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「下流中年」問題を自己責任論で片付けていいのか

2016.04.28

共著で関わらせていただいた『下流中年』(SB新書)が好調で、発売から3週間も経たないうちに3刷りが決まったという。講演会場へ持って行くために20冊購入を希望したら、著者に売る在庫さえないと言われた。

 やはり、働き盛りの世代には「他人事ではない」と実感している人が潜在的に数多くいることを改めて実感させられる。

非正規になって貧困化した中年層が直面する厳し過ぎる現実

 同書は、1970年以降に生まれた「就職氷河期」世代を中心に、新卒時に思うような就職ができないなどの理由で、契約社員や派遣社員として「不本意な非正規労働」を余儀なくされてきた中年層に光をあてている。

 こういう話を紹介すると、会社を辞めたのも、非正規になったのも、貧困化したのも「自己責任なのだから、社会のせいにするな」という趣旨の批判がよく寄せられる。 

 しかし、ネット上の書評には、<48歳の正規で働いていた人が、老親に介護が必要になり、いったん会社を辞めるというのは自己責任でしょうか>などと擁護する声も少なくない。

 一旦、非正規雇用の身になると、そこから正社員に這い上がることが社会構造的にもなかなか難しい「非正規スパイラル」に陥る。

 非正規労働者は、賃金が低いだけでなく、雇用保険や健康保険などに未加入の場合が多く、ボーナスや退職金に至っては、ほとんど支払われることもない。雇用も期限で区切られていることが多く、将来のライフプランが見通せないのだ。

「雇い止め」などで仕事を失えば、たちまち「貧困中年」に陥り、生活保護での生活や、引きこもるきっかけにもなっている。

第1章の雨宮処凛さんと萱野稔人さんの「生きづらさはどう変わったのか」についての対談では、2008年に廃業した人材派遣会社「グッドウィル」の日雇い派遣で当時、1日2回転する働き方をして月約30万円稼いでいたという男性が、今も禁止になったはずの日雇い派遣で引っ越し作業などをしていて驚いたという話が紹介され、派遣法改正後も何も変わっていない現実が語られている。

 第2章の赤木智弘さんは『我々はいかにして「下流中年」にさせられているのか?』の中で、バブル崩壊の余波を全身でかぶり、学生時代のバイト代と変わらない賃金を得ながら何とか生き延びてきた「下流中年」とは、“企業という「神」に選ばれなかった存在である”と説明する。

 そして、東日本大震災が起きたとき、避難所でホームレスが追い出されたという話を受け、家がないという状況は、家を失った人も、そもそも家を持たない人も同じであるはずなのに、“結局「持っていた人が失う」ことに対する同情は強くとも、「そもそも持っていない人」に対する同情が足りないのが、今の日本の現実”なのだと指摘する。

 第3章に登場する阿部彩さんは、『それでも、「下流転落」に脅えることなかれ』の中で、高齢者の貧困率は改善されてきているものの、女性や20~24歳をピークとする若者層、中年層の貧困率は増えていると、データに基づき紹介する。

 阿部さんは厚労省の研究者だった当時、孤立について、中年層の調査がないことに着目。「会話の頻度」や「社会的サービスを受けられるかどうか」などを統計的に調べたものの、その後の政権交代で関心が薄れてしまい、注目されなかったと話す。しかし、社会的に孤立した人々の過去で圧倒的に多かったのは、不登校や学校・職場でのいじめ、うつや引きこもり経験がある人たちで、「過去の社会的排除の経験を、挽回できる場がなく、ここまできたという状態」だったという。

下流中年になるか、ならないかは表裏一体

 筆者は、第4章の「12人のリアル」を分担した。

 実際に出会った方々は、それぞれの状況や背景は違うものの、話を聞いていて感じたことがある。

 10時間以上働かされて、月収10万円余りで何とか生活を維持している人がいた。しかし、自分が食うのに精いっぱいの生活で、親元に仕送りできる余裕もない。そんな非正規の仕事もいつ切られるかわからない不安定な環境で、結婚したいという希望はあるものの、現実には家庭を持つことも子どももマイホームも、とっくに諦めていた。

 別の都内在住の元会社員は、結婚式に1度も行ったことがない。九州にも北海道にも行ったことがない。同窓会にも行けず、着ている服や靴のファッションや休日の過ごし方にも、同世代の人たちとの差を意識させられる。

「僕も順調に歩んでいたら、そうだったんだろうなと思う。周りの人たちが普通に得てきたものを、自分が得られなかったという格差を感じるんです」

 そう男性は、打ち明ける。

 収入だけの違いではない。

「得られなかったものがあったとしても、立ち位置が違ったとしても、“仕事として面白みがあるとか、居心地がいい職場というだけでも良かった”」と明かす人もいる。

「持てる者」と「持たざる者」との格差は、想像がつかないほど大きいものがある。しかし、その「差」とは、過去の「いじめに遭った」とか「理不尽な目に遭った」とか、ちょっとした違いからくるものだ。

 今は「レール」の上にいる人たちも、これから先、何が起きるかわからない。誰でも「転落」のリスクはあって、実は、誰もが「表裏一体」のところにしがみついて生きている。

 にもかかわらず、1度レールから転がり落ちると、雇われる生き方で働かされる限り、2度と這い上がることは許されず、「敗者復活」できる道筋は用意されていない。それが、今の社会の現実だということを、当事者たちは教えてくれる。

中年層の貧困化によって
高齢者・子どもを支えられない現実

 編集部によると、同じ中年世代からの反応がかなり多いようだ。

 “非正規4割時代”にあって、なかなか正規社員に就けないのに「自己責任だから」と排除される。自分たちの世代は、そんな「分断社会の犠牲者」なのではないかとの感想も寄せられた。

 また、ベーシックインカムや人工知能などの登場によって、必ずしも稼ぐために働かなければならなくなる必要がなくなれば、もっとより良い社会になるのではないかという未来を期待する声もあったという。

 『老後破産』や『下流老人』では、我々がこれから高齢化社会に向かっていく中での貧困の課題を突きつけられた。また、最近では「子どもの貧困化」も問題になっている。

 しかし、こうした高齢者たちを介護などで養うことや、子どもたちを家庭や教育で世話していく立場である働き盛り世代の中年層が貧困化していることによって、高齢者や子どもたちを支えきれなくなっている。

 こうした「中年層の貧困化」にも目を向け、しっかり実態調査を行って、不十分なセーフティネットを構築していく時代になったのではないだろうか。

記事詳細 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/90513

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