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引きこもり当事者が明かす“ブラック支援”の実態

2016.05.19

手を差し伸べたつもりでも、当事者にとっては“押し付け”になっているかもしれません

「無理に外に引っ張り出そうとする」

「自分が今まで受けた支援は、人にゴールを設定され、押し付けられるような支援だった」

 引きこもり当事者たちが感じる“ブラック支援”ともいうべき「良くなかった支援」や「望む支援・良かった支援」のかたちが、引きこもり家族会が全国の当事者らに行ったアンケートによって、このほど浮き彫りになった。

 こうした支援に対する様々な声は、「引きこもり経験者」だけでなく、家族や支援者からも集められ、『Hikky Voice』というA4版の冊子にまとめられ、関係者に配布された。

引きこもり経験者、家族や支援者からの声が集められてできた『Hikky Voice』

 調査を行ったのは、43都道府県に59ヵ所の支部を持つ「KHJ全国引きこもり家族会連合会」。

 冊子を制作したのは、家族会ではありながら、引きこもり経験者主体のスタッフ5人だ。

 これらの声は主に、家族会のスタッフが、昨年度、全国22ヵ所で行われた『引きこもり大学KHJ全国キャラバン及び「当事者交流会」』の参加者1338人のうち、支援に対して回答した387人の声を集めたもの。 

 また、引きこもり界隈に関心のある多様な人たちの対話の場『引きこもりフューチャーセッションIORI』での対面聴き取りが行われたほか、KHJとIORIのホームページで掲載したWebアンケートの回答者51人の声も加えられた。

当事者が望むものとズレている
押し付け支援、中身のない支援

「従来の引きこもり支援は、“就労”とか“経済的に自立しましょう”といった型にはめる支援が多かった。その背景には、行政が成果を求めるという事情もあったんです」

 冊子の制作に関わったスタッフは、出版のきっかけをそう説明する。

本当に本人たちが望んでいる「支援」とズレがあるという声が、これまでも数多く挙がっていた。

「声を上げたくても、1人だとなかなか声を上げづらくて、本人の望む支援が見えづらく、本人の望まない「押し付け支援」を受けざるを得なかった現状がある。まずは、そのズレをきちんと見つめてみよう。本当に求められている支援とは、何なのかを『Hikky Voice』という当事者の声という形で表してみようということから、この冊子が生まれたんです」

 これらの声は、「引きこもり経験者」「家族(親・兄弟姉妹)」「支援者」の項目に分かれ、それぞれ「望む支援・良かった支援」「やってみたい支援」のほか、「良くなかった支援」(支援者以外)が記述されている。

「耳が痛いかもしれませんが、とくに“良くなかった支援”を読んでもらいたい」

 そう制作スタッフは、力を込める。

「制度だけで、中身のない支援が多すぎる」

 ざっくり読むと、本人や家族の多くはそんな受け止め方をしていることが、ぼんやりと伝わってくる。

 そもそも支援がなかったという声も少なくない。

 とくに、Webアンケートの結果を見ると、51人(本人42人、家族9人)のうち、「当事者会の参加経験がない」と答えたのは、その半数近い24人(本人21人、家族3人)。主な理由を聞くと、「当事者会の情報を知らない」を挙げた人が15人に上った。

「つながれる場所がない」「40歳以上は支援の対象にすらなっていない」

 自分の住む地域に、引きこもっている自分たちや家族へのセーフティネットがなかったし、制度の谷間の中で、「ここは自分の行く場所ではない」と遠慮してしまい、どこにもつながれなかったという声は多い。

「支援制度」には、年齢の上限があり、目的が「就労」しかない。あらかじめ「ゴール」が設定されてしまって、そこに進む選択肢しかない。

 ただ、「行ってみようかな」と思えるような居場所も含めた、社会に出て行くためのきっかけになるような場がないのである。

 誰のための、何のための支援なのか?今の「支援制度」そのものが、当事者たちのためになっているのか?

 そんな問いを突き付けられているような気がする。

「いいことをやっている」と過信
そんな支援者が当事者を追い込む

「ただの引きこもりという状態像だけを見るのではなく、その一人ひとりを見てほしい。人間として向き合って、一人ひとりの価値を認め、尊重していける支援。社会参加が目的になるのではなく、本人が自分の生き方、自分の生きる力を見つけられることが大事だと思う」

 そう制作スタッフは指摘する。

 これらの声から見えてくるのは、やはり「型にはめない支援」というキーワードだ。

「ここに載っている以外にも、人間不信や恐怖心から勇気を出した1歩が、支援者の一言によって傷ついて、もっと深く傷ついて人を信じられなくなってしまうという声は多いんです。そこから、また1つ勇気を出すには、さらに時間がかかってしまいます」

 例えば、冊子に記載はされていないものの、支援者から言われた言葉の中に「楽しもうよ」という言葉がよく出てくる。

大変な思いをして来ている本人に、楽しむ余裕などない。楽しむことができなくて苦しんでいるのに、さらにその言葉によって、追いつめられていく。何気ない一言なのに、本人にとっては楽しむことを押し付けられた感じがしたという。

「こういう場に来たら、笑顔で行こうよ」

 この「笑顔で」という言葉も、それができない自分がダメなんだと責められたり、追いつめられたりするという。

 支援者は、いいことをやっていると思って普通にやってきたことであっても、本人たちにはそう受け止められていないのだろう。

「支援者の中でも、不安を持ちながらやってらっしゃる方のほうが、本人の気持ちを想像しながらできるともいえて、本人を傷つけることが少ないといわれています。さも、いいことをやっていると過信している支援者のほうが、傷つけることが多くなるのかもしれません」(制作スタッフ)

 選択肢が狭まる支援は、とても窮屈だ。いろんな選択肢があっていいし、いろんな生き方があっていい。

「望む支援としては、何度失敗しても、何度間違えても、再びチャレンジできる社会になってほしい、という声が本当に多いことがわかった。支援を考えるということは、結局、私たちが住んでいる社会づくりを考えていくことだと感じました」

 初版の2000部は、日本財団の助成金を活用し、全国の家族会会員や行政機関、支援者に無料で配布。反響があれば増刷されるものの、有料になるかもしれないという。

「引きこもり大学 KHJ全国キャラバン2015」のホームページでもダウンロードできる。

記事URL
http://diamond.jp/articles/-/91465

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