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中高年で「推計61万人いる」多くの人が知らない”ひきこもり”の実態
  • 精神科医の井上智介さんのところには、時々「子どもがひきこもりになり困っている」という親からの相談がある。井上さんは「多くの人は、『ひきこもり』に対して誤解をしている」という――。


    ■親だけで精神科を受診


     「子どもがひきこもりなのだが、どう対応すればよいのかわからない」

    「子どものひきこもりをやめさせるには、どうしたらいいのか」


     精神科の外来では、こういった子どものひきこもりについて、親がアドバイスを求めて受診されることがあります。どこに相談すればよいのかわからず「とりあえず病院に」と来られる方も少なくありません。


     この「ひきこもり」について、世間の人が抱くイメージは、実態とずれていることが多いと感じます。よくある誤解は、大きく4つあります。


     (1)ひきこもりは若者が多い


     内閣府の定義によると、ひきこもりとは、「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である」とあります。つまり、「学校に行かず、仕事もせず、家庭外の交流を原則的に6カ月以上回避し、おおむね家の中に閉じこもっている人」ということです。


     内閣府はこれまでに何度かひきこもりの調査をしています。年により調査対象の年齢層は異なりますが、例えば2015年の15~39歳を対象とした調査では、ひきこもりの数は推計54万1000人でした。一方、2018年に40~64歳を対象に調べたところ、全国に61万3000人いると推計されました。「ひきこもり=若者」というイメージがありますが、必ずしもそうではないことがわかります。2018年の内閣府の調査では、「『ひきこもり』は、どの年齢層にも、どんな立場の者にもみられるものであり、どの年齢層からでも、実に多様なきっかけでなりうるものであることが分かる」と指摘しています。


     (2)ひきこもりは不登校から始まる


     「ひきこもり=若者」というイメージのせいか、「学校に行けなくなり、そのまま仕事もできずに社会と接点が持てなくなる」という印象も強いようです。しかし2015年の内閣府の調査によると、実際は、15~39歳のひきこもりの人のうち、きっかけが小中高の不登校だった人は18.4%にすぎませんでした。つまり8割以上は、社会人を経験してからひきこもりになったことがわかります。2018年の調査では、40~64歳の中高年のひきこもりのきっかけで一番多かったのは、「退職」で、36%にのぼっていました。


    ■「家から一歩も出ない」わけではない


     (3)家の中でずっと過ごしている


     ひきこもりの人は、ずっと家の中におり、いつも自室にいるというイメージがありますが、これも間違いです。2018年の調査では、15~39歳のひきこもりの人のうち「自室からほとんど出ない、または自室から出るが家から出ない」という人は10.2%でした。約9割の人はコンビニに買い物に行ったり、趣味に関する用事があれば外出したりしています。


     (4)病気のためにひきこもっている


     「病気のせいでひきこもっている」と考えている人も多いですが、「ひきこもり=病人」ではありません。もちろん何か疾患があって、家から出られずひきこもりになっている人はいます。また、確定の診断が出ていないだけで、実は統合失調症などの精神疾患があったり、発達障害があって他人とコミュニケーションがうまくいかないという可能性もありますが、すべてではありません。


     はっきりしたデータはないため、私の肌感覚になってしまいますが、ひきこもりで病院に相談にくる人で医療介入が必要だったり、病気の可能性がある人というのは半分以下という印象です。


     子どものひきこもりのことで私のところに相談にくる親も、「何か病気のせいでひきこもっているのではないか」と思っている人が非常に多いです。しかし、実際は病気であることのほうが少ないです。


     ただ、親だけが相談に来たところで、解決できることはほぼありません。というのも、精神科に限らず病院というのは、直接本人から心身の状態を聞く必要があり、そうでないと診察ができないので、何もしようがないのです。


    ■「働く気持ちがあるか」がポイント


     ただ、どこに相談したらいいかわからず、困って病院に来られるわけなので、ほかにどんな相談窓口があるかをご紹介することはあります。


     まず確認するのは「本人に少しでも働く気持ちがあるかどうか」です。外で働くことに不安があったとしても、少しでもそうした気持ちがあるのであれば、「就労支援」につなぎます。一方、働く気持ちがないようであれば、「ひきこもり支援」に案内します。


     就労支援の窓口には、ハローワーク(公共職業安定所)、地域若者サポートステーション(通称「サポステ」)、ジョブカフェ(若年者のためのワンストップサービスセンター)などがあります。


     ハローワークは厚生労働省の機関で、職業紹介などを行っています。ただ、ひきこもりなどで就労に困難を抱える人の支援に特化しているわけではないので、サポステやジョブカフェと組み合わせて活用する方がよい場合が多いでしょう。


     サポステも厚生労働省の事業で、NPOや企業が運営に関わっています。対象者は15~49歳で、働くことに悩みを抱えている人に対し、キャリアコンサルタントや臨床心理士などの専門スタッフなどがついて、セミナーや職業訓練などのサポートプログラムを作って就労支援を行います。仕事のあっせんや紹介は行っていないので、ハローワークなども活用しながら就職活動をする必要があります。


     ジョブカフェは都道府県が設置しているもので、機能はサポステと似ており、ハローワークを併設しているところもあります。各都道府県に1カ所程度しかないことが多いですが、保護者向けのセミナーを実施している場合もあります。


    ■早いタイミングで第三者の支援を


     本人に働く気がない場合の窓口としては、「ひきこもり地域支援センター」と「生活困窮者自立支援制度」があります。


     ひきこもり地域支援センターは、すべての都道府県、指定都市に設置されていますので、まずそこに相談にいくのがよいと思います。本人以外の家族でも相談を受けつけてくれます。担当者がヒアリングし、福祉事務所や市区町村の相談窓口、自立相談支援事業実施機関などのサポート先につないでくれます。


     ただ実際は、本人が行動を起こさないとなかなか解決には向かわないため、親の方は、勉強会や親子会などに参加して当事者の親同士の横のつながりをつくり、情報交換を行うといった活動がメインになっています。


     生活困窮者自立支援制度は、経済的に困窮している人や世帯に対し、自立に向けた支援を行う取り組みです。就労支援のほか、経済面での相談にものってもらえます。


     ひきこもりは、人間関係のつまづきがきっかけとなっていることが多く、早めの対処が重要ですが、親や家族も、どこに相談したらいいのかわからないままに長期化してしまうケースが多いようです。重要なのは、当事者やその家族だけで解決しようとしないことです。早いタイミングで第三者に入ってもらうことを考えてほしいです。


    ———-

    井上 智介(いのうえ・ともすけ)

    産業医・精神科医

    島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。


    引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/d8a28541a0ac8a78fdd0dd65b737ab42fe221313


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