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「彼のためにと腹をくくって、パパ活を始めた」1000万円以上貢ぎ、大学中退…“メン地下”にハマる女性の心理とは
今年1月31日、メンズ地下アイドル(以下、メン地下)の男性2人が、それぞれ女子高生にわいせつな行為をしたとして東京都青少年健全育成条例違反容疑で逮捕されたと発表された。
ここで問題となったのは未成年が性被害にあった件だけでなく、容疑者が被害者の未成年に約50万、300万円ずつもの大金を貢がせていたことだ。実際、メン地下のライブは未成年の出入りが禁止されているわけではなく、少女たちがグッズ購入などの「推し活」を通じて多額の金銭を払わされるケースは少なくない。
いったいなぜ彼女たちは、メジャーデビューしているわけでもないメンズ地下アイドルたちの虜になっていくのか。その心理に迫った。(清談社=田中慧)
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収入は月30万、その3分の2を“メン地下”に貢ぐトー横キッズ
はじめに話を聞いたのは、昨年8月からメン地下に貢ぐようになったという杏さん(仮名・17歳)。彼女は「推し活」に励む一方で、新宿・歌舞伎町を生活の拠点とする“トー横キッズ”でもある。
「広場の友達にメン地下の無料イベントに誘われて、試しに行ったら一瞬でハマりました。推しは地雷系メイクをしたショタっぽい子なんですけど、顔面がタイプのドンピシャだったので。
私は幼少期から生粋のジャニオタなので、新宿や渋谷の小さなハコだとしても、目の前で理想的な子がキラキラ歌っているのを観るのが楽しいんです。たまに、チェキ会でアクリル板越しにキスまがいなことまでしてくれたり。こんなに間近で話せるのは、私にとって“会えるジャニーズ”みたいな感覚なんですよね」
たいていのメン地下のライブのあとには、アイドルとファンが2人で写真を撮ることができる「チェキ会」が開催される。杏さんが推しているグループだとチェキ券は1枚1500円。それを何十枚と買い、数分ほどの「推しとの時間」を味わうという。
「私の場合は推しと一緒にチェキに映ることよりも、その時間をつかってコミュニケーションをとることが目的なんです。チェキを30枚は買って、少しでも一緒にいれるようにって。ライブ代4000円にドリンク代やチェキ代を合わせて1日4万円くらい。これを月4ペースで続けてます」
財源は“パパ活”
杏さんもそうだが、メン地下に大金を貢ぐ少女たちの多くが財源にしているのが「パパ活」だ。杏さんの場合、月平均30万円ほど稼ぎ、その3分の2をメン地下に、残りをホテル代などの自分の生活費に充てている現状だという。
「援交は、歌舞伎町のホテルを転々としている私にとっては、生活のために必要なことなので。ただ、メンタルが不安定なときでも体を売らないといけないから、頑張った自分へのご褒美的な感覚でメン地下に行っています。
もちろん『推しと一緒にご飯デートに行きたい』とかの願望はなくはないです。でも、もともと住む世界が違う人なんだから、そこまで望むべきじゃないなとも思えるんです」
「推しとの恋愛は望まない」という割り切ったスタイルの杏さんだが、ほかのファンたちの不毛なやりとりを目の当たりにしてきたことも影響しているという。推しが被っているファン同士が、「あんたのほうが推し歴短いんだから、しゃしゃんな!」などとTwitterで言い争っているケースも多く、杏さんはそうした争いには巻き込まれたくない、と気持ちを自制するようになったそうだ。
「そもそも私が推しているのは、メン地下のなかではわりと大手に所属するグループの人。事務所側の管理がきつくて、ファンに手を出したら彼が大きなペナルティを受けちゃうから、やらしいことに誘われるなんてありえない。LINE交換も絶対にできないし、Twitterも事務所にチェックされていて、ファンからのDMにもスタンプでしか返事ができないくらいです。
けどたまに、チェキ会で推しから『この間インスタに載せてた写真、めっちゃ可愛かった!』なんていわれると、わざわざ私なんかの投稿を見るために時間を割いてくれてたんだ、と本当に嬉しくなる。それだけで、また毎日頑張ろうと思えるんです」
1000万円以上貢ぎ、大学を休学…「それでもまだ上がいる」
一昨年8月にあるメン地下に惚れ込んだという瑠奈さん(仮名・21歳)は、現在に至るまでに累計1000万円をつぎこんできたという。
「大学進学で東京に出てきたころ、渋谷でビラ配りをしていた推しに出会いました。話し込んでいると、彼は私よりも1コ下でまだデビュー前でしたが、メン地下を目指しているくせに実は自分の顔にコンプレックスがあるとかの弱みを見せてくれて。
私自身も自己肯定感が低いタイプなのですごく共感できたし、『もしデビューしたら、たまに顔を見に来てくれたら嬉しい』って控えめなお誘いだったから、素直に応援したいと思えたんです」
その後、無事にデビューを果たすも、踊りや歌のレッスンを受けたことがなかった彼は、最初はステージ上でもドギマギしている様子が目立ったという。瑠奈さんはもはや母親目線で「今日はミスなく踊りきれるかな……」と心配したり、チェキの時間に一緒にダンスの練習をしてあげた時期もあったそうだ。
「当時は大学に通いつつ、貯金とカフェのアルバイトで稼いだお金で、毎週末にライブに行くくらいだったんです。私の推しは運営事務所が小規模だったからライブは1回1000円ほどで、チェキに数千円かけたとしても無理なく通えていたんです」
だが、3カ月もすると彼の人気はじわじわと上昇。ファンが増えるにつれ、瑠奈さんの思いはヒートアップしていった。
「1枚1000円のチェキ券では1分しか話せないけど、大金をはたいて何十枚も買い占めれば、それだけほかの同担(同じメンバーを推しているファンのこと)のチェキタイムは短くなり、最終的には金を多く費やした人がメンバーを独占できる仕組み。それで私は最低でも月に50万は貢ぐようになり、最大3時間半くらい、彼を独り占めしたこともあります」
誕生月に使った金額は200万円…競争を加熱させる仕組み
ほかにも、ファンの貢ぎ競争を過熱させる仕組みがあるという。ライブに参加したり、チェキ券を1000円分買うごとに1Pずつスタンプカードに加算されていき、一定数まで貯まると特典がつくというものだ。
運営事務所によって特典内容に差はあるが、瑠奈さんが通っているメン地下だと、300P(30万円)で「推しからの手紙」、1000P(100万円)で「リムジン」、1500P(150万円)で「ディズニー」といったデート特典があり、さらに大金をはたいて推しとの旅行を叶えたファンもいるという。
「とくに、1年のなかでお金をかけるのはバースデーのとき。一昨年はアルバイト生活であまりお金がなかったけど、彼がぼそっと『毎日顔がみたいな』って言ってくれたんです。営業かもとは思ったけど、いつも頑張っている彼のために、誕生月くらいは毎日ライブにいってあげようと決めて、大学も1カ月間休学しました。
ただ、やっぱりお金が足りないから、彼のためにと腹をくくって、初めてパパ活で大人の交渉もはじめて、その年のバースデー月に使った金額は100万円までいきました。
それでも、もっと上のファンっているんですよね……。体まで売ったのに追いつけない悔しさもあるし、推しへの想いもさらに強まってって、1年後の誕生月には200万円以上使ってました」
大学は中退…「推しが引退したら、パパ活から足を洗う」
瑠奈さんはその後も推し活やパパ活をやめられなくなり、現在は大学を中退。ただ、推しのためにそこまで尽くし、デビュー当初からの古参ファンとして信用されているにも関わらず、相手に“恋愛感情”を抱くことは避けている。
「もちろん、彼が恋人になってくれたら、と考えなくはない。でも、LINEを交換したり、一線を越えることで、彼との関係が悪くなるほうが怖いです。それより、彼がいまのアイドル活動をまっとうにやりきってくれたら、ファンとしては本望ですね。女性の地下アイドルとの交際がバレて引退するメン地下は多いので(笑)、そういうファン心を傷つけることだけはしないでほしいな。
そもそも私は中高時代に地元でいじめを受けていて、思い描くような学生生活を送れなかった。東京に出てうわべの友達はできたけど、まだ人付き合いは怖い。そんななかで、アイドルだけど私に優しくしてくれて、弱さを見せ合えて、いまはその子を全力で応援できている。ある意味、青春を取り戻しているような感覚なのかもしれません」
瑠奈さんは現在、パパ活で稼いだお金で推しに貢ぎながら、地元の親への月10万以上の仕送りを続けている。ただし、いまの“推し”中心の生活の終着点も見据え始めているそうだ。
「メン地下って、メジャーデビューを目指して必死に頑張っている人もいれば、2、3年の小遣い稼ぎの手段として活動している人もいるんです。おそらく、私の推しは後者なので、きっとあと1年もせずに引退しちゃうんじゃないかな。
そしたら私も、推し活からもパパ活からもいっさい足を洗って、アルバイトから人生やり直したいって思ってます。もしそうなっても、推しには『人生に彩りをくれてありがとう』っていう気持ちしかないですね」
体を売ってまで誰かを「推す」行為が、今後世間に認められていく可能性はほぼない。メン地下をめぐる新たな性被害や、大金を貢ぐ未成年への防止策は早急に求められるはずだ。だが、いっときの幸福だとしても、メン地下の存在に救われる人がいることもひとつの事実のようだ。
引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/0c6c975333af978a873cca67d5c2d467410a2a51