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「自傷するとスッキリする」と話す高2女子 無理にやめさせてはいけない理由
武井明「思春期外来の窓から」
意図的に自分の体に傷をつける「自傷」は、思春期の女子に見られることの多い衝動行為の一つです。大人は、彼女たちを頭ごなしに叱りつけ、自傷をやめさせようとしますが、それでは、自傷がますますエスカレートするばかりです。
地元では成績優秀な優等生
明日香さん(仮名)は、自傷のために思春期外来を受診した女子高生です。農村部の小規模な小中学校で過ごし、地元では成績優秀な優等生でした。 高校は、実家から離れた進学校に入学し、寮生活を開始しました。2年生の5月から自傷を繰り返すようになり、学校では保健室で休むことが多くなりました。自傷に気づいた保健室の先生がお母さんに連絡を入れ、思春期外来を受診することになりました。 初診時の明日香さんの左手首には、多数の自傷による傷痕が認められました。主治医が自傷に至った経過について質問をしても、うつむいたままで何も答えてくれませんでした。 2週間に1度の割合で、実家からお母さんにも来てもらい、一緒に通院してもらうことにしました。
「つらい気持ちが楽になる」
初診から2週間後の診察では、明日香さんは、自分の携帯電話を主治医に差し出し、そこに書かれたメモを見せてくれました。その内容は以下の通りです。 「死のうとしてするのではないが、死にたいなあと思う。自分で傷をつけると、それまでのつらくて苦しい気持ちが楽になり、スッキリする。そのスッキリを求めて、また手首を切りたくなる」 というものでした。 お母さんは、何とか自傷をやめさせようとして、部屋にあったカッターやカミソリを取り上げ、自傷したことを叱りつけていました。 お母さんとの面接で、主治医は、明日香さんが自分の苦しい状況を言葉でうまく説明できないこと、そして、自傷を通して、周りの人たちにそのつらさを伝えようとしていることを説明しました。 お母さんは、明日香さんを寮に置いておくのが心配だということで、しばらく実家で様子を見ることにしました。
携帯のメモに「私は価値のない人間」
通院を始めて3か月が経(た)ちました。実家に戻ってから、明日香さんの自傷はほとんど見られなくなりました。診察室では、自分の気持ちを語ってくれるようになりました。 「高校は、私よりも勉強のできる人たちばかりです。中学校までは勉強ができることが自慢でしたが、今ではその自信もなくなってしまいました。私は価値のない人間で、生きていてもしょうがない」 と話しながら泣き出しました。 お母さんは、 「これまで、親に心配をかけたことのない子でした。高校に入学し、順調に生活しているとばかり思っていました。私には、学校のことを一切話さない子で、突然、自傷するようになってとても驚きました。私たち夫婦は、明日香にとても期待していたのだと思います。明日香はそれに応えようと必死だったのだと思います。家に戻ってからは、夫も私も、明日香に十分休養してもらうつもりでいます」 と話してくれました。 通院を始めて6か月が経つと、明日香さんの自傷は見られなくなり、家族と笑顔で会話することが多くなりました。その後、明日香さんは通信制高校に転学しました。現在はカウンセラーを目指して、心理学系の大学で勉強しています。
自殺から自分を守る手段
明日香さんの自傷は、苦しい気持ちをうまく表現できずに抱え込んでしまい、誰かに助けを求めることもできなかった状況から生じたものです。 そんな状況の子どもは、自傷をすることによって、苦しさやつらさから解放され、安心感を得ることがあります。一時的にですが、自分の抱えている葛藤から逃避することができるわけです。また、自傷は「自殺から自分を守る手段」という意味合いもあります。ですから、なかなかやめられないのです。 一番大事なのは、自傷をやめることではなく、「自分の手に負えない問題を抱えたら、誰かに相談するのも正しい選択肢なんだ」と、彼女たちにわかってもらうことです。相談することは、恥ずかしいことでも、自分が負けたことでもないのです。 初めのうちは、彼女たちの自傷を無理やりやめさせないほうがよいでしょう。自傷をストレスへの対処方法としてとらえ、自傷以外の方法を、相談相手と一緒になって見つけ出す作業を繰り返すことで、彼女たちは、自傷から少しずつ離れることができるでしょう。
引用先:「自傷するとスッキリする」と話す高2女子 無理にやめさせてはいけない理由(読売新聞(ヨミドクター)) – Yahoo!ニュース