃事件だ。

<AKB襲撃容疑者も、プチ引きこもりだったらしいですね>

 26日の深夜、そんなメールが当事者から寄せられた。

 ただ、AKBにはまったく興味がなかったこともあり、そのときは、ああそうなんだ…くらいにしか思わなかった。

 27日になると、仕事の打ち合わせ中に「AKB襲撃事件に絡んで、大人のひきこもり特集をするので、電話で生出演してほしい」と、地方のテレビ局から依頼があった。

 当事者からのメールのことも頭にあって「容疑者が引きこもっていたのですか?」と放送局の担当者に聞くと、「仕事をせずに、自宅でパソコンに向かっていたようだ」という。

 しかし、襲撃事件とは切り離した特集なので、事件のことについては触れなくていい、池上さんには「大人の引きこもり」が増えている社会的背景についてお話ししてほしい、とのことだった。

 こうして仕事の合間に電話で生出演し、打ち合わせの後、容疑者についてどのように報じられているのかを改めて調べてみた。

AKB襲撃事件の容疑者の
経歴、そして生活ぶりとは

 事件は、24歳の男性が、岩手県滝沢市で行われていたアイドルグループAKB48のメンバーらの「握手会」中に、刃渡り20センチのノコギリで3人に切りつけたというものだった。

<母親によると、容疑者は三沢市内の高校へ進学した後、通信制の高校に移り、卒業後は十和田市内や大阪府内でアルバイトなどを続けていた。昨年12月、十和田市内のアルバイトを辞めた後は無職で、ひきこもりのような状態が続いた時期もあったという>(毎日新聞5月26日付朝刊)

<上司だった男性によると、青森県で土木関係の仕事をしていたが、仕事がなくなったので県外で働きたいと応募してきた。昨年春になって「体調が悪い」と退社を申し出たという。男性は「口数が少なく、同僚とも深く関わる感じではなかった。しかし、まじめで問題を起こしたことはなかった」と話した。昨年夏ごろに 実家へ戻った。母親によると、容疑者は自室でノートパソコンに向かう時間が長かったという>(朝日新聞5月26日付け夕刊)

 たしかに「ひきこもりのような状態が続いた時期もあった」と報じられているし、記事に書かれているような状況が昨年来、ずっと続いていたとすれば、引きこもり状態にあったと言えなくもない。

「引きこもり」=「危険な人たち」
そんな風評被害が広がる恐れも

 一方、ネット上では、テリー伊藤氏がテレビ番組の中で、インタビューに答えた男性について、

「さっきの彼も言ってましたけど。『ぼくらオタクだ』って言ってたでしょ」「なかなか普段街に出ないような子が、AKBの握手会があるから出ていくっていうのも、ひとつのこれ、いいことなんだよね」

 とコメントした。それに対し、

「ドルヲタ(アイドルオタク)は信じられないくらいアクティブだ」

「オタクがみんな引きこもっているわけではない」

 などとバッシングが起きていた(参考記事:http://www.j-cast.com/2014/05/26205776.html?p=1)。

 もちろん両方の要素を持つ人もいるだろうが、好きなことに没頭するため一生懸命に働くことも厭わない人たちと、社会から撤退してあきらめの境地に立たされている人たちとが、どうも混同されているようだ。

 また、こんな報道もある。

<小中学校で同級生だった男性(23)は「何を考えているのか全くわからない子だった」と語る。仕事をやめ、最近はニートの状態だといううわさを聞いていた。「陸上部で足が速かったイメージ。普段はおとなしいが、不良グループにキレてかかることもあった」>(産経新聞5月26日付け朝刊)

<県警によると、容疑者は「AKB48のメンバーなら誰でもよかった。(襲った)相手の名前は知らない」「以前からイライラしていた」とも供述している>(毎日新聞5月28日付け朝刊)

 ところが、あきらめの境地から引きこもっていく人たちの特徴は、お互いに傷つけ合いたくないし、他人には迷惑をかけたくないという思いが強い。

そうしたピュアな心性傾向のある彼らは、親や家族からのプレッシャーで追いつめられて家庭内で煮詰まることはあっても、その矛先が他人や社会に向かうという話はあまり聞いたことがない。

 まだ限られた情報しかない中で何とも言えないものの、24歳の容疑者は、筆者の知っている「引きこもり者」像とは、どうも違うようだ。

 当事者からも<AKBファンに対するネガティブイメージから「オタク」「ひきこもり」等が引き出されて、バッシングのように語られてるような気がしてます>という意見があった。

 前述の番組内容については全体の流れを見ていないので何とも言えないものの、副題が<容疑者は“社会人ひきこもり” 私の子どもの将来は大丈夫? いったい今何が…>と飛躍しているのも、少し気になる。

 副題を読むだけでは、元々の「甘え」や「怠け者」「精神力が弱い」といった偏見に加えて、ふだんは大人しく内向的で何を考えているのかまったくわからないと周囲から見られている人たちまでも「引きこもり」という範疇に入り、皆が「危険な人たち」のような風評被害も広まりかねない。

引きこもりの人たちは
怒りの矛先を他人に向けたりしない

「今回は、AKBという大人気のグループが襲撃されたことで、インパクトが大きい。引きこもりって報じられているけど、2ヵ月くらいですよ。何もうまくいかないから家にこもっていて、矛先を他に向けようとしたらしい。僕らは、何年、何十年単位で引きこもっている。せっかく最近、いろいろな取り組みで誤解が少しずつ解けていたのに、またイメージが悪くなりそうで…」

 40代の当事者は、そう声を曇らせる。

NHKが毎週火曜夜に放送しているドラマ「サイレント・プア」では、主演の深田恭子演じる社会福祉協議会のCSW(コミュニティソーシャルワーカー)が、引きこもり者などの社会的弱者に向き合い、一緒に伴走していくシーンが話題を呼んでいる。

 私たちも1年くらい前から「フューチャーセッション」や「ひきこもり大学」など、当事者と一緒に考えたアイデアを実現していくような前向きな取り組みを通じて、「引きこもり」という課題に対する世間のイメージの誤解が払拭されつつある矢先だった。

 そもそも、家にこもっていたのが2ヵ月くらいだとしたら、仕事を失えば、誰でもそうなるだろう。

 前出の当事者は言う。

「AKBの被害者の子たちが“ごめんなさい”と謝る姿を見ていると、余計に容疑者が悪魔のように見える。でも、引きこもりの人は、怒りの矛先が他人に向くわけないんですよね。人目が怖くて、目立つことを嫌うのに…。むしろ、CD買うと、握手会の券が入っていて、複数買うとそれだけ握手の時間が長くなるというやり方は、軽い風俗みたいじゃないですか。そういう商売に利用されているAKBの子たちは、かわいそうですね」

 今回の襲撃事件の容疑者は、今後の捜査や取材等で新たな事実が出てくる可能性はあるものの、背景などから推測する限り、やはり「引きこもり」とは直接、関係なさそうである。

 第200回にあまりふさわしくないテーマになってしまったが、「当事者たちは“犯罪者予備軍”」と決めつけることに警鐘を鳴らしておこうと思った。

記事詳細 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/53761

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