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【大人の発達障害】ASD、ADHD、LDの特徴を専門医が解説!〈チェックリスト付き〉前編
一般にも知られるようになってきた「発達障害」ですが、症状の表れ方は人それぞれ。もし自分や家族が発達障害であった場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。大人の発達障害の患者を数多く診断・治療してきた、専門医の宮尾益知先生にうかがいました(構成=田中有 イラスト=石川ともこ)
◆原因は生まれつきの脳機能のアンバランス 一見「普通」の大人が、会社や家庭でさまざまなトラブルに直面し、生きづらさを抱えて困っている──。その原因が発達障害にあるかもしれないということが、少しずつ知られてきました。私は小児精神神経科医として20年近く臨床の現場で過ごし、これまでに発達障害の子どもを1万人ほど診察しています。また、大人になってから「自分は発達障害ではないか」という疑いを持ち、悩んでいる方の診断も行ってきました。 発達障害とは、生まれつき脳機能の発達に遅れやかたよりがあり、かつ育った環境の問題などが重なって、社会生活をうまく送れない状態のことです。近年は大学に入ってから、あるいは就職してから生活につまずく例が注目されています。それまでは学校や家庭にある程度適応できていたのに、地方から上京してひとり暮らしを始めたり、会社で働き始めたりすると行き詰まってしまうことがあるのです。そうして睡眠障害やうつを患ったり、引きこもりになったりして医療機関を受診するというケースは少なくありません。 発達障害は大きく分けて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つです。人それぞれ症状にはバラツキがあり、また重複して表れることもあります。
ASD (自閉症スペクトラム障害)◆社会的なやりとりが苦手 ASDは、以前の診断名である「アスペルガー症候群」や「広汎性発達障害」などをまとまった一連の症状として捉えたものです。最も大きな特性は、社会的なやりとりが苦手なこと。ASDの人は根本的に人への興味・関心が薄いので、他人の気持ちや立場をイメージするのがとても難しい。日本の「そこは察して」という文化の中では苦労します。 次に、相手の表情や声音から心情を推し量ることや、あいまいな表現や指示語の意味をくみとることが苦手という、コミュニケーションの障害があります。「適当にやっといて」と言われても困ってしまったり、「目がまわりそう」というような比喩を真に受けたりします。 3つ目の特性は、強いこだわり。好きなことには文字通り寝食を忘れて没頭し、道順や着るものなどのマイルールにこだわります。突然の予定変更などでそれが崩れると、パニックやかんしゃくを起こすことも。 また、音や光、味、感触などの感覚の過敏や、その反対の過鈍も見られます。手先がひどく不器用な人もいますし、初めてのことは苦手なので、スポーツ、特に集団競技や球技が不得意なこともあります。
ADHD (注意欠如・多動性障害)◆ひとつのことに注意を向け続けられない 不注意、多動性、衝動性という3つの特性があります。 ひとつのことに注意を向け続けることができないため、多動、衝動的になるのです。注意力が弱くて周囲の状況を読み取れない、聞きもらしや忘れ物が多いといった困りごとを抱えます。さらに、時間の管理や、見通しを立てることが苦手なので遅刻が多い。その場でものごとを単純に覚える短期記憶(ワーキングメモリー)の弱さを抱えています。 ADHDの人に多いのは、ほかの人が最後まで話すのを待てなくて話に割り込んでしまうこと。子どもの場合、先生が問題を出すとすぐさま大声で答えたり、話のオチを言ったり。これでは周囲とうまくやれません。大人になっても周囲から責を受けがちで、成功体験がなかなか持てないケースが多く見られます。 LD (学習障害)◆読字障害、書字障害、算数障害なども 知能全般は正常なのですが、読み書き、計算などの能力のうち特定のものだけがうまくできない状態を指します。 文字を目にしてから意味を頭で理解するのに時間がかかる読字障害、文字が書けなかったり、漢字のへんとつくりを逆に書いたりする書字障害、計算や暗算ができない算数障害などがあります。 小学校に入って勉強が始まってからわかることが多いのですが、大人になっても困難は続きます。たとえば買い物中に値引き額をさっと計算する、メモを取る、長い文章を書くなどが苦手です。 LDはASD、ADHDの特徴を併せ持つ場合がよくあり、表れ方は人によって違います。
◆疑いがある場合は生育歴と特性のチェックから 発達障害を疑って医療機関を受診された18歳以上の方には、初診時に、症状が小学校に上がる前からあったかどうかなどの生育歴を確認します。親御さんに同行していただき、子どもの頃の様子を聞くことも重要。もしくは、通信簿の担任の先生のコメント欄などを参考にします。 次に、ASDやADHDのチェック項目に回答していただきます。さらに、知的能力や認知能力をはかる成人用の心理検査や、発達障害以外の症状がある場合などは脳波やCTの検査も同時に行い、現在の症状について問診をしたうえで診断します。 ASDチェックリスト 下記の項目に当てはまるものがあり、日常生活でトラブルが生じている場合は、 専門医に相談してみるとよいでしょう
●こだわり行動
□ 物の収集癖がある
□ 好きなことだけに集中してしまう
□ 気になることを何度もしつこくくり返す
□ 順番や道順にこだわる
□ 予定が変わったり、行動を妨げられたりするとパニックを起こす
□ 過去のことにとらわれ、その通りでないと行動できない
●感覚過敏・過鈍
□ 突然の大きな物音が苦手
□ 痛みに鈍感
□ 話し声を雑音に感じる
□ 音、光、においなどがとても気になる
●社会的なやりとりの障害
□ 他人と目を合わせられない
□ 名前を呼ばれても反応しない
□ ひとりでいてもさみしがったりしない
□ 相手に合わせて行動することができない
□ 状況を読み取って行動することができない
□ 自己主張が強く、一方的な行動が目立つ
□ 自分がわかっていることは相手に説明しない
●コミュニケーションの障害
□ 表情から気持ちをくみとれない
□ たとえ話を理解するのが難しい
□ 難しい言葉や漢字・英語の表現を好んで使う
□ 言外の意味は理解しにくい
□ 代名詞を理解することが難しい
※宮尾益知監修『この先どうすればいいの? 18歳からの発達障害』より改編
ADHDチェックリスト 下記の質問に対し、(A)まったくない(B)めったにない(C)時々(D)頻繁(E)非常に頻繁、のうち、最も近いものを選びます。C~Eが多く、生活に困難を感じている場合は医療機関の受診を考えてみましょう
【1】物事を行うにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか
【2】計画性を要する作業を行う際に、作業を順序だてるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか
【3】約束や、しなければならない用事を忘れたことが、どのくらいの頻度でありますか
【4】じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが、どのくらいの頻度でありますか
【5】長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが、どのくらいの頻度でありますか
【6】まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが、どのくらいの頻度でありますか
【7】つまらない、あるいは難しい仕事をする際に、不注意な間違いをすることが、どのくらいの頻度でありますか
【8】つまらない、あるいは単調な作業をする際に、注意を集中し続けることが困難なことが、どのくらいの頻度でありますか
【9】直接話しかけられているにもかかわらず、話に注意を払うことが困難なことが、どのくらいの頻度でありますか
【10】家や職場に物を置き忘れたり、物をどこに置いたかわからなくなって探すのに苦労したことが、どのくらいの頻度でありますか
【11】外からの刺激や雑音で気が散ってしまうことが、どのくらいの頻度でありますか
【12】会議などの着席していなければならない状況で、席を離れてしまうことが、どのくらいの頻度でありますか
【13】落ち着かない、あるいはソワソワした感じが、どのくらいの頻度でありますか
【14】時間に余裕があっても、一息ついたり、ゆったりとくつろぐことが困難なことが、どのくらいの頻度でありますか
【15】社交的な場面でしゃべりすぎてしまうことが、どのくらいの頻度でありますか
【16】会話を交わしている相手が話し終える前に会話をさえぎってしまったことが、どのくらいの頻度でありますか
【17】順番待ちしなければならない場合に、順番を待つことが困難なことが、どのくらいの頻度でありますか
【18】忙しくしている人の邪魔をしてしまうことが、どのくらいの頻度でありますか
※成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)より
◆一番困っていることへの対処法を考えていく 治療の目標は、あくまでも大きな問題なく社会生活を送れるようにすることです。ASDやADHDの特性そのものを「なくす」ことはできません。特性とその表れ方、そして置かれている環境はひとりひとり異なります。一番困っていることは何か、どんな生活を希望するかなどを聞いたうえで、対処法や環境の調整などを考えていくのです。 ASDの場合はグループでのSST(ソーシャルスキル・トレーニング)、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法を行います。また、発達障害に合併して発症しやすいうつや不安障害などの二次障害が見られる時は、気分を安定させる薬などを処方します。ADHDの場合は、症状そのものを抑える薬があり、不注意や多動性、衝動性、すぐにカッとなるといった問題行動が、薬で軽くなるケースも。 私のクリニックではサプリメントも利用します。神経伝達物質であるドーパミンを増やし、神経伝達のネットワークを強化する狙いがあります。整腸作用のある乳酸菌を摂取したところ、こだわりが薄れるなどの効果が見られた人もいました。 発達障害を持つ人が、二次障害をきっかけに病院を受診することは多いのですが、精神科や心療内科では発達障害の知識を持つ医師が限られているため、発達障害の発見につながらないことも。もし発達障害の疑いがあるなら、根本的な治療を受けるためにインターネットなどで病院を探す際は、「大人の発達障害」で検索してください。 今や、発達障害が子どもだけのものでないことは周知されています。社会に出て何年も苦しんで、やっと発達障害だと気づく人も珍しくない。「もうこの歳だから」「今さら」と諦めず、医師や支援者とともに打開策を考えましょう。
引用先:【大人の発達障害】ASD、ADHD、LDの特徴を専門医が解説!〈チェックリスト付き〉前編(婦人公論.jp) – Yahoo!ニュース