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「引きこもり」の6割が40歳以上という 山梨県調査の衝撃
2015.11.05
県内の「ひきこもり」該当者のうち、40歳以上の占める割合は6割を超えるという衝撃的なデータが、山梨県の調査で明らかになった。
このところ、山形県や島根県でも、40代以上が半数を超えるという同様の調査結果が相次いで発表されており、引きこもり状態にある人たちの高年齢化の傾向は、ますます進んでいることが改めて裏付けられた格好だ。
「40歳以上」「5年以上」が6割超
高年齢化、長期化が浮き彫りに
引きこもりの高年齢化、長期化がますます加速している
山梨県の調査は、今年7月、県内に担当地区を持つ民生委員や児童委員2337人に対してアンケートをとる方法で行われ、8割近い1851人から回答を得た。
調査を行った県障害福祉課の心の健康担当によると、10月9日に「山梨県ひきこもり相談窓口」が開設されたことや、4月から生活困窮自立支援法の施行を受けて、市町村でも「ひきこもり施策」を具体的に進める中で、身近な地域で継続的な支援ができるようなネットワークを構築することになったという。そこで、県内に支援を必要としている人がどのくらいいるのか、どのような人たちがどのような背景で引きこもっているのかを把握するため、調査を行った。
今回の該当者である「ひきこもり等の状態にある者」の定義は、概ね15歳以上で、<社会的参加(仕事・学校・家庭以外の人との交流など)ができない状態が6ヵ月以上続いていて、自宅にひきこもっている状態の者><社会的参加ができない状態が6ヵ月以上続いているが、時々買い物などで外出することがある者><ただし、重度の障害、疾病、高齢等で外出できない者を除く>としている。
調査結果によると、該当者の総数は825人で、人口当たりの割合は0.11%。アンケート全数の回答があったものとして推計すると、1042人(0.14%)に上るとしている。
この割合は、最近実態調査を行った東京都町田市の約5.5%、秋田県藤里町の約1割などと比べても非常に低い。県の担当者も「アンケートに答えたのが本人ではなく民生委員等であったことから、実態の把握に限界があった」ことを認める。
ただ、これまでエビデンスが何もなかったことを考えると、当事者から隠されるなどしてすべてを把握できているわけではない民生委員等を通した調査であったにしても、状況の一端を示す参考値的な根拠ができたといっていい。
中でも、年代別にみると、40歳代が最も多い27.5%。40歳以上の「中高年層」は60.4%と、実に6割を超えた。
15歳から39歳までの「若者層」は、全体の39.6%だった。
山梨県が行った調査結果。高年齢化は止まらない
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「ひきこもり等の状態にある期間」については、「10年以上」に及ぶ割合が最も多くて、39.3%。「5年以上」にいたっては、60.2%を占めるなど、ここでも長期化の傾向が浮き彫りになった。
同調査結果より。10年以上引きこもっている人が最も多く、4割を占めることが分かった
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「他県の調査でも中高年が多かった。これまでも、個別には相談に応じてきたのですが、一元的に対応できる窓口がなかった。支援を求めたくても、どこに相談したらいいのかわからなかったことが、場合によっては長期化につながり、中高年が多くなった背景にあるのかもしれません」(担当者)
支援を受けているのは5人に1人以下
相談窓口開設に効果はあるか
一方、「ひきこもり等に至った経緯」(複数回答)を聞くと、「わからない」が最も多く、全体の26.3%。「本人の疾病・性格など」(21.6%)が続き、「就職したが失業した」「就職できなかった」という職場環境や雇用の問題も、合わせて21.1%に上った。不登校からの延長も、10.7%を占めた。
また、支援の状況についての調査では、「支援を受けている」が、わずか18.7%に過ぎないこともわかり、本人や家族が外の社会的資源とつながる機会やきっかけがなかなか持てずにいる課題も浮かび上がった。
さらに、民生委員等の自由意見によれば、<家族の高齢化により、本人の生活環境が悪化している><地域ぐるみの対策ができていない。社会参加できる対策が必要><身近に居場所があればいいと思う>といった指摘もある。
高齢化する親の年金だけでは生活を支えきれなくなってきている現実や、地域で本人や家族が安心して声を出せるような周囲の理解や仕組みづくりが、ますます求められていることに気づく必要がある。
県によると、相談窓口の相談員は2人。いまは、アウトリーチまでできる体制ではなく、電話での相談に特化しているという。市町村の担当者とのネットワークも構築された。
「相談は、1日平均で6件ほど。ほとんどがご家族からのものです」(担当者)
県内に住む40歳代の引きこもり経験者は、
「40歳以上が6割と聞いても、全国的な傾向だと思うので、あまり驚かない。民生委員が把握しているのは、外から見ても当事者がいるとわかる人に限定されているのではないか」
と、調査結果に対する感想を語った上で、こう注文する。
「県に相談窓口はできたけど、相談員がどこにつなげるのかなどの課題はいろいろある。ネットワークが形だけのものにならないよう、しっかり当事者たちのニーズも組み込んで構築してほしい」
県が調査を行って相談窓口を開設したのは、一歩前進だといえる。少しずつでも前に進めれば、動き出すものもある。
しかし、今後は、声を上げられずにいた本人や家族の思いを丁寧に受け止め、各地で個別に活動してきた理解ある人たちとつながる、あるいはつなげるためのコーディネーターの育成や場づくりなどの工夫も必要だろう。そして、このような現実に即した新しい時代の仕組みを当事者たちと一緒に構築していくことが求められている。
記事URL
http://diamond.jp/articles/-/81093
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