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「親といたら死ぬ!」 「毒親」の実家を出て自立するためにどんな制度がある?
  • 新型コロナの影響の長期化と物価高騰により、生活困窮が拡大し続けている。今月1日の厚労省の発表によると、昨年11月の生活保護申請件数が前年同月を上回り、前年の水準を上回るのは7ヶ月連続となっている。


     なかでも、とりわけ若者の貧困が深刻化しているように思われる。最近相次いでいる強盗事件では、困窮する若者がSNSを通じてリクルートされ、実行犯となっていると言われている。


     筆者が代表を務めるNPO法人POSSEの生活相談窓口にも、10代〜30代の若者からの相談が、今年度(2022年4月〜)は昨年度の約3倍のペースで寄せられている。相談の主だった内容は、経済的な自立ができないため実家に依存せざるを得ず、家族との関係が悪化していたり、虐待を受けているといったものだ。親との同居がかえって若者の自立を阻んでいることが見て取れるのだ。


     この記事では、若者からの相談の典型的な一事例を紹介した上で、具体的な対処法を解説したい。


    「あなたは奴隷だからね」

     関東地方在住のAさん(10代女性)は、小3の頃から親からの暴力を受けて育った。当時、母親が離婚とともに再婚し、継父がAさんと母親に身体的暴力を振るっていた。Aさんが暴力を振るわれていても、同居する母親、姉、祖母の誰もが見て見ぬふりをし、助けなかった。小6の時に再び離婚し、暴力はそれで収まるかと思ったが、今度は母親が精神的虐待を行うようになった。「死ね」「消えろ」と毎日言われ、ある時には、「姉は操り人形だけど、あなたは奴隷だからね」と言われたこともある。


     幼い時には虐待だという認識もなく、親の「教育」だと思っていた。しかし、高校生になって抑うつ状態になり、その原因を調べていくうちに親の影響だと考えるようになった。その時にちょうど虐待サバイバーのYouTuberの動画を見て、自分の経験は虐待だったのだと自覚した。


     それからすぐに家を出たいと思うようになったが、何とか高校は卒業しなければならないと思い、耐えた。学校でもいじめられた経験があり、家にも学校にも居場所がなかったので、個別指導塾の自習室が居場所だった。いのちの電話や児童相談所にも相談したが、「もう高校生なんだし、自分でやりなよ」などと言われ、頼ることはできなかったという。


    介護職場で雑用ばかり、「できないやつ」のレッテル

     高校卒業後の就職内定を得ていたが、それを蹴って卒業とともに実家から逃げた。しかし、捜索願を出されるなどして1週間ほどで実家に連れ戻されてしまった。それから、母親と同じ介護の職場で働くことになった。


     母親の勧めで障害者雇用の枠で入ったが、介護はさせてもらえず、ベッドメイキングや清掃など雑用ばかりやらされ、嫌になって辞めたくなった。また、母親の影響で同僚の風当たりも厳しかった。そして、数ヶ月で別の介護職場に一般雇用で転職した。


     そこでは最初周りは歓迎ムードだったが、1ヶ月経つと仕事を覚えきれていないことを非難されるようになり、「できないやつ」のレッテルを貼られているようだった。話しかけても無視され、指示を待っていると「動け」と言われ、動くと「邪魔」だと言われるので、どうしたらいいのかわからなくなった。ここもすぐに辞めた。


     二つ目の職場を辞めてからは実家に引きこもり、ネットで仕事を探していたが、なかなかいい求人が見つからなかった。それに母親が痺れを切らして、「もっと探せ、介護ならいっぱいある」と圧力をかけてきたため、「介護はもうやりたくない」と言い返すと、「金を稼げるんだからいいじゃないか」と反論され、大喧嘩になった。


     結局、もともと「虐待」を行っていた家族と同居をしていることで精神的な苦しみが続き、経済的な自立にも支障をきたしていたのである。この頃から「親と離れないと死ぬ」と感じ、再び実家から逃げた。今度は捜索願不受理届を出し、本当に親から離れることができた。


    ネットゲーム仲間から生活保護につながる

     実家から逃げる時には、ネットゲームで知り合った友人の助言があった。ゲーム参加者のグループ通話で、Aさんが一度実家を逃げようとして失敗したことをぼそっと言ったのを友人が「拾ってくれ」て、そこから相談するようになった。グループ通話は週3くらいでやっていて、たまに直接会ったりもした。学校ではしないような家族の話をそこではできた。グループ通話だと親からの暴言・暴力の音など他の人の家族の内情も入ってくるのだという。


     もともと、実家を出た時に所持金は7万円程度で、ネットカフェ暮らしが難しくなったら友人の家に居候させてもらおうと思っていた。そこで友人が生活保護の利用を勧め、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEを見つけてくれた。


     スタッフの助言を受けたAさんは、実家から離れた他県の役所に行って、生活保護を申請した。その際、行政からは劣悪な環境であることも少なくない無料低額宿泊所(後述)への入所を求められたが、POSSEのスタッフのサポートもあり、ネットカフェからの申請で認められた。そこから約1ヶ月で自分のアパートを借りることができた。


    若者の貧困の背景

     NPO法人POSSEに寄せられる相談では、Aさんのような事例は珍しくないく、いわば「典型例」である。


     相談事例からは、①安定した仕事に就くことができず、②その結果、親から自立することが困難であり、実家に留まらざるを得ない。③しかし、虐待など親との関係が悪く、実家に留まり続けることができず、ホームレス状態になる。④オンライン上や学校の友人などの勧めで生活保護を利用する。


     かつて日本社会では、若者は学校から仕事への移行をスムーズに行うことができた。若者の正規雇用率は極めて高く、年功賃金と終身雇用が保障されることで、結婚して家族を形成し、マイホームを取得するという標準的なライフコースを送っていた。しかし、現在ではこれが成り立たなくなっている。


     ビッグイシュー基金(2014)の調査によると、首都圏と関西圏に住む20歳〜39歳の未婚の年収200万円未満の若者の場合、親同居の割合は77.4%に及ぶ。親同居の理由として最も多いのは、「住居費を自分で負担できない」が53.7%である。


     自力で家賃を負担している場合には、負担率が手取り月収の30%以上の者が57.4%、50%以上の者が30.1%と極めて負担が重い。かつては賃金の低い若年社員に対し、社宅が提供さることが一般的だったが、近年は経費の節減から正社員でも社宅が提供されることは少なくなっている。


     また、低賃金で不安定な非正規雇用が労働者全体の約4割まで増加していることや、「ブラック企業」が広がり、過重労働やパワハラにより若者が短期間で使い潰されることもある。このように、今日の若者が親から「自立」することは極めて難しくなっている。


     しかし、親との同居がかえって若者の「引きこもり」や家庭内暴力、逆に親からの精神的虐待を引き起こすといった問題を生じさせることはつとに指摘されている。後述するように、生活保護制度を利用して生活を「分離」することで、精神的・経済的に若者が自立しやすくなることが報告されているのだ。


     一方で、実家から着の身着のままで街へ出た若者が犯罪に巻き込まれたり、自らが「闇バイト」をする羽目になっていくという事態も生じてくる。若者が実家から独立し、経済的な自立を模索するためのサポートは、今の日本社会の喫緊の課題といってよい。


     さらに、相談事例からは、行政や学校といったサポート機関が十分に機能しておらず、ネットゲーム仲間といった身近な存在から、「オンラインの口コミ」で支援につながるようになってきていることもわかる。これも、最近の顕著な傾向である。


    実家から脱出し、「自立」して生活する方法

     では、Aさんのように、実家から出て一人で生活したい場合、どうしたらよいのだろうか。具体的な方法としては、生活保護制度を利用することが現実的である。


     生活保護は憲法が規定する生存権を保障する制度であり、収入や資産などの要件を満たせば利用することができる。例えば、都内単身者であれば、毎月の家賃や生活費が約13万円支給され、医療費は無料となる。


     しかも、生活保護はアパートや持ち家での生活を原則とする「居宅保護の原則」を掲げており、新たにアパートを借りる際の敷金・礼金などの初期費用が一定の限度内で支給されるのである。さらに、新生活を送るための家具・家電や布団を購入する費用も合わせて支給される。つまり、一人暮らしをするための費用を全面的にサポートしてくれる制度なのだ。


     とはいえ、生活保護を申請して、即座にアパートの初期費用などが支給されることは稀である。自治体によっても差はあるが、申請後1ヶ月程度は見ておいた方がよいだろう。では、アパートに移るまではどのように待機したらよいか。


    ①実家にいたままでは申請できない


     そもそも、実家にいる状態で申請はできない。生活保護は個人ではなく「世帯」に対して適用するものだからである(実家にいる状態だと、親も含めた世帯での申請とみなされる)。一人で受けたい場合には、何らかの方法で実家を出なければならない。


    ②窓口では無料低額宿泊所を勧められる


     仮に、着のみ着のままで実家を飛び出し、窓口に行ったとしよう。この場合には一人世帯として申請が受けつけられる。そうすると、同時に無料低額宿泊所という施設への入所を求められる場合が多い。


     しかし、こうした施設は劣悪な環境であることが少なくない。個室がなく(個室と称されても、ワンルームをベニヤ板で区切った狭小な部屋だったりする)、食事がまずかったり、衛生環境が悪くて南京虫が湧いたという証言もある。また、保護費のほとんどを施設側に徴収され、手元に1〜2万円程度しか残らない。


     法律上、このような施設は本人の意に反して強制はできないので、断ることが可能だ。


    参考:「「プライバシー丸裸」はいいの? 日本の「貧困対策」に立ち向かうZ世代たち」


    ③待機場所として認められる場所


     無料低額宿泊所を断ったとしても、実際に寝泊まりする場所は必要である。代替策としては次のような方法が取りうる。


    (1)ネットカフェなどの民間施設に宿泊


     この方法を取った場合、役所からも宿泊費をいくらか支給してもらえる。生活保護の家賃額を日割りで計算した金額となる(都内だと約2300円)。


    (2)友人宅などに居候(いそうろう)


     一時的な居候であれば認められる。この場合には、担当職員が友人宅を訪問したり、友人に事情を聞いたりするなどの調査に協力する必要が出てくるため、友人の同意を事前に取っておいた方がいい。


    (3)NPOなどの民間シェルター


     前述の無料低額宿泊所を運営しているのもNPO法人であることもあるため見分けが難しいが、普通のワンルームのアパートを借り上げ、費用も最低限の家賃と管理費程度しか徴収しないシェルターも存在する。


     その他、自治体によっては借り上げアパートやビジネスホテルを期限付きで提供するなどの施策をとっているところもある。


    まずは相談を

     以上のように、実家から出て一人で「自立」して生活を送る方法を解説してきた。しかし、現実には役所による施設入所の強制が行われていることは多く(もちろん断ることは法律上できるはずなのだが)、自分自身の力だけではうまくいかないこともある。その場合には、ぜひ支援団体に相談していただきたい。


    引用先:https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20230211-00336349


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