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地方にも都会レベルの居場所をつくろうよ! 東京のひきこもり大学に全国から90人が参加

2014.05.04

ゴールデンウイーク真只中の5月4日夜、都内で初めて公開で行われた「ひきこもり大学in東京キャンパス」には、90人の参加者が全国から集まった。

 講師やスタッフを含めると、100人を超える大型イベントとなり、その半数以上は「当事者」(本人申告)が占めた。

 また、そのうちの半数は、当日参加という、いつもながらの人数の読めない主催者泣かせの会となった。

引きこもり当事者が先生に
学部学科も様々な「ひきこもり大学」

 ひきこもり大学というのは元々、当事者から生まれたアイデアの1つ。2ヵ月に1度開かれている『ひきこもりフューチャーセッション「庵-IORI-」』のアイデア会議の打ち合わせで、とらさんという30歳代男性の発案したアイデアが、周囲のサポートを受けて具現化したものだ。

 発案者のとらさんによれば、ひきこもり大学とは基本的に、当事者が先生になり、家族や支援者、一般の人たちが生徒になって、引きこもり経験や知恵を学ぶ場。生徒が勉強になると思ったら、先生にそのまま渡す寄付金箱に投げ銭を入れてもらう。

 引きこもっている人たちは外に出たいと思っても、一般の人が想像する以上に公共交通費が高く、家から出てくるだけでも金銭的な負担が大きい。そこで、せめて「交通費くらいの費用は参加者に負担してもらえるといいな…」という当事者ならではの思いが、発想の根源にある。

 また、「引きこもり」といっても、広く状態像を示すもので、それぞれの当事者が抱える生きづらさの状況は様々だ。そこで、先生を務める人が、自由に話したい趣旨に基づいて学科名をネーミングできるのも大きな特徴だろう。

 これまで東京では、講師を務めたい当事者が名乗りを上げたら、非公開で小さく安心できる場の中で散発的に開いてきた。

 ただ、地方でもひきこもり大学を開いてほしいという声が多いことから、今回は、地域に数多く埋もれる当事者や家族に、こうした試みの存在を知ってもらおうと、実験的にデモンストレーションとして行うことになった。

 運営は、希望者を募って「ひきこもり大学事務局」をつくったものの、彼らの多くは当事者や社会人らのボランティアスタッフだ。この日は、庵セッションでお手伝いしてくれている学生団体One’sLifeの有志も協力してくれた。

トラウマから引きこもりに…
アダルトチルドレン学科の授業

 1限目は、20歳代女性のソロルさん(仮名)によるメンタルヘルス学部「アダルトチルドレン」学科。

 引きこもり経験のあるソロルさんは、かなり緊張した面持ちで登壇。自分自身がアダルトチルドレンだったことを明かした。ただ、親も同じアダルトチルドレンで苦しみ、理解もあったことから、「親を責める気になれず、お互いにしんどいと言い合えたことが良かった」と話した。

 生きづらさを抱え、引きこもる当事者たちの中には、トラウマを抱えている人が多い。しかし、大人になるにつれ、多くのトラウマは見えなくなり、語られなくなる。元々の原因は、時間とともに複雑化して、因果関係もわからなくなる。

「本当に小さなことでも、引っかかってしまうことがあるんです。親にとっては気づかないような些細なことでも、子どもにとっては、大人になっても、心のしこりになってしまう」

 しかし、忘れていたように思えたものでも、答えのない思いを話しているようなとき、ふと出てくるのが、子どもの頃に受けたいじめ、体罰、虐待、信頼していた人からの裏切りなどだ。

「人間って、いじめとか虐待とかがあると、心の中に封印して、引き出しを開けられなくしてしまう生き物なんです。時間が経っても、両親にはきちんと向き合って欲しいんですけど、憶えていなかったり、憶えていても否定されてしまったりする人もいると思う。アダルトチルドレンって、綱の上に立って歩いているように、ものすごく脆い生き方をしている」

 ソロルさんは、アダルトチルドレンな自分を嘆くより、アダルトサバイバーとして「前へ進んで闘って欲しい」と訴える。そして、授業後のグループ対話では「生きることについて真剣に考えるテーブルをつくりたい」と呼びかけた。

失業学部中高年学科の授業で知る
40代・50代“失業系引きこもり”のリアル

 2限目は、“失業系引きこもり”である50歳代の雇用太郎さん、40歳代の次郎さん(いずれも仮名)コンビの「雇用ブラザーズ」による失業学部中高年学科。

 2人は、仕事を失ってから、なかなか再就職できずにいた。しかし、引きこもっていても仕方ないと、1年前、自分たちで事業を創り出す「中高年人材センター」を立ち上げた。

 元大手銀行員の次郎さんは、こう実態を説明する。

「失業すると、家の中にいることが多くなってしまう。会社のリストラもあるが、メンタルを患い、精神疾患と診断されて会社を辞めざるを得なくなるケースが多い。表に出てこない“失業系引きこもり”はたくさんいます。平日の昼間、いい歳した男が外を歩いていると、不審者扱いされる。失業系引きこもりのいる場がないんです」

 よく「ハローワークへ行け」と言われるものの、「カラ求人」ばかりで仕事がない。人材登録会社に登録しても「あなたに紹介できる仕事はありません」と言われる。200社、300社と受けるものの、ことごとく落ち続けているうちに、働く意欲や生きる意味さえも失って、社会とのつながりを閉ざしてしまう。

「中高年のフルタイムの仕事はなかなか増えない。雇用のミスマッチは、より一層進むのではないか」

 そう雇用次郎さんは、問題提起する。

地方引きこもりの生きづらさを説く
「地方にも都会レベルの居場所を創ろうよ学科」

 3限目は、30歳代のひーくんさん(仮名)による発達障害学部「地方にも都会レベルの居場所を創ろうよ」学科。

 ひーくんさんは大学中退後、和歌山県の実家で11年間引きこもり、昼夜逆転の部屋から出られない状況で、一家心中の一歩手前まで煮詰まったこともあるという。

「精神科に行くと、強迫性神経障害とかうつ病とか言われて、薬を飲んでも一向によくならない。地方では、引きこもらざるを得ない地域のシステムの上で孤立するようになっています。どこへ助けを求めても、たらい回しでした」

 しかし、発達障害と診断され、都会に出てきてシェアハウスで生活を始めたことをきっかけに、気持ちが前向きに変わった。

「引きこもって、家族でどうしたらいいか?と泥沼にはまる状況の中、人生あきらめている人が多いと思います。でも、上京して、自分と同じような状況の人たちと出会い、安心感のようなものができました。人目が怖いという症状は、生きてる限り続きます。地元を出て、都会で1人暮らししたり、シェアハウスに入ったりして生活していくしかないんですが、なかなか受け皿はありません。急に働こうとするのではなく、自分のペースで進んでいったほうがいい。慌てると空回って、実家に帰るという繰り返しになります」

 11年ぶりに動き始めたばかりという、ひーくんさんは、「目に見えない障害者などの社会的弱者のためのシェアハウスのような居場所を都会だけでなく、全国各地につくっていくのが僕の夢です。仲間を集めて、組織化したい」と、壮大な夢を語った。

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 3つの授業の後、「生きる意味を真剣に考えたい」「雇用問題」「発達障害」「地方にも都会レベルの居場所を創ろうよ」「学部学科アイデア会議」「家族・兄弟姉妹」「当事者だけのグループ」「休憩用」のテーブルに分かれ、「休憩用」以外のテーマでは、それぞれ対話の時間をもった。

 参加者からは「地方の厳しい状況を変えてほしい」「少人数の会をもっとたくさん開いてほしい」「機会があれば、講師をさせて頂きたい」といった感想が寄せられ、概ね好評だった。

 今後、当事者発の「ひきこもり大学」がどのように進化していくのかはわからないが、東京では当面、これまでのように非公開で少人数の会を続けていくことになりそうだ。

記事URL
http://diamond.jp/articles/-/52610

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