関連ニュース・事件
「炊き出しに行けば?」妻からのDV被害で失職した45歳男性の絶望
コロナ禍が猛威を振るった2020年4~12月の間、窓口に寄せられたドメスティックバイオレンス(家庭内暴力、DV)の相談件数が過去最多になった。その中には、あまり知られていないが、妻による暴力に苦しむ夫のDV被害も含まれている。今回は、妻によるDV被害で職も趣味も失った45歳の男性が絶望した理不尽さをお伝えする。(ジャーナリスト 池上正樹) ● コロナ禍の中で DV相談件数は過去最多に 新型コロナウイルスの感染拡大の副次的な影響により、体調を崩す人たちが増えている。家庭の中では緊張感が高まり、ストレスになることも多い。 そんな中で、内閣府によると2020年4月から12月までの間、電話やメールで相談を受ける「DV相談プラス」に寄せられたドメスティックバイオレンス(家庭内暴力、DV)の相談件数は過去最多になったことが明らかになった。前年度より2万8000件余り多い14万7277件に上ったという。 DVといえば、夫による妻への暴力というイメージが強いだろう。しかし、DV被害の中には、妻からの暴力に遭って「仕事も趣味も辞めざるを得なかった」と訴える夫の被害が含まれているという実態については、あまり知られていない。 妻からの暴力が原因で、仕事も趣味も辞めざるを得なかったAさん(45歳)は、そんなDV被害者の1人であり、男性向けの支援がない現実に驚愕している。
Aさんが妻となる女性と最初に出会ったのは、2017年のこと。当時、Aさんが働いていた職場に彼女は新人として入ってきた。 「職場に来たときの彼女の印象は、自分に自信がないような感じで、ほとんど話さない人でした」 彼女はすぐに職場を辞めたが、その後再会した時には「自信のなさや人目を気にするところは最初に会った頃と変わらなかったが、とても思いやりのある優しい人」のように、Aさんには見えたという。 「外見は、優しくおとなしそうに見えるのですが、実はいきなり人が変わったように荒れまくるんです。結婚はもちろん、僕が本当に好きになった初めての相手だったのですが、好きになった相手を罵倒したり暴力を振るったりする面があることは、まったく知りませんでした」 ● 妻によるDV被害の前には いじめ被害やひきこもり生活を経験 妻によるDVの被害に苦しむAさんは、元々大人しい性格だった。小学校に入学した頃から同級生によるいじめを受けるようになり、心を病んだ。当時、Aさんの通う学校では暴力が支配していた。 時々忘れ物をすることがあり、小学校3年生になると、そのたびに担任教諭から引っぱたかれるようになったという。それ以来、忘れ物をすることが怖くなり、家を出て学校に向かうまでに確認作業を何度も行うようになった。 それでも、当時は「登校拒否」や「不登校」という言葉を知らず、Aさんは学校には行かなければいけないと思っていた。 中学に入ると、暴力によるいじめはますます壮絶になったが、「学校には行くものだ」と言われ、親に悲しい思いをさせたくない一心で無理して学校に通い続けた。 Aさんは、中学校3年生のときから祖母の住む実家に帰ったまま、ひきこもり状態の生活に入る。 結局、中学には不登校のまま形だけ卒業し、受験勉強を経て高校に入学できたものの、5月には再び、ひきこもった。 Aさんは、学校での「いじめや暴力が原因で心を病んだ」として、親に連れられて精神科を受診。すぐに治癒できると思っていたのに、そのまま4年間の入院生活を送ることになった。
こうして退院できたときには、19歳になっていた。 しかし、その後もAさんは、入退院を繰り返し、体調は一進一退を繰り返した。この間、自己肯定感の低い状態がずっと続いた。 21歳の頃からフリースクールに通い、24歳のときに卒業した。 このように、不登校とひきこもり経験を持つAさんは、いろいろと苦労を重ねながら、職場で働けるようになった。 そして前述したように、職場の後輩だった妻と知り合い、19年初めごろから交際。すぐに同棲生活を始めて、その年の夏に入籍した。 ● ニコニコしていると思ったら 「気持ちわりぃんだよ」と豹変 Aさんが最初に妻の異変に気付いたのは、同棲を始めてからだ。 「友人と食事に行ったとき、相手に気を遣ってあまり妻(当時は恋人)とは話さなかったんです。その帰り道に『何で私と話さなかったんだ』って、何時間も罵られました」 以来、妻は突然人が変わったようになり、暴力を振るいだしたという。 「兆候はなく、心当たりもありません。ニコニコしていると思ったら、急に『不安になった』『聞いてもいい?』などと言い出すので、『どうしたの?』って質問に答えていると、いきなり『気持ちわりぃんだよ』などと豹変するんです。デートに行ったときには、駅からの帰りに前から通行人が来たので、『ちょっと横にどこうか』と言ってすれ違った後、ワーッと罵倒されたこともありました」 家の中では、妻が包丁を壁に向かって投げたこともあったし、牛乳パックほどの小さなスピーカーで頭をたたかれたり、素手で殴られたり蹴っ飛ばされたりしてケガしたこともあったという。 しかし、暴力に遭って警察を呼ぶと、妻は外面が良くなる。人前に出ると、逆に自分の方が被害者であるかのように装うという。
というのも、身長を比較すると、妻の方がAさんより20センチ低い。しかも、Aさんは趣味で格闘技のキックボクシングを習っていたことから、余計に体格が違って見える。 「もちろん、暴力で返せば簡単に終わらせることはできる。でも、格闘技をしている以上、妻の暴力にひたすら耐え続けました」 Aさんは、妻の嫉妬や束縛が激しかったことから、落ち着かせるために職場を辞めざるを得なくなった。趣味で続けていたダンスも、妻から「行くな」と言われて辞めた。 DVによる通報を何度か繰り返した後に、警察は妻を実家に連れて帰り、2人を別居させた。Aさんは離婚したいと希望しているものの、妻は拒んでいる。離婚調停の結果、実家と自宅を1週間に半分ずつ行き来することを条件に婚姻関係が続くことになった。しかし、妻はすでに9カ月間、実家に帰ったままだ。 ● 「炊き出しに行ったらどうか」の言葉に絶句 DV被害の支援対象が女性だけの現状に絶望 女性から暴力を受けたとき、どうすればいいのか。Aさんは、内閣府の「DV相談プラス」などの公的な相談窓口に助けを求めた。しかし、絶望したという。 「DV被害の自助グループがあるのは女性だけで、男性は参加できません。職がない人向けの資格を取ることができる支援も女性向けで、男性にはない。そもそもDV相談窓口の担当者は女性のため、資格のことを聞いても『ハローワークに行ってください』とか、『暴力を返しちゃいけない』という一般的な話ばかり。あげくに『男性はどこに行けばいいのか?』と聞いたら『(生活困窮者向けの)炊き出しとかに行かれたらどうですか』と言われ、驚愕しました」 Aさんが「DV被害の相談なのにおかしくないですか?」と疑問を投げかけても、その女性相談員には通じなかったという。 「東京都のウィメンズプラザには、週2回、男性のための悩み相談所があるんです。そこは相談員が男性なので話を聞いてくれるのですが、具体的な支援はない。仕事も趣味も辞めざるを得なくなり、離婚できないまま別居が続く中で、自助の集まりもなく、ずっと孤立させられている。学生時代の心の病による入院で学歴もなく、無職になって何も残っていない。このつらい気持ちを誰にも分かってもらえないのです」 こうして眠れない日々が続き、医師に診てもらったところ、「自律神経失調症」及び「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断された。 Aさんは、家庭内で「女性から暴力を振るわれた際に男性が対応すべきガイドライン」や、「男性DV被害者の支援策をつくってほしい」と訴えている。
引用先:「炊き出しに行けば?」妻からのDV被害で失職した45歳男性の絶望(ダイヤモンド・オンライン) – Yahoo!ニュース