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実は激増「夫婦喧嘩が児童虐待になる」衝撃事実 7年で8倍!脳にダメージ与える「面前DV」
児童虐待が増えている。警察庁が2月4日に公表した2020年の犯罪情勢統計によると、虐待の疑いで警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数は、10万6960人(暫定値)だった。前年が9万8222人だったから、8738人(8.9%)の増加で、統計を取りはじめて以来、初めて10万人を超えて過去最多となっている。
ともすると、増加の原因をすぐに新型コロナウイルスに結びつけて考えがちだが、まずそれはないはずだ。警察庁でも現時点で「不明」としている。なぜなら、この増加傾向は毎年続いているからだ。
■統計開始から15年あまりで10万人を超えた 警察庁が統計を取りはじめた2004年には、わずか962人だったものが、毎年増え続け、2011年には1万人を突破。そこから2年後の2013年には2万人を、さらに2年後の2015年には3万人を超え、ついに翌2016年には5万4227人を数えた。そのわずか4年後の昨年には10万人を超えてほぼ倍になった。急激に児童虐待が増えていることを表す。 さらに深刻なのが、この警察庁からの通告を含めた「児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移」だ。
厚生労働省が毎年公表しているその数値をみると、1990年には1101件であったものが、1999年には1万件、2010年に5万件を超え、2015年には10万3286件を数えると、2019年には速報値で19万3780件と急増している。おそらく、2020年の統計では20万件を超えてくるはずだ。 相談対応件数が増える事情について、厚生労働省はやはり警察などからの通告の増加と、「心理的虐待」の相談対応件数の増加を指摘している。しかも、その中でも「面前DV」がことさらに多いことを強調する。「面前DV」とは、夫婦(あるいは養育者)間の暴力(DV)を子どもに見せることだ。ここには夫婦間の暴言も含まれる。
■虐待には4つの定義がある 一言で「虐待」と言っても、いまではその内容は多岐にわたる。日本では児童虐待防止法第2条で、虐待を①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト、④心理的虐待の大きく4つに定義している。 ①「身体的虐待」は文字通り、身体への暴行で、殴る、蹴る、物を投げつける、物で叩く、火傷を負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などで拘束する、等々。死に至るケースもあれば、激しく揺さぶることや「体罰」も身体的虐待にあたる。
②「性的虐待」は、性行為の強要、性器を触るまたは触らせる、身体を触る、ポルノ画像の被写体にする、など。ここには、子どもに性行為を見せることも含まれる。 ③「ネグレクト(怠慢・拒否)」は「育児放棄」とも訳され、食事を適切に与えない、おむつやトイレでの世話をしないで放っておく、長時間、家や車内に置き去りにする、などの他に、ひどく不潔にする、重い病気になっても病院に連れて行かないことも、育児放棄とみなされる。
そして増えているとされる④「心理的虐待」は、暴言を浴びせることや、言葉で脅すこと、無視したり、著しく拒絶的な対応をとったりすることだ。そのほかにも、兄弟姉妹で著しく差別的に扱うことも心理的な虐待とされ、直接的な脅しでなくても、親の暴力を子どもに見せることや夫婦間の暴言を聞かせること(面前DV)も含まれる。 冒頭の警察庁による10万人を超えた2020年の児童虐待の通告のうち、心理的虐待は7万8355人で最も多く、全体の7割以上を占めている。前年の2019年が7万721人だったから、7634人(10.8%)の増加だ。
■心理虐待の6割が面前DV 2019年の面前DVは4万2569人で、心理虐待の60.2%を占めている。通告児童数全体でも43.3%にあたる。警察庁ではあえて法律の定める4つの分類のほかに、「面前DV」という項目を設けて2012年から統計を取っている。その当時は5431人だったから、わずか7年で約8倍に膨れ上がっていることになる。 児童虐待は、子どもの正常なこころ(精神)の発達を妨げる。そればかりでなく、虐待が脳の発達にも影響を与えることがわかってきた。
小児神経科医で福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授が、その研究の第一人者として知られ、過去にはNHKでも特集番組が放送されている。 そこでは、虐待というイメージからさらに広げた「マルトリートメント」(maltreatment/mal=悪い treatment=扱い)という概念を用いている。親(養育者)からの「不適切な養育」あるいは「避けたい子育て」ということになる。それは、知らず知らずのうちに、思わぬことが不適切となることもある。
■マルトリートメントが子どもの脳を変形させる 例えば「心理的・精神的マルトリートメント」について言えば、「バカだ」「クズだ」と蔑むことや、差別したり、脅したり、罵倒を繰り返すことなどで、こころに外傷を与え、侵害する行為にあたる。言葉によるものが多く、「お前なんか生まれてこなければよかった」「なにをやらせてもダメだ」などの発言や面前DVも含まれる。 さらに言えば、体罰も精神的マルトリートメント、もしくは心理的虐待となる。人前での体罰は“自分はダメな人間なんだ”と「屈辱」「恥辱」を与えるからだ。
こうしたマルトリートメントや虐待が子どもの脳を変形させることが、MRI画像の調査研究から報告されている。 公表されている結果を大まかに言えば、体罰(身体的マルトリートメント)を受けた場合、前頭葉が変形している傾向がある。これらの部位が損なわれると、うつ病の傾向が高まり、気分障害、非行を繰り返す素行障害につながる。身体的マルトリートメントが最も影響するのが6~8歳頃とされる。 性的マルトリートメントは、視覚野に影響を与える。後頭葉に位置する視覚野の容積が減少し、とくに、11歳頃までに経験した子が際立つ。見たくない情景の詳細を見ないで済むように脳が適応したと考えられている。
面前DVでも、視覚野が萎縮する。小児期に両親のDVを長時間目撃してくると、視覚野が平均6.1%減少していたとされる。 暴言を体験すると、聴覚野が逆に増大していることもわかった。この場合、「両親からの暴言」のほうが、「1人の親からの暴言」よりも影響が大きく、母親と父親では、母親からの暴言に強く反応しているという。暴言の程度が深刻、頻繁であると脳への影響も大きく、両親のDVも身体的よりも言葉の暴力に接したほうが脳のダメージは大きいとされる。
ハーバード大学での調査によると、幼いころに夫婦喧嘩を見て育ったグループはIQと記憶力の平均点が低い傾向にあったとされる。 こうした事情を、どれだけ多くの日本人が知っているかは別として、児童虐待の相談対応件数の増加は、それだけ社会の関心や認識が変化してきていることの証しであることは、まず間違いない。 ■凶悪事件が減って虐待を認知しやすくなった? そこに加えて、実はもうひとつ裏の社会的事情がある。昨今、いわゆる凶悪事件が減っていることだ。関西のある新聞記者がいう。
「10年前には、大阪府警内に常時10件以上の“帳場”(捜査本部)が立っていたのに、いまは半分もない。それだけ人が余るので、いまは児童虐待に回している」 いわゆる暴力団の表立った抗争事件も減り、経済事犯が多くなった。特別捜査本部の設置も減る。それと入れ替わるように、幼い子どもが命を奪われる事件の報道が全国的にも目立つようになった印象だ。 ただ、それだけ発覚する認知件数が増えたということであって、潜在的には以前から虐待は多かったと見ることもできる。
児童虐待への社会全体の認識や視線が変わりつつあることは、むしろ歓迎すべきことではあるが、いつか増え続けるこの数値を減少へと転じさせなければならない。そのことをもう一度、確かめておく必要がある。
引用先:実は激増「夫婦喧嘩が児童虐待になる」衝撃事実 7年で8倍!脳にダメージ与える「面前DV」(東洋経済オンライン) – Yahoo!ニュース