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引きこもりの子が高齢化 老境の親、一歩踏み出す

2015.12.22

引きこもりの子と親がともに高齢化することで、悩みが深まっている。年金生活になったら息子をどう養おうか、自分が死んだら子どもは社会で一人生活していけるのか。体力、気力はなかなか戻ってこない。だからこそ、1日でも早い一歩を踏み出すことが必要だ。

資産洗い出し「サバイバルプラン」作成

 「年金だけでは家計のやりくりは厳しく、将来も不安」。引きこもりの息子(53)と、夫と3人暮らしのAさんは81歳だ。2年半前に脳梗塞を患ってリハビリを経験し、夫も心臓に持病を抱える。毎週の通院で医療費がかさみ、経済面での不安は強い。

息子は活躍を夢見た俳優の仕事をやめ、30代で家に戻ってから引きこもるようになった。もともと人に会うのは好きで、この20年、時々誰かに会いには行く。その度にお金を渡し、2年前には金の管理を任せようと50万円を2度渡したが、2度とも1カ月でほぼ使いきった。

 今は貯金もほぼ無く、精神障害と認められた息子を含め3人の年金、月20万円あまりで暮らす。Aさんは「せめて私と夫の葬式代の貯金だけは残したいけれど」と悩む。

 親の死後に引きこもりの子が社会とつながれるかと悩む人も多い。「息子は医者にかかる時ぐらいしか外出しない。私が死んだらご近所と付き合い暮らせるか。他人と信頼関係を築けるのか。不安で仕方ない」。30年近く引きこもる50代の息子の母親、Bさん(79)は話す。

 引きこもる期間が長びくにつれ、息子の発言がおかしくなった。「外から井戸端会議の声が聞こえてくると、誰かに悪口を言われているのではないかと被害妄想が出てきた」。荒れた時にはドアや壁を壊した。この暴力には一人で耐えた。2年前に息子は精神障害と診断された。

 息子の話をよく聞くように心がけてからは穏やかに話し合えるようになったが、生活費などお金の話をすると嫌がる。ちょっと恨みがましいことを言うと、「子どもへの接し方が直ってない」と声を荒らげる。

 引きこもり期間が17年続く次男(33)と同居する母親Cさん(63)は「お母さんたちがいなくなったらどうするの、という一言が怖くて言えない」と、ため息をつく。3年間心療内科に通わせたが、医師にも心を開かず終始うなだれていた。部屋に引きこもる時間が長くなり、うまく対話できない時期が続いた。

最近は外出する頻度が増えつつある。Cさんは息子がいつかは仕事を持つことを望むが、「また心を閉ざして会話を拒むようになってしまうのが怖い」。

 引きこもり家族の全国組織、NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」(東京・豊島)の2015年度の実態調査によれば、引きこもり本人の年齢は平均33.2歳。家族は平均63.6歳で、この9年で約3.5歳上昇した。双方の高齢化が解決を阻む要因にもなっている。

引きこもり家庭からの相談を20年以上受けてきたファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、親の資産を元に親亡き後でも子どもが一生食べていく長期的な生活設計「サバイバルプラン」をつくることを提案する。

 不動産、預金など資産を洗い出し、子どもに使える額を決める。さらに保護者自身の介護が必要になった時の予算や、自身が老後住み替えるなら、かかる予算を算出する。引きこもりになった子どものきょうだいがいるなら、将来の相続で不公平感が出るため、きっちり説明して根回ししておくことが大切だ。

 畠中さんは「資金配分だけでなく、料理を作れない子には自炊の仕方を教える。公共料金や光熱費の名義を早めに変更しておき、金融機関や自治体の窓口での手続きの経験を積ませる。一人で暮らす準備をプランに盛り込むことが必要」と説く。

 現状、公的機関が就労支援するのは原則として39歳まで。だから引きこもりの子の年齢として40歳が、サバイバルプラン設定の目安だ。畠中さんは子どもが85から90歳までぐらいまで生きていても食べていけるように想定することをすすめる。

 「老い先が長くないからこそ、親自身がいち早く家庭の外へ一歩踏み出すべきだ」。全国webカウンセリング協議会(東京・港)の安川雅史理事長はそう語る。例えば同じ境遇の親が集まる会には、ヒントが多い。

■親同士交流、悩みや経験を共有

 NPO法人「育て上げネット」(東京都立川市)は「母親の会・結」で引きこもり家族の個別カウンセリングや、親たちが集まる相談会を毎月開く。自らの悩みを他の親にも聞かせながら、相談員を交えて話し合う。親同士で悩みや経験を共有し、励まし合うことで「現状を変える勇気が生まれるようだ」と相談員は話す。

 他人と話せなかった38歳の男性は母親と一緒に参加しはじめた。相談を重ねるうちに高齢者とならば話せると気付き、「介護の資格をとって正社員として社会復帰する第一歩になった」(同ネット)という。

 カウンセリング協の安川理事長は「10年以上引きこもると本人も仕事を持つ再始動の難しさを実感し、焦りや諦めを感じてしまう」と指摘する。「人の役に立つこと、他人から認められることのうれしさを教えるために、ボランティアから社会へ参加させてみるのも一案」と語る。

引用先 記事詳細URL
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO95377810R21C15A2NZBP00

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